NO161-NO170

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NO.161 銀の回収


水道水の水質基準には、一般細菌、大腸菌が項目に入っています。水質検査機関では理化学実験室と合わせて、細菌実験室が在ります。実験室には細菌を培養するインキューベーターと顕微鏡が揃っています。培養した細菌が大腸菌かどうかは、顕微鏡で確認します。この時スライドグラスに塗った細菌をグラム染色と言う方法で染めると、大腸菌などのグラム陰性菌は赤く染まります。(グラム陽性菌は青く染まります)最近の顕微鏡は接眼レンズの上にデジタルカメラが付いていてパソコンで画面を見ることが出来ます。画像を印刷したければプリンターで直ぐ出来ます。

私の若い頃にはこれをフイルムカメラでやっていました。風景写真に比べ、顕微鏡写真はレンズを通って来る光の量が少ないので、絞りやシャッター速度の設定が厄介です。更に現像はカメラ店にまかせるので、取りに行くまで、ちゃんと映ったか心配です。普通は細菌の画像はスライドグラス上で加熱して固定し、グラム染色をした物を撮影するので、露出計を使って、光源の明るさを調整したりしてゆっくり撮影しますが、動いている微生物を撮影する時は大変です。シャッター速度を遅くするとブレてしまい、速くすれば、絞りをいっぱいに開いても暗くて写りません。そこで高感度フィルムを使ったり、特別な現像をしたりします。御蔭で当時の細菌検査をしていた検査員は、普段カメラの趣味が無くても結構写真に詳しく成りました。

デジタルカメラは、昔のフィルムカメラ愛好者がそのまま使える様に、シャッター速度と絞りの設定は変わりません。フィルムカメラ時代は屋外ならシャッター速度は125,絞りは8か5.6にしたのを今でも覚えています。その他にASAとかISO値の設定もそのまま残っています。ASAとかISOと言うのはカメラに入れるフィルムの感度の値です。フィルムを使わないのでデジタルカメラには不要に思いますが、習慣で残っています。カメラには絞りとシャッター速度の設定があります。フィルムが感光して像が出来る為には、必要な光の量が決まっています。そこでこの二つで調整します。動きの速い被写体を撮影する時は、シャッター速度を早くします。すると光のあたる時間が減り、光量が減るので。レンズに付いている絞りを開いてレンズを通過する光の量を増やします。暗い風景を撮影する時にも、絞りを開きます。それでも光の量が不足なら、シャッター速度を遅くして、露出時間を増やします。この時気をつけないと動きのある物はブレてしまいます。 さらに遠視の方は経験あるでしょうが、焦点が合いにくい時は目を細くしませんか。レンズの中心と周りでは像の写りが違い、できるだけレンズの中心だけに光が通るように絞りを小さく閉じるとシャープな画像が映ります。絞りを小さくするので、シャッター速度を遅くしないといけません。カメラを持つ手を、肘を固定して写さないとブレます。

そんな時、もっと感度の良いフィルムがあれば良いのにと思います。それが在るのです。普段使うフィルムより感度の高い高感度フィルムです。ASAの値が2倍とか、4倍の物です。値段が高くても感度が良ければ、みんな使いそうですが、そうも行かない理由があります。 フィルムの感光の原理は以前の記事で書きましたが、フィルムの膜の乳剤の中に含まれている臭化銀の粒子が光が当って感光して銀に変わる化学反応が起き易くすれば良いのです。その為には臭化銀の微粒子のサイズを大きくすれば反応が起き易く成ります。高感度フィルムは粒子が大きく成る分、画像が粗く成ってしまいます。夜明けや夕方などの光の量が少ない時刻や、動く物をシャッター速度を短くしての撮影などの通常フィルムでは光の量が足りない時に高感度フィルムを使いますが、ネガを引き延ばしてプリントした時、荒い画像に成ります。少ない光の量で写す方法が他にあります。

スライドグラス上に載った細菌を固定せず生きたままの画像を撮りたい時です。顕微鏡の撮影は、スライドグラスを通過する光の量が少ないので、大変明るい光源を使います。あまり明るい光源を使うと熱を持つので、固定したプレパラートの撮影では、風景写真に比べて長い時間、数秒間シャッターを開いています。ところが生きた細菌ではこれでは動いてブレてしまいます。この時、あえて必要な時間より短いシャッター速度で写して、写真屋に持っていき、増感現像でお願いします、と言う方法があります。増感現像が出来る写真屋では、通常の現像時間より長い時間をかけて現像を行います。現像と言うのはフィルム上の臭化銀の結晶の中で、光に当ってできた銀の核(潜像)のある結晶を、還元反応で銀の粒子に変える化学反応です。光に当らなかった臭化銀には核が無いので銀に変わりません。現像液に漬ける時間を長くすると、銀の粒子に変わる割合が増加します。但し、全体のコントラストが悪く成ります。細菌の顕微鏡画像は以前はこうして撮影していました。写真屋からプリントが戻るまで、うまく撮れたか判りません。CCDカメラでその場でモニターに映す今では想像出来ないでしょう。

実験室の別の話です。CODの測定の話です。CODの測定は、サンプルの水を100mlほどフラスコに取り、この中に含まれている有機物の量を、過マンガン酸カリウムを加えて測ります。過マンガン酸カリウムは酸化剤で、有機物のような還元剤と合わせて加熱すると分解します。CODはこの時加えた過マンガン酸カリのうち、分解して減った量を測って、サンプル中の有機物の量を求めます。この反応では、有機物以外にも過マンガン酸カリウムと反応する物があり、事前に除いておかないと正しい測定結果が出ません。妨害成分の中には塩化物イオンがあります。塩化物イオンは硝酸銀の溶液を加えると塩化銀の沈殿に変わり、除去出来ます。塩化物イオンは水道水にも含まれるので、1回の実験に1gほど硝酸銀を使います。海水のサンプルでは塩化物イオンの濃度が高いので加える硝酸銀の量は多く成ります。CODの実験に使った廃液には大量の銀が含まれています。

写真(カラー写真も乳剤に臭化銀を使います)とCOD実験に共通した事は、廃液に大量の銀を含むと言う事です。当然、排水にしたり、産業廃棄物にはしません。資源として利用できる有価物として扱います。CODでは、試薬に使う硝酸銀より、廃棄物の塩化銀の方が1g中の銀の含量が少ないので、塩化銀の沈殿は同じ重さの硝酸銀の試薬と交換しても業者は損をしませんし、実際に業者は回収した沈殿の重さを測って変わりの試薬を置いていきます。まるで、ちり紙交換です。こうした商売が成り立つのは銀が貴重な資源で、鉱山から採掘するより、塩化銀の沈殿から回収する方がエネルギーが圧倒的にかからないだけではなく、銀が貴重な資源であり、循環させて使うべきだからです。

ガソリンの原料である原油は資源でしょうか。原油は資源ではなくエネルギー源です。資源は循環させて使う事が出来ますが、エネルギーは循環出来ません。原油は枯渇したら終わりで、ガソリンを別の材料からエネルギーを使って合成する事は出来ますが、ガソリンは資源ではなくエネルギーなので、他のエネルギーを消費して合成しても意味がありません。エネルギーの無駄使いです。

最近、水素燃料や水素自動車が話題です。ハイブリッドカーの場合はエネルギー源はガソリン自動車と同じで、ガソリンです。ハイブリッドカーでは一端エネルギーを電池に貯めて使うのでエネルギーの変換効率が良いと言うだけです。更に進んだと言うリチウムイオンバッテリーだけで動く電動自動車では、エネルギー源は発電所で作った電気です。リチウムイオン電池はエネルギーを貯めておくだけです。さらに進化したと言われる水素燃料自動車では、水素が燃料、エネルギー源です。ここで言う水素とは注意しなければいけませんが、前回の水素水同様に水素ガスのことです。水素と言う資源は海水などの水として無尽蔵にありますが、エネルギー源としての水素ガスは自然界にはほとんど存在しません。中学の化学実験で水の電気分解を行うので、水を電気分解すると水素ガスを作れることは承ですが、電気エネルギーが大量に必要なのも承知の筈です。資源として存在しない水素ガスを使った水素燃料社会を描くのは何か理由があるのでしょうか。ここでもまた影に原発です。原発で作った大量の電気で動かす電気自動車同様、原発の大量の熱エネルギーで水を分解して水素ガスを作ることが出来ます。【分類:化学】

[ 2017/01/25 ] 『黒姫高原理科教室』NO.161 銀の回収

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NO.162 つららとメノウ


つららは普通、下向きに下がっていますが、山小屋の大屋根から下がったつららはたまに横向きになっています。正確には屋根の軒から下がっているのではなく、軒先からはみ出た雪庇(せっぴ)の先にできたつららが、張り出してきた雪庇が重さでカールして丸くなり、先端に付いていたつららも一緒に丸くなり、横や上を向いてしまったのです。

晴れた日に軒下のつららを眺めていると、つららの先端から雫が落ちているのが見えます。こんな時は、今日は屋根雪が溶け、積もった雪の底から屋根の上を伝い流れ、最後に軒先のつららの先端から水滴に成って落ちているのが分かります。この時のつららは表面が溶けて透けて見えます。晴れた夜が明けた朝は、放射冷却で恐ろしく冷え込みます。こんな時は朝起きて玄関を開けると軒下に大きなつららが出来ています。屋根の端には、もっと巨大なつららです。どこからつららの氷の材料に成る水が来たのでしょう。

外の気温が0℃以下でも、屋根雪の下には雪の溶けた水が溜まります。この水が屋根の上と積もった雪の底の間を伝って、軒先で積雪の外に出ると、0℃以下に成っている外気温で凍るのです。但し瞬間では凍りません。水は過冷却と言って0℃以下に成っても直ぐには氷に成りません。逆に過冷却状態の水が凍る時は瞬時に氷に成ります。こうしてつららの表面を伝って下がって行った水が凍り、つららが成長します。

それでは屋根の上の積雪の底にはなぜ溶けた水が出来るのでしょう。外気温が0℃以上に成れば積雪は表面から溶け、積もった雪の結晶の間を伝って下がり積雪の底に溜まります。しかし外気温が0℃以上ではつららは成長しません。最初に書いたつららの先から雫が落ちる雪解けの風景です。0℃以下の屋根雪が溶ける説明に、ブログで見かけるものに、スケートの例があります。アイススケートがなぜ滑るかの説明に、スケートのエッジと氷の間に氷の溶けた水ができ、これが摩擦を低くしていると言うものです。氷は圧力をかけると、融点、溶ける温度が低く成る性質があります。これは化学の原理で証明できます。ところがこの場合の圧力とは何10気圧で1℃下がると言ったものです。計算すると人の体重ではスケートリンクの氷は溶けません。実はスケートの説明は圧力説でも、摩擦熱で氷が溶ける説でも、いまだにできません。アイススケートをやった方は、アイスリンクを時々水を撒いたり、専用自動車で削っているのを見たでしょうが、水浸しのリンクでも、メンテ直後のカリカリに凍ったリンクでも滑りは変わらなかった筈です。

屋根雪がその重さで圧力がかかり底面が溶けると言うのはこれと同じで計算すれば溶ける程の温度変化はありません。屋根雪を溶かすのは建物から出る熱です。薪ストーブを焚いたからと言って、屋根雪がすぐ溶ける訳ではありません。屋根まで熱が伝わるには、天井、屋根裏部屋、屋根と幾つか断熱材が間にあります。しかし雪も断熱材です。ゆっくり時間をかければ、徐々に熱が伝わっていきます。積雪を屋根を冷やす冷却源と考えず、マイナス何度かの外気温が屋根に伝わらない様にする断熱材と考えれば良いのです。

最近は山荘で越冬する様に成りましたが、最初の頃は大雪の季節は小屋を閉めていました。水道は凍結しない様に、地面の中の不凍深度に在る凍結防止栓を閉めて、小屋の配管は水抜きをします。問題は屋根雪です。年配のご近所さんが、無人で火の気がなくても、100ワットの電球1個で良いから点けておきなさい。自分の所はそうしているから、それで屋根雪は落ちますと教えてくれました。雪と言う断熱材に囲まれた内側にあるので、100ワットの白熱電灯でもひと冬の間点灯していたら熱源に成るのです。(LEDではだめですよ)

探偵小説ではつららを消えるナイフに使う話しがありますが、つららと言うと透明な円錐を思いませんか。朝、まだ溶けかかっていない、できたてのつららはそんな形ではありません。乾いたつららはタケノコの様に節でごつごつしています。数センチ間隔で節というか、くびれがあります。また先端は尖っていません。つららは下へ向かって成長しますが、同時に太さも成長します。この時の成長の仕方は、鍾乳洞で見る鍾乳石に似ています。外観もつららに色を塗れば鍾乳石です。つららは、霜のように水が瞬間に凍って結晶に成るのではなく、0℃以下に過冷却に成った水がつららの表面を伝って流れ落ち、それがある場所で急に氷になるので、不連続な成長をして節ができる様です。鍾乳石も、炭酸カルシウムを飽和して溶かした地下水が浸み込み、鍾乳石の表面を伝って流れ落ちる途中で結晶を析出します。これに似た化学変化があります。

食塩水と硝酸銀、塩化バリウムと硫酸と言う様に、二つの透明な液を混ぜると沈殿ができる化学反応が幾つかあります。クロム酸と銀の組み合わせでも沈殿が出来ます。クロム酸カリウムを溶かした水溶液にゼラチンを入れ固めて時計皿(時計のガラスの様なお皿の形、サイズは直径10センチ弱)に入れて置きます。少し黄色い色で透明です。この時計皿の中心に濃い硝酸銀の溶液を垂らします。硝酸銀の液は固まったゼラチンの中を浸透、拡散して行きます。クロム酸と銀が反応すると褐色のクロム酸銀の沈殿が出来ます。予想では硝酸銀を垂らした中心から、ゆっくりと反応して出来た褐色の輪が広がって行く筈です。ところが意外な結果が出ます。数時間後に時計皿を上から見ると同心円の褐色の輪が何重にも(普通に実験すると5ミリほどの間隔の同心円の輪が10個ほどできます)できています。この輪のことを化学ではリーゼガングリングと発見者の名を付けています。中学の理科クラブ等がよくやる実験です。このリーゼガングリングにそっくりなのが、縞メノウです。佐渡のお土産に売っている縞メノウの鉱石を輪切りにしたコースターはまさにそっくりです。実は同じ化学反応でできたのです。

飽和した溶液から結晶が析出する現象は、均一におきません。結晶は何も無い所ではなかなか新しい結晶を析出し難く、本来ならそれ以上溶けない濃度以上に成っても、過飽和状態のままでいます。一方、すでに結晶のできている場所では、先にある結晶の表面に新しく結晶を析出し易く、結晶の成長が早く進みます。こうして結晶のできない部分では新しい結晶はでき難く、いったん結晶ができた部分では成長が早いと言う不均一な成長が起ります。リーゼガングリングは、中心から同心円状に拡散していった銀が、成長し易い部分と成長し難い部分が交互にでき、輪ができるのです。縞メノウもマグマの溶けた成分から特定の成分が不均一に固まった物です。

つららの成長も同じ理屈です。つららの表面を伝って流れ落ちる水が、氷の成長の良い部分では新しい氷の成長が良く、ここが節として膨らみ、成長の悪い部分では、新しい氷が付き難い。昔なら金平糖の作り方を例に挙げるのですが、バームクーヘンを焼いているのを見た事がある方は、つららのごつごつとバームクーヘンの凹凸は同じ様な理屈です。自然界って、うまく出来ていて、表面の凹凸はいつの間にか埋め戻して補修してくれそうですが、生物が傷を自分で治す様に、実は逆なんです。均一な所から何かの理由でへこんだり、膨らんだ傷が一端できると、その傷を核にどんどん成長していきます。この仕組みは自然界のあらゆる所に観られます。宇宙の誕生も、地形の変化も、半導体製造でも。【分類:化学】

[ 2017/01/26 ] 『黒姫高原理科教室』NO.162 つららとメノウ

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NO.163 冬の大気は透明


水道水の水質基準には濁度、色度の項目があります。水道水は色や濁りを含まないことになっています。水道に異常がある場合、配管内部に鉄錆が貯まっていたら、赤水と呼ばれる鉄分が溶けだします。また土壌中の植物の腐敗した成分のフミン質が溶けだすこともあります。フミン質は濃いと茶色、薄いと黄色です。配管の工事で土砂が混入したり、水源地の土砂崩れで河川が濁った時には、大きな砂は早く沈殿しますが細かい粘土質の粒子はなかなか沈殿しないので水が白濁します。このように水道水に色が付いたり濁ることは水質異常の発見につながります。水道水の色や濁りは特別な機器を使わなくても目で見て判定できるので、古くから水質検査の項目になっています。目視で色を測る時には主に錆やフミン質の黄色い色を見ます。濁りは細かな粘度の白濁と比較します。

コップに注いだ水でも色や濁りは分かりますが、水質検査で正確に測る時は、色度は試験管に入れた水を、テーブルに白い紙を敷いて上から覗きます。黄色い色が水に付いていれば、白いバックに分かります。反対に濁度を測る時は、黒い紙の上に試験管を立て上から覗きます。白い濁りが黒いバックに目立ちます。

水道水質基準では、色度は5度以下、濁度は2度以下であることとなっています。5度とか2度と言っても慣れない方にはわかりませんが、水道の栓から錆びた赤い水が出る時は色度は100度を超えています。濁った河川の水の濁度も100度を超えています。慣れた検査員はコップに注いだ水でも基準値を超えていないか判定できますが、慣れない人は判定が難しいです。そこで実際には機器を使って水道水の色や濁りを測定します。

水道水に色や濁りが含まれていると、そこを通過する光を吸収します。試験管に水を入れ、横から光をあて、反対側でその光の強さを測れば、吸収して減った光の量が分かります。色が濃ければ通過する光の量は減ります。こうした測定は機械が得意です。こうして色度を測ることができます。

一方濁度を機器で測るのはもう少し複雑です。水に色が付いている時は、色の成分の濃度が濃いほど、まっすぐ水中を進んでいく光を色の成分が吸収するので、試験管から出てくる光は弱くなります。溶けている成分の量と試験管を通り抜ける光の量は相関関係があります。ところが濁った水では、光の進み方がまっすぐではありません。

夜、車を運転する時、ヘッドライトをビームにした方が遠くまで届きます。ところがく湖姫高原では夕方から霧が出ることが多いです。時には全く前が見えません。この時ヘッドライトをビームにするとよけいに見えなくなります。光が霧の粒子に当って散乱するので、全体が光り、先が全く見えなくなります。こんな時はライトをダウンさせたほうが遠くが見えます。乗用車で吹雪の夜の高速でライトの反射で前が見えず必死で運転している横をトラックが追い抜いて行くのはさすがプロの運転手と言うだけでなく、トラックの運転台の位置が高く、ヘッドライトの反射が少ないのでしょうか。

色度と言うのは、水に溶けている透明だけど色の付いた成分の濃度です。この成分に光があたると、光は成分に吸収されてしまいます。一方濁度は水に分散している細かな粒子のことです。横からまっすぐ進んできた光はこの粒子にぶつかると跳ね返って横や斜めに進路を変えます。まっすぐ進む光の量はその分減ります。黒い紙をバックに試験管を上から覗くのはこのまっすぐ進む光の減ったのを判定しているのですが、実は問題があります。

色も濁りも両方ある水ではまっすぐ進む光の減少を測ったのでは濁りと色のどちらで光が吸収されたのか区別がつかないのです。そこで機器分析では真っすぐではなく、横へ散乱した光の方を測ります。水中の微粒子に光が当って横へ散乱した光を測ると言っても、真横だけではありません。光は粒子に当って四方に散乱します。そこで、積分球という機器を使います。内部を光を反射する真っ白い塗料で塗った直径10センチほどの球です。濁度を測りたい水に光をあて、散乱した光をこの球の中に入れます。散乱した光はこの球の内部で白い壁に反射して光ります。散乱光が多いほど球の内部は明るくなるので、この明るさを測れば濁度に比例します。これが積分球式濁度計です。

 

冬のこの時期になると、都会のブログでは、東京から富士山がきれいに見えると言った記事を見かけます。以前は正月三が日は工場が休むので空がきれいだとか、環境問題の対応策が進み空気がきれいになったと言う内容でした。確かに夏に比べ冬は雪国でも、晴れた日には山並みがくっきり見えます。最近のブログでは、冬の寒い日には空が晴れ、富士山がきれいに見えるが、それは、冬の寒い日は天気がよく空気が乾燥しているせいで、水蒸気が少ないから大気が透明だからという説明をしたブログをよく見かけます。今日はこの説を検証してみます。

 

まずブログで見かける因果関係です。今朝はかなり冷えたと思って窓の外を見ると澄みきった空で、遠くの景色がよく見える。このとき「冬の寒い朝は空が澄み渡っている」という文は冬の景色を表わしているようですが、気象的には変です。黒姫高原の住人なら、雪が降らず星の出ている夜は、朝になるとマイナス10℃以下に気温が下がることを経験しています。晴れた空は、放射冷却で地表から熱が空というか、宇宙に向かって逃げていきどんどん温度が下がります。反対に雪が降っていた方が放射冷却は起きないので翌朝はそんなに気温が下がりません。金沢の冬は一日中曇った空で、おかげでそれほど気温は下がりません。たまに雲の無い星の見える夜は、朝になると水道管が凍っています。寒い日は晴れて空が澄みきっているのではなく、晴れた雲の無い日は放射冷却がおきて気温が下がり寒いというのが原因と結果の関係です。

冬には富士山が鮮明に見えると言うことを言う代わりに、富士山の画像を同じ条件でとったとき、夏より冬の方が鮮明だと置き換えて考えます。山に雲がかかっている場合は除きます。同じ晴天でも、夏と冬では見え方に差があるのでしょうか。気象現象としては、夏と冬の大きな差は気温でしょう。それ以外の晴天の日数や湿度は地域によって差があります。太平洋側の都市では一般に冬は乾燥しています。しかし日本海側の冬は湿度が高く結露しやすいです。表では加湿器、裏では除湿機が冬に売れることでも分かるように正反対です。

冬は空気中の水蒸気が少なくなるので、大気が透明になると言うことが本当か考えます。ところで水蒸気って目に見えますか。工場の煙突からボイラーの排気が白く昇っています。でもこれはヤカンの湯気と同じで水蒸気ではありません。液体の水を加熱すると気体の水蒸気になりますが、気体なので同じ空中の酸素ガスと同様に無色透明で目に見えません。気体の水の分子です。これが冷えると液体の細かな粒子になって湯気となります。粒子だから光を散乱して目に見えます。気体は中には色の付いた有色透明なものもありますが多くは無色透明です。普段湿度と呼んでいる空中の水分も、水の気体なので無色透明です。どうも学校で水の3態として氷、水、水蒸気と習うときに蒸気という言葉が湯気を連想させるようです。

大気中の水蒸気という呼び方は、このように本来の気体の水ではなく、水蒸気が冷えて液体になった細かな粒子状の水を連想させるので、普通は空気に含まれる水分のことを湿度と呼んでいます。ただこの湿度も紛らわしい性質があります。大気中の水分が多いと言う言い方でなく湿度が高いと言う時、ふた通りの解釈ができます。「太平洋側の地方では冬の方が夏より湿度が低く乾燥している」この言葉は、夏より冬の方が空気中の水分が少ないと言う意味ではありません。湿度は大気中の水分の量を表す濃度の値ではなく、それ以上大気中の水分が増えると水の分子は気体のままでは居られず、液体の水になります。これが結露です。この時の水分の濃度を飽和水蒸気量と言います。飽和水蒸気量は大気の温度によって変わり、温度が高いほうが水蒸気はたくさん気体のままで居るので、飽和水蒸気量は大きくなります。気温の高い夏の方が沢山の水分を含むことができるのです。気温が下がると飽和水蒸気量が減るので、今まで気体で存在していた水分が結露します。冬に窓ガラスが曇る理由です。

湿度と言うのは水分の量ではなく、飽和水蒸気量に対してどれだけの水分が大気中にあるかの割合です。湿度100%の空気は、それ以上は水分を含めず結露が起きます。湿度10%ならまだたくさん水分を含むことができるので、乾燥した空気です。冬と夏ではこのように、飽和水蒸気量が違います。夏の方が沢山の水分をたくわえることができます。太平洋側の冬は、夏に比べ単に水分が少ないだけでなく、湿度が低いと言うことは乾燥していると言うことです。

以前の記事で、空が青いのは光の散乱のため、海の水が青いのは光の吸収のためということを書きました。光が進む時に、まっすぐ進むはずの光の量が減る原因は散乱と吸収があります。大気中に含まれる気体、酸素などの分子に太陽の光が当たるとぶつかって進路が変わります。これが散乱です。雲が白いのは、光の波長に比べ大きなサイズの水滴に光が当って散乱するので、白く見えるのです。一方酸素の分子のサイズは光の波長よりずーっと短いです。それでもぶつかり散乱します。この時光の波長が短いほうが分子のサイズに近いので散乱しやすいのです。青い光と赤い光では青の方が波長が短く散乱しやすいので、空は太陽の光の中で青い成分が散乱して青く見えます。赤い光は散乱しにくいので、太陽の光を真っすぐみる方向にある夕焼けが赤いのです。

海の水が青いのは散乱ではなく、水の分子がうすい青色のガラスのように光を吸収するからです。青色のガラスは青以外の光を吸収するので、ガラスを通過した光は青く見えるのです。ただしこの水の分子の吸収は水の厚さが十分無ければ目に見えません。コップの水や気体の水分子では観察できません。

光には目に見える可視光線以外に、波長の短い紫外線と波長の長い赤外線があります。紫外線よりさらに波長が短くなるとX線になります。赤外線より波長が長い方は電波です。電波もBS放送や携帯電話用の短い波長から、アマチュア無線で地球の反対まで届く波長が100メートル以上のものまであります。実験室では分析に可視光線以外に波長の短い紫外線や長い赤外線を使います。水溶液に溶けた成分の濃度を、色がついた成分では可視光線をあてて色の濃さで測定できます。成分濃度が高ければ色が濃く、光を透過させれば吸収されて通過する光は弱くなります。この光の量を測定すれば溶けている成分の濃度が分かります。医薬品の成分には、色の無い成分でもありますが、目に見える波長では吸収が無くても紫外線をあてると吸収があります。こうして紫外線吸収で成分濃度を測ります。このときサンプルを入れて光を通過させる容器の材質が問題です。ガラスは透明ですが、これは可視光線を通すから目で見て透明と言うことです。ところがガラスは紫外線を通しません。そこで紫外線で分析するときには紫外線を通す石英ガラスやプラスチックの容器を使います。地球を覆っているオゾン層も紫外線を吸収するので、有害な太陽の紫外線が地表まで届きません。

色の着いたものと言うのは可視光線を吸収するから色がついて見えるのです、赤い色を吸収する成分が入っていれば赤の補色の青い色が着いて見えます。可視光線では透明なプラスチックやガラスでも赤外線を吸収する成分が含まれていれば赤外線をあて吸収される量を測り成分の濃度を測定できます。赤外線は赤外線ヒータに使われるように熱線とも言います。分子が赤外線を吸収すると、分子を振動させて熱になります。このように赤外線の吸収を測ることで分子の構造を測ることができます。これが赤外線分光光度計です。最近はFTIRと呼んでいます。FTIRでサンプルを測定する時、邪魔になる成分があります。それは水の分子です。水は大変赤外線を吸収するので、サンプルに水分が含まれていると水の吸収ピークが沢山出て目的成分の測定ができません。可視光線で測る分光光度計はサンプルを水で溶かしたものを測りますが、FTIRでは水ではなく石油に溶かしたサンプルを使います。大気中には水以外に炭酸ガスなど赤外線を吸収して熱にかえる分子がいろいろな種類が存在しています。

波長の短いX線から長いほうの電波までを全部ひっくるめて電磁波と呼んでいます。地球の大気の成分は、太陽を含め宇宙からやってくる電磁波を吸収する成分を含むので、地表に有害な電磁波が届きません。その中で可視光線だけは吸収されず通過します。そこでこのことを宇宙に開いた可視光線の窓と呼んでいます。おかげで地球の進化で生物は可視光線を利用して生きるように進んだわけです。電磁波の窓はもう一か所開いています。それが電波の窓です。地球から離れた人工衛星と通信できるわけです。

天体観測で、望遠鏡で夜空をみる時、夏と冬ではどちらが星が鮮明に見えるでしょうか。冬の晴れた夜空の方が星がよく見えそうですが、実は夏なんです。冬の星座はきらめいています。これが問題なのです。光の通過を妨げるものには、吸収と散乱以外に屈折があります。透明な空気も温度差で屈折率が変わります。晴れた冬の夜は放射冷却で地表と上空の温度差ができます。温度の違った空気の層では光が屈折して直進しません。これが星が瞬く原因で、望遠鏡での観測には邪魔になります。

空気中の湿度が高く、気温が下がり飽和水蒸気濃度が下がり結露すると、蒸発できない水分は細かな水滴になります。春に起きるこの現象を霞(かすみ)と呼び、秋の方は霧と呼び分けるようですがおなじ現象です。霞が出れば遠くの山の景色はかすみます。冬の間は日本海上空の水蒸気が飽和していて水滴になり雲を作ります。この水滴のおかげで黄砂はこの国まで飛んできません。冬以外の季節は絶えず大気には細かな黄砂が含まれています。海から蒸発する海水には塩分が含まれ、これも細かな粒子になって飛んできます。また大気中の水分も冷えると細かな氷の粒子になります。これらはすべて光を散乱させます。冬の季節風はこれらの微粒子を飛ばしてしまいます。冬に富士山がきれいに見えるのは、寒いからでも、晴れているからでも、水分が少ないからでもなく、季節風が原因です。太平洋側と日本海側で正反対の現象も、地球規模の大気循環として考えれば理解できるはずです。

ものの考え方に、帰納法と演釋法(えんえきほう)があります。簡単に説明すると帰納法はAの集団にはA1,A2,A3…と種類があった時、A1でもA2でもA3でも結果がBになったのでAはすべて結果はBになると推測することです。演釋法は、Aは必ずBになる。Bは必ずCになる。と言った場合AならばCと言いきれると進めていく方法です。演釋法は正しい答えしか出しません。帰納法の結論が間違いであることを言うにはひとつの例外を探せばその推理は間違っているのですが、世の中はつい帰納法で考えてしまいます。演釋法で正解が分かっている者から、帰納法で間違った答えを出している者をみるとついひとつの例外を教えて、間違っていますよと言いたくなります。これが間違いブログならいいのですが、相手が裁判官や政治家なら困ります。【分類:化学】

[ 2017/02/17 ] 『黒姫高原理科教室』NO.163 冬の大気は透明

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NO.164 LPガス容器


山小屋生活を始めた時は、料理用の薪ストーブと石油コンロで、あとはカセットコンロをテーブルで使っていたが、毎日の食事の料理をするには不足で、LPガスのグリルを台所に着けました。ガラス細工用のガスバーナーの燃料にもLPガスを使っています。積雪時期にはLPガス容器の交換が大変で、街では切り替え用に2本並列が普通ですが近所の山荘では4本並列が普通です。

実験室で超低温に冷やした実験を行う時には、液体窒素をよく使います。水道水の水質検査でも、カビ臭をガスクロマトグラフィーで測定するときのクライオフォーカス装置や、蛍光X線装置の冷却に液体窒素を使って冷やします。こうした時は、液体窒素はジュワー瓶に入れておくとしばらくは蒸発せずに使えます。ジュワー瓶と言うのはステンレス製で魔法瓶と同じ構造です。予算の都合で代わりにガラス製のタイガー魔法瓶を使ったこともありますが、多少蒸発してしまうのが早い以外問題なく、割れたりはしません。ジュワー瓶は魔法瓶の口の部分が長くなっていますが、密閉容器ではありません。超低温の液体窒素は室温ではすぐに温まって窒素ガスになって蒸発してしまいます。密閉しておいても熱が伝われば気体になります。密閉容器でないジュワー瓶では、断熱性に優れてはいますが、中の液体窒素は徐々に蒸発します。首の部分が長いのであまり熱が逃げません。(参考までに魔法瓶のお湯が冷えるのは蓋の部分から熱が逃げやすいからです。フタが厚く保温性のあるものを選んでください)液体が気体に変わる時には、気加熱として熱を奪います。液体窒素も蒸発する時、周りから熱を奪っていきます。このため、少しづつ蒸発して減るけれども、蒸発することで周りを冷やし、温度が上がらないように働いているのです。

同じ窒素でも、ガスクロマトグラフなどの測定機器に流すガスとして窒素を使うことがあります。この時は高圧ガス容器に詰めた窒素ガスをよく使います。家庭でもLPガスの容器につかう高圧ガス容器です。この容器のことをガスボンベとNHKのアナウンサーも呼ぶ様ですが、海外でボンベと言うと大変です。ボンベはドイツ語で爆弾です。英語でもアトミックボンブは原爆です。ガスボンベは毒ガスの爆弾ですから、間違って海外でガスボンベと言っては大変です。英語ではシリンダーです。日本語では面倒でも高圧ガス容器と呼ぶのが良いです。実験室でよく使うジュアー瓶の容積は20リットル入りが多いですが、高圧ガス容器は、良く使うものは人の肩までのサイズのものが多いです。このサイズの高圧ガス容器を呼ぶのに、7立米(りゅうべ)と業界では呼んでいます。7m3のことです。体積で7000リットルです。実際の容積は47リットルですが、なぜ7000リットルか解りますか。容器の中には高圧にしたガスが入っていますが、このガスを1気圧にした時の体積が7000リットルなのです。7000リットルを46リットルで割れば148ですから、148気圧に加圧して縮めてあるわけです。20リットルのジュアー瓶は、いっぱい詰まっていても、液体窒素は水より軽いし、容器も中が真空の空洞で軽いので、片手で持てる重さです。(安全のため両手で持ちます)

一方高圧ガス容器は重いです。高圧に耐えるため、頑丈な鋼鉄製で空の重さは50kg前後です。実験室での移動は設置を兼ねた専用の台車に立てて行いますが、業者が運搬の時、高圧ガス容器を少し傾けて立て、丸底の部分の円周の端を地面に当てて、片手で容器の側面を支え、残った手で容器を回転させて転がしていく姿がいかにも職人なので、良くまねをしました。タイヤを斜めにして転がす訳なので、うまく押せば回転して進んでいきます。ただし階段は抱きかかえます。若い子には腰を痛めるから真似するなと言います。と言ったように高圧ガス容器は大変重いのです。

ところで窒素ガスは、冷やして液体にするのと圧力をかけて高圧ガスにするのでは、どちらがコンパクトになっているのでしょうか。計算してみれば解ります。20リットルの液体窒素と7000リットルの高圧窒素ガスを比べます。これには気体1モルは22.4リットルというアボガドロ定数と、窒素分子の分子量は28と言う値を使えば計算できます。答えは7000リットルの窒素ガスの重さは約8kgです。いっぽうジュアー瓶の20リットルの液体窒素の重さは、液体窒素の比重が0.8なので、約16kgです。重さ50kgの高圧ガス容器にはジュアー瓶の半分しか窒素を貯めれないのです。

山小屋では、燃料にLPガスの高圧ガス容器を使っています。ところでLPって何のことでしょう。またですが、NHKのアナウンサーがプロパンガスって呼んでいませんか。LPって英語のリキッドペトロリウムです。リキッド(液化)ペトロリウム(石油)です。石油は英語ではオイルでなくペトロリウムです。日本語では液化石油ガスです。似たものに液化天然ガス(LNG リキッドナチュラルガス)があります。天然ガスの成分は主にメタン(分子量16)です。一方液化石油ガスは原油の精製で出てくるガソリンより軽いガスで、確かにプロパン(分子量44)が成分の一つです。頭文字が同じPですが、液化プロパンガスではありません。メタンもプロパンも通常は気体のガスですが、軽いメタンは液体窒素同様、超低温に冷やさないと液体になりません。それでも天然ガスのタンカーは容積を減らすため超低温に冷やした液化天然ガスを運んでいます。一方プロパンは室温でも冷やさないで圧力をかけるだけで液体になります。室温で圧力をかけると液体になると言うことは、液体プロパンを室温で保存できると言うことです。高圧ガスならば、100気圧以上に耐える頑丈な高圧ガス容器が必要です。極低温の液化ガスなら、ジュアー瓶や冷却装置が必要になります。ところが室温で液体になる液化石油ガスならば、数気圧に耐える密閉容器を使えば、室温で保管できるのです。この容器はそれほど重くはありません。LPガスの容器は薄い鋼板を溶接して作るので軽くできます。キャンプ用のコンロの燃料のカセットもLPガスです。

一方 高圧ガス容器の方は重いだけでなく、扱いが大変です。窒素ガスなどの高圧ガス容器は、中身を使い終わると業者に頼んで再充填してもらいます。この時、中に入っているガスを使いきってしまってから業者に渡すと、大変怒られます。気体の入った容器は液体と違って、空と言っても1気圧以下にはなりません。液体なら使いきって中身が空気に置き換わってしまいますが、気体は周りの空気圧以下にまでは中身を使えません。大気圧と同じになると圧力が無くなり、もう中のガスは出てきません。ところがこの状態までガスを使うと怒られるのです。必ず中に入ったガスの圧力を少し残しておかないといけません。外の気圧と同じになると、空気などの外の気体が容器の中に入る可能性があります。容器の中の圧力が少しでも外気より高ければ外の空気は入りません。

いったん空気の入った高圧ガス容器は、再充填の前に洗浄をしないといけません。液体の洗浄ではなく、気体の洗浄は面倒です。いったん中を真空にしてやるか、新しいガスで何度か内部を置き替えて汚染を除く作業が要ります。それで少し圧を残しておかないといけないのです。そのあと、新しいガスを圧力をかけて充填します。この時どれだけ充填したかを正確に測る必要があります。容器の容積が分かっているので、充填圧が分かれば計算できるでは、商品の計量にはなりません。そこで重い高圧ガス容器ごと天秤に載せて、充填したガスの量を重さで測るのです。50kgもある容器込みの重さを正確に1g単位で測る天秤が要ります。さらに高圧ガス取締法では、高圧ガス容器は再充填のときに洗浄だけでなく、容器の塗装を剥がし、傷が無いかを点検してからまたペンキで再塗装しないといけません。また容器には使える耐久年数があります。

そんな面倒なことをしないでも、ガスのたくさん入った大きな高圧ガス容器と、残量の減った小さな高圧ガスの容器を配管でつないで、二つの容器の元栓を開けば、圧の高いほうから低いほうへガスが移動して両方の容器の圧が同じになるまで、高圧ガスの小分けができるのではと考えませんか。高圧ガスの配管や口金の規格はJISで決まっているので、簡単につなぐことはできます。しかしこの操作を、空気が混入しないように作業するのは熟練が要ります。それよりこの作業をかってに行うと高圧ガス取締法違反になります。実はこうしたガスの小分けは、法律で高圧ガス製造に該当し、免許が要るのです。

実験室では、窒素ガスを使う時には、少量の時は、高圧ガス容器を使いますが、大量に使う実験では、高圧ガス容器を何本も使うのは大変なので、液体窒素を大きなジュワー瓶に入れておき、これを気化させて使います。プロパンなどの石油ガスでは、家庭でも液化ガスを容器に入れて使います。都会ではLPガスタクシーを見かけます。燃料のガソリンの代わりに、安いプロパンなどが成分の液化石油ガス(LPガス)を燃料に使います。石油ガスはガソリンと性質が近いので、ガソリン車のエンジンにそのまま使えます。後ろのトランクにLPガス容器を積んでいます。これもLPガスが室温で液体になるので可能です。液化ガス容器でなく、高圧ガス容器を積んだら重くて大変です。LPガスタクシーは、ガスが空になると、LPガス基地に戻って給油ならぬ液化ガス補給です。そのためガス基地の無い都市部以外では走れません。

実験室ではガスクロマトグラフの検出器などに水素ガスを使います。原子番号1番の水素は元素の中で一番軽いのです。原子番号14の窒素の重さの1/14です。アボガドロの法則にあるように、気体の分子は元素に関係なく、一定の体積に含まれる分子の数が同じです。数が同じなら、水素ガスは窒素ガスの1/14の重さしかないのです。先に7000リットルの高圧ガス容器に窒素ガスは8kgしか入っていないと書きましたが、水素ガスは同じ容器に約0.5kgしか入らないのです。軽い水素ガスを冷やして液体にするには超低温が要ります。水素自動車がつくられています。水素ガスを燃料にしていったん燃料電池で発電して電気モーターを動かすようです。車体が重い割に走行距離が無いようです。水素エネルギーについては、エネルギー資源としての問題が言われていますが、単に自動車に水素ガスを積むと言うことだけについても、ここまでの記事で問題があることが分かるはずです。

ガソリンなら軽自動車でも座席の下に30リットルは簡単に積むことができるのに、水素ガスはたった0.5kgしか入らない高圧ガス容器の50kgもの重いのを4本積んでも2kg これでどれだけの距離走れます?重さは大人4人分。さらに高圧ガス取締法の重さや、水素ガス補給基地、もちろんセルフスタンドなんて法律が許しません。実際に水素ガスで走る乗用車が作られていますが重そうです。ガソリンを直接燃やすガソリン車よりいったんガソリンエンジンで電気を作り、いったんバッテリーに貯めてモーターを動かす方がエネルギー効率が良いと言うことでハイブリッド車があるのですが、バッテリー分重くなります。それなら直接スタンドで充電する電気自動車の方が軽くなりそうですが、今度は1回の充電で走れる走行距離が短い欠点があります。水素自動車は両方の欠点、重くて走行距離が短い、を持っています。この国では、ものづくりに関わる技術者は、以外と設計だけしかできず、実際に作るのは“技術のもの”にさせますと言って自分ではやりません。海外ではそうした人をテクニッシャンとか職人とよび地位が高いですがこの国では“技術のもの”と言って立場が低いです。高圧ガス容器など触ったことのない技術者が水素自動車を設計しているのでしょうか。また技術者でなく学者なら水素ガスサイクルなんて無意味なものを考えないでしょう。この国の自称技術者にはおかしなひとがいます。【分類:化学】

[ 2017/02/17 ] 『黒姫高原理科教室』NO.164 LPガス容器

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NO.165 WECPNLと Lden


今回は理科教室の事務局から騒音についての原稿依頼がありましたので騒音測定の話しです。環境計量士の仕事に騒音の測定があります。騒音の測定と言うと、道路の交差点で騒音計を使って自動車騒音を測ったり、空港周辺での航空機騒音の測定が浮かびます。騒音には法令で規制値がありますので騒音測定は正確に測る必要があります。

騒音の測定は昔から騒音計と言うマイクロフォンに似た測定装置を使って測りますが、見た目は同じですが、携帯電話など無かった時代と今とでは性能がかなり違っています。こうした性能の変化をうまく使いこなしているのでしょうか。また航空機騒音は数年前に測定方法がLden法に変わりました。これもうまく対応しているでしょうか心配です。さらに消費税の変更などと同じで、便乗した悪知恵を考える悪人はいないでしょうか。

航空機の騒音の測定方法は以前はWECPNL(ダブルイーシーピイエヌエルとそのまま呼びます)と言う方法で測定しました。役人はW法と略したりしていますが、測る方は長い名前で覚えています。私が若いころ環境計量士の実習を行った時からこの方法です。WECPNL法は英語のようですが、航空機の騒音を測るこの国独自の方法です。道路騒音などの環境騒音は、騒音を連続して測り、一定時間の平均を出しますが、航空機の騒音は飛行場周辺で、離陸や着陸のたびに1機ごとに1日中測定します。昼間と夜間では同じ音でも不快さが異なるので夜間、深夜ほど重みを付けてます。当時の騒音計は今のように演算機能が無く、その瞬間の騒音値しか測れないのです。

WECPNL法は航空機1機ごとの騒音を全部測り足した値から平均を出します。騒音計のメーターの針の振れを瞬間に読むのは無理なので、いったんレベルレコーダーという機械で記録します。騒音計の目盛の振れの電気信号で取り出し、ペンレコーダーで紙の上にペン先の左右の振れとして画き、ロール状の紙を移動させて騒音の値を紙の上のインクの跡で波として記録するのです。後でゆっくり紙にあらかじめ印刷してある目盛からインクの波の高さを読み取ります。1回ごとの離着陸について、一番騒音の大きな波の値を読み取ります。この値を1日分合計するのですが、夜間の値は5倍とか重みを付けて平均します。これがWECPNL値です。

環境計量士が測定するものには濃度と騒音があります。騒音は濃度ではありません。濃度というのは、液体でも気体でも、濃度Aの物とBの物を等量混ぜれば(A+B)/2と平均値に成ります。あるいはAの量とBの量を合わせると合計でA+Bに成ります。騒音の単位はdB(デシベル)です。騒音ではこの計算ができません。100dBの騒音の横で80dBの騒音が起きれば聞こえるのは足し算した180dBではなく、110dB程度です。騒音は以外と測定が難しいのです。

ところで音とは何でしょうか。耳に感じる空気の振動です。鼓膜を振動させる空気の圧力です。騒音計はこの空気の振動の圧力をマイクロフォンで測っているのです。音には振動数(音の高さ)と圧力(音圧、音の大きさ)以外に音色があります。音の波形です。同じ音でも音楽と騒音では音圧が同じdB数でも不快さは全然違います。しかし騒音防止法では音の圧力だけを測り規制しています。せめてその音圧だけでも正確に測定しなければいけません。化学で扱うのは多くが物の量や濃度です。一方騒音などの物理量は濃度でなくエネルギーを測っているのです。耳に聞こえるのは圧力ですが、音は空気を振動させるエネルギーとして伝わります。実際の測定では音の大きさは音圧ではなく音圧レベルで表わします。圧力の単位は気圧などを表わすのと同じでPパスカルです。人に聞こえる音の大きさはかなり小さな音から大音量まであります。その音圧が、多くの人に聞こえる一番小さな音の何倍かを表すと、1倍、10倍、100倍、、、、、10000倍と大きな数字に成ってしまいます。これって化学で扱う何かに似てませんか。pHです。水中の水素イオンの濃度が、0.0001,0.001,0.01,0.1,,,と増えるとpHはその対数で表わし、4,3,2,1,,,と成ります。10倍水素イオンの濃度が増えるとpHの値は1変化します。Log10=1です。dBと言う単位もこれに似ています。音圧(単位は圧力Pパスカル)が人の聞こえる最小の音の何倍かを対数で表わしたものが音圧レベルで単位はdBです。

pH1の液体とpH2の液体を同じ量混ぜてもpHは平均値の1.5ではなく、1.2くらいなのはpHを平均したのではダメで、水素イオンの濃度0.1と0.01に戻して平均すると(0.1+0.01)/2=0.055 , log0.055=-1.25 だからです。音圧レベルの計算もこれと同様に元の値に戻して対数で計算します。騒音は音圧レベルと同じ単位のdBですが、音量と違って人の耳では周波数によって聞こえ方が異なることを補正します。騒音計でA特性とかC特性とか区別がありますが、これはその周波数での補正方法の違いです。最近はこうした周波数の補正はせず、フラットな測定に変わってきました。

航空機騒音の測定に戻ります。WECPNL法では航空機の離着陸の時の1機ごとの騒音を騒音計で測り、一番大きな時の値を読み取ります。この方法は航空機の騒音を正しく表わしていません。WECPNL法では、空港周辺では航空機の離陸はおおよそ20秒程度で終わり、その間航空機が近づくと次第に騒音が大きく成り頭上で最高音圧レベルに成り、その後遠ざかるにつれ小さく成るので、最高音圧レベルの1点を測れば良いとしたのです。しかし音の静かな民間旅客機と違って、軍用機は離陸する時、アフターバーナーを噴かせてエンジンを最高出力にして飛び立ちます。民間機ではエンジンに消音器が着いていますが軍用機ではそんなもの戦争には要らないです。航空機の騒音、不快感を正しく測定するには最大騒音の瞬間ではなく、騒音の続く時間の何十秒間の騒音を連続して測り積分値、騒音のエネルギー量を測らなくてはいけません。ところが当時はこうした積分値を直接測るには大変高価な装置が必要だったり、手計算で求めるには大変複雑な計算が必要なので、この国では法律で瞬間値でよいとしたのがWECPNL法です。

その後世の中は進化し、携帯電話の機能同様に騒音計でも色々な演算機能ができるように成りました。瞬間値ではなくエネルギーを測る機能もできました。そこで世界的な方法である積分法に航空機騒音の測定方法を変えることに成りました。この新しい方法がLden法と呼ぶ方法です。WECPNL法では瞬間の音圧レベルから騒音のエネルギーを近似的に計算しました。Lden法ではこの騒音のエネルギーを直接測定します。WECPNL方もLden法も単位はdBです。しかし計算方法が異なるので同じ騒音を測定しても値が異なります。WECPNL法で測るよりLden法の方がdB数で15程小さく成ります。そこで航空機騒音の規制値もLden法に合わせて変更しないといけません。規制値が変わりますが、騒音基準が変更されたのでなく測定方法が変わっただけです。

WECPNL法からLden法への変更は、この国の航空機騒音の測定方法が世界的に通用する方法に変わり、正確に成った様に思えます。しかし問題があります。騒音の測定は騒音計を使いますので学校の教室や道路の騒音は、騒音計さえあれば誰でも出来そうに思います。計量法で証明書を出すには環境計量士でないとできませんが、数字を測るだけなら学校の先生が教室の騒音を測ったり、デモの騒音を警官が測っています。しかし航空機騒音はWECPNL法で決められているので、以外と時間と手間のかかる方法で、計算も出来ないと値が出ません。ところが今では騒音計の進化で、スマホの感覚で騒音計のアプリケーションのボタンを押すだけでLden値が出るように成りました。ただしこの値が正しいとは限りません。音圧レベルの知識の無いものや騒音計のA特性、C特性も分からずに測った値が信頼できるでしょうか。騒音計の校正方法を知ってるのでしょうか。WECPNLの時には専門の環境計量士が車に機材一式を積んで現場に一日粘って測っていました。それが騒音計1台を持って現地調査と言って測り、機械がこの値を示しているから文句は無いだろうに成りませんか。

騒音の測定には、測定方法に大きな問題があります。汚染水のサンプリングでは汚水を正しく採水すればよいのですが、騒音の測定では測定場所が問題です。騒音は物ではなくエネルギーを測るのです。今、飛行場に向かった場所で航空機の発着の騒音を測定する場合、測定地点が空き地か、後ろに建物があるかで騒音の値は倍ほど変わります。空き地では音のエネルギーは正面からだけ来ますが、後ろに建物があるとそこで音が反射して前と後ろから音が伝わり、エネルギーは倍に成ります。暴騒音取締法と言うものがあります。暴力団の街宣車の騒音を取り締まると言う名目でできた法律や条例です。規制値以上の騒音なら逮捕です。実際はデモの規制です。この時、誰が騒音計で測定するのでしょうか。わざわざ環境計量士を警察が雇うでしょうか。警官が騒音計で測るなら、測定する瞬間、後ろをバスが通過すれば音が反射して騒音計の値は倍です。故意でなくても、警官に音圧レベルの知識があるとは思えません。文句を言っても、だってメータの値に間違いはないです。その後、この無知な法令は使われないようです。航空機騒音では、2機の航空機が同時に飛んだ場合とか、横で航空機以外の自動車などの騒音が混ざった場合など、細かい条件を補正しないといけません。成田空港の航空機騒音では、測定方法のせいで1本だけの滑走路の騒音を測った値より、2本ある滑走路の両方の騒音の方が小さく成るというおかしな結果が出たのは業界では有名な話しです。これも補正方法のせいです。

民間の旅客機のエンジンの性能が上がり、静かに成ってきました。航空機騒音の規制法でもエンジンの種類で規制値が異なります。騒音の大きなターボージェット機と新しいターボーファン機では値が異なります。ただしこうした規制法は民間空港が対象で基地はあくまで準ずる扱いです。民間機と軍用機では離陸方法も違います。それでも正確に音圧レベルを測定していれば良いのですが、環境計量士以外が測ったという値を信用できません。【分類:化学】

[ 2017/02/17 ] 『黒姫高原理科教室』NO.165 WECPNLと Lden

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NO.166 硬水の方がおいしかった


しばらく原稿が止まっていました。週末だけの黒姫高原に変わりはありませんが、単身赴任の出稼ぎ先が名古屋からまた元の金沢に変わり、移動で忙しかったのでした。また平日は金沢での実験室、週末は黒姫高原と言う生活です。

久しぶりで金沢の犀川の河川水を原水とした水道水での生活です。一番に感じたのは風呂での石鹸の泡立ち。今でも固体の石鹸にこだわっています。黒姫高原では、同じ信濃町の上水道でも水源が幾つかあり、黒姫高原地区では黒姫山の山腹に掘った深井戸から水源をとっているので、同じ信濃町でも他の地区は硬度の低い地下水に対して、ここだけ硬度の高い水です。その硬水のせいで石鹸の泡が立ち難いのです。

金沢では河川水が水源なので硬度が低く、泡が沢山立ちます。洗濯や手を洗う時も泡立ちが違いますが、一番感じたのはシャンプーの時、思いっきり泡が出ます。ただし黒姫高原でも、この程度の硬度ではまだヨーロッパの硬水よりは低く、パリに比べて、まだ泡が立つので平気です。

硬水は石鹸の泡立ちが悪いと言われますが、その通りです。石鹸の成分が硬度の成分のカルシウムと結合して石鹸カスに成るので、それ以上の量の石鹸を使わないと泡の出が悪い。汚れと石鹸が結合しないのです。でも石鹸の量を多めにすれば泡立ちは良く成り、すすぎを十分にすれば石鹸カスは除けます。今の洗濯機には、この様なすすぎ方もプログラムにちゃんと入っています。

洗髪も1回目で汚れを落とせば、2回目のシャンプーでは泡がちゃんと立ちます。石鹸の替りにイオンに分かれやすい硬水でも溶けるLAS系の界面活性剤を使わなくても、石鹸でも硬水で暮らせます。でも軟水の方が泡立ちが全然違います。やはり軟水の方が充実感があります。

ところで水道の味はどうでしようか。以前は金沢の水道水は水道名水100選にも選ばれ、実際飲んでいてもおいしいと思っていました。犀川の河川水を原水にした水道水は、水質試験を実際にやっていても、おいしい水の条件を満たし、自分で飲んでいても他の都会の水、都会の浄水場の中ではおいしいとされる木曽川の河川水を徳川時代からの御三家の力ではるばる他県から引き込んで原水とした名古屋市の上水道よりもおいしいと思って飲んでいました。

ところが黒姫高原の水道水をしばらく飲んでいると、久々の金沢の水道水を飲んでも、黒姫高原の水道水の方がおいしいと思うのです。これはなぜでしょう。金沢の自宅付近の水道水は犀川の原水を、緩速ろ過で浄水にしているので、急速ろ過の都会の水道水よりおいしいと言われています。それなのに黒姫山の深井戸の方がおいしく感じるのはなぜか?。

それは黒姫高原の硬度の高い水の方が旨みが有るからです。金沢の水道水は、あるいは名古屋市の水道水は大阪や東京の水道水に比べ、臭いや味に影響する汚染成分の少ない綺麗な水です。しかしそれは臭く無い、異臭が無い、異常な味が無いと言う事に過ぎません。都会の不味い水道水に比べれば不味く無い!と言う事です。

しかし不純物の無い水は不快感が無いと言うだけで、美味しい訳ではありません。水が旨いと感じる為には、ある程度の塩化物イオンや、カルシウムイオン、遊離炭酸が溶けている方が美味しく感じるのです。これは厚生労働省のおいしい水道水の要件にも示されています。

日本人が、ブログの連鎖と言うか、猿まねと言うか、一斉に軟水は美味しいとか、超軟水で美味しいと言っているのに対して、ヨーロッパでは飲むのは硬水のミネラルウオーター、料理に至っては日本人シエフさえ硬水の方が良いと言っています。軟水なんて味もそっけも無いです。硬度の高い黒姫高原の水道水の旨さに慣れて来ると、金沢に戻り、軟水の水道水を飲んでも、不味くは無いけど旨くも無いと感じた訳です。

数年前に初めて黒姫高原の麓の喫茶店で(カレー屋さん?)飲んだ水道水を旨いと思ったのは、不味く無い金沢の水道水を飲み慣れていて、不味く無い水道水が美味しい水と思っていたところに、コクのある旨い水道水、もちろん水質が良いので不味くもありません、に出会ったからでした。

たまたま数日前、復帰した金沢の仕事の関係で、長野県の水質検査のお偉いさんと懇親会で同席し、「長野の水道水は美味しいですよ!」と自慢されていたので、「美味しいと言われている金沢市の水道水より間違いなく美味しいです!」と思いっきり褒めて差し上げました。

ちょうどその横に新潟県の検査機関のお偉いさんが居たので、「長野県は山岳県なので、河川にダムを作らなくても、地下水、伏流水、湧水と水源が豊富で、地域ごとに浄水場の様な化学処理をせずに簡単なポンプと残留塩素の添加装置だけで上水道、簡易水道が出来るので素晴らしい県です。最近その水資源が狙われている様ですから守って下さい」と、長野県を水源地とした信濃川(長野県では千曲川ですが)を原水としている新潟県の方に聞こえる様に言いました。

確かに金沢市内でも、最近は水道水が美味しく無いので専用の浄水装置(蛇口に着ける程度でなく冷蔵庫程度の大きな物)を着けたコーヒー店を見かけます。でもこんな事をしても不味く無い水が出来るだけです。まず軟水が美味しいと言う先入観を無くさなければいけません。【分類:水道】

[ 2017/04/30 ] 『黒姫高原理科教室』NO.166 硬水の方がおいしかった

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NO.167 楠木は常緑樹?


黒姫高原の今年の雪解けは遅く、ようやく雪解けの地表に水仙の芽が出現し急速につぼみが膨らみました。一方舞い戻った金沢ではもう街路樹は新芽の季節です。自宅の庭では、杏子の開花、若葉。つづいてグミの開花と若葉。間もなくキウイの開花と順に果樹の開花時期が始まります。黒姫高原と金沢に植えた同じ樹齢の白樺は黒姫高原ではやっと雪の下から起き上がり枝だけなのに、金沢の方はもう若葉が沢山です。

また落葉広葉樹の唐楓と常緑広葉樹のサザンカも並んで生えています。そう言えば金沢の街路樹にはいろいろの種類が在り、唐楓も多く見かけます。唐楓やプラタナス等の落葉広葉樹は冬眠から覚め、若葉の芽が出る春直前の2月がちょうど枝の選定に良い時期の様です。長野ではこの時期が1月遅く3月で、リンゴの枝の選定が盛んです。

金沢の街路樹に多く見かける物にクスノキとブナがあります。ブナと言う名はグループ全体の名前なので、ケヤキと言った方が良いでしょう。前者は常緑広葉樹、後者は落葉広葉樹で冬の間の枝の様子は対照的です。

ケヤキは葉の無い冬の間に、枝の様子が良く判ります。幹から太い枝に分かれ太い枝がさらに細い枝に分かれる様子が綺麗に扇状に広がっています。上から見れば、たくさんの枝が1本にまとまり、それらの枝がまた集まり1本の太い枝になり、また集まって最後に1本の幹に成っています。その枝が全て横に向かず、綺麗な扇方に上から下に集まっています。この1本の幹に集合する枝の流れは葉のある時期にその機能が良く判ります。樹木全体に広がった葉にあたった雨が、葉から枝に伝わり、細い枝から中くらいの枝、太い枝と雨水が集まり、最後に太い幹の表面の樹皮を伝って川の様に流れ、根元の地面に流れていくのが雨の降った時に観察できます。ブナの森に降った雨はこうして全部ケヤキの樹の根元に集まる様に上手く枝が付いているのです。豊富な雨をさらに根元に集め、ブナの森が成長する為の上手い仕組みです。

黒姫高原に多い針葉樹は、カラマツ以外は冬も葉を着けています。針葉樹は広葉樹に比べ原始的な幹の構造で、水を吸い上げる仮導管は細くて根から樹の先端までつながらず、水は根から葉に上がる時に幾つかの仮導管を乗り継いで上がって行きます。その為、仮導管内に気泡が入っても液切れが無く、また樹脂に油が多く、針葉樹は槇ストーブで燃やせません。冬でも仮導管内の水は凍りません。

一方進化を遂げた広葉樹では水を吸い上げる導管は太くて、根から樹木の先まで1本につながっています。その為水を吸い上げる効率は良いのですが、北国では冬の間は導管内の水に気泡が入って液切れを起こしたり、凍ると春に成っても水を吸い上げれず枯れてしまいます。そこで広葉樹は冬の間、葉を落として逆に水を吸い上げられない様にして休眠します。

ケヤキは冬は落葉する、落葉広葉樹です。広葉樹は英語でハードウッドです。針葉樹はソフトウッド。広葉樹の木材が硬いからです。槇ストーブに使う広葉樹の楢と、針葉樹の杉の板の硬さを思い出せば判るでしょう。ハードウッドで樹皮がつるっとしたケヤキの樹は枝の付き方も木漏れ日を作る薄い葉も、常緑広葉樹に比べ落葉広葉樹の葉は1年で使い捨てなので薄いです。硬い樹皮も全部あわせ、ケヤキの樹は美しい樹形です。この時期はケヤキの樹は毎日若葉が増えて行きます。ケヤキの街路樹の植えられた道路を通勤で走ると毎日葉の量が変化しているのが判ります。

ツバキなどの常緑広葉樹は導管内の水が氷る心配の無い地域に育つので、葉を落として休眠する必要が無く、葉も栄養を貯め厚いです。雨も豊富なので、ケヤキの様に雨水を根元に集める機能は不要で枝は扇方でなく、ごつごつと生えています。

問題はクスノキです。北国にクスノキは在りません。暖かい地方の樹です。だから常緑広葉樹でしょうか。今の時期、名古屋ではクスノキの街路樹が沢山有りましたが、金沢でもクスノキの街路樹をよく見かけます。この時期、クスノキの根元には、たくさんの落ち葉が溜まっています。

そう言えば秋にもクスノキの根元に落ち葉を見かけました。実はクスノキは常緑樹と思われていますが、年中落葉しているのです。常緑樹は葉を2〜3年付けています。落葉樹は同じ葉を1年以上付けていません。多くの落葉樹は春に出来た葉を秋の終わりに一斉に落とします。ところがクスノキは葉を年中徐々に落葉させています。それでクスノキの根元には年中落ち葉があります。特に新しい葉の生えている春に、古い葉を落とすので、見たところ年中葉が有る様に見えますが、実は普通の落葉樹の様に1年弱でなく、冬を越してちょうど1年葉を付けているので、見た所が常緑樹に見えるのです。

クスノキの葉については以前の記事で、ダニの住処と書きました。寄生ダニが葉脈の付け根に巣を作っている(ほぼ全部の葉に)事は有名です。

通年で落葉するで、ケヤキの様にそろった大きさの葉でなく、ムラのある葉の付き方です。常緑樹よりは薄く、落葉樹より厚い中途半端な厚さの葉です。何よりいけないのが枝振り。暖かく乾燥の無い土地に生えているので、ケヤキの様に雨を集める必要が無いので、枝の付き方もいい加減で適当な枝ぶりです。

この国で巨木と言われる樹の上位の多くはクスノキです。トトロの樹もそうです。唯一クスノキの自慢はショウノウの原料に成る事です。でも各地にクスノキが多くみられるのはショウノウの生産の為で無く、成長が早いから植えたのでしょう。ショウノウの原料でなければ本当にウドの大木、不細工で体ばかりでかい。どこかに居そうな役立たずです。クスノキは嫌いです。【分類:植物】

[ 2017/04/30 ] 『黒姫高原理科教室』NO.167 楠木は常緑樹?

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