NO41-NO50

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NO41. 黒曜石

長野県の霧ヶ峰で矢じりが採れると学校で習いました。古代人は車山に登ったのかと思いながら、グライダーの飛ぶ高原で黒曜石の矢じりを探したことがありますが見つかりません。

佐久の方から霧ヶ峰に向かう国道の途中の道の駅で黒曜石を土産に売っていました。黒いガラスのかけら状というのがうまい表現です。鉱物は通常、結晶に成っています。石英や水晶のような大きな単結晶や花崗岩のようにコーヒー用の御砂糖の様に粒状に目で見えるサイズの結晶が集まったり、道端の玄武岩のように顕微鏡サイズの結晶が集まったものまで、鉱物は様々な結晶になっています。

結晶のサイズはマグマが冷える速度によります。ゆっくり冷えると大きな結晶になります。地表で急に溶岩が冷えれば玄武岩、地下で冷えれば花崗岩です。水晶の大きな結晶は、溶けたマグマの中で、純粋な成分だけが先に再結晶したものです。ところが黒曜石はマグマが水の中で急に冷え、結晶になる前に固まってしまった物です。天然のガラスです。

ガラスはケイ酸などの鉱物を細かくして溶かし、急に冷やした物で、結晶に成らずに固まった物です。規則正しい構造の結晶に成らず、液体のまま堅く成る温度まで下がったのです。固体は結晶のように規則正しく成分が並んだ物と表現するなら、、ガラスには流動性が有りませんが、まだ液体という事に成ります。その為、ガラスは結晶のような結晶面で割れると言う性質が有りません。黒曜石も、いわゆるガラスが割れた時のような貝殻状の割れ方をします。

古代人はこの性質を使って、黒曜石で矢じりを作ったそうです。霧ヶ峰で矢じりが見つかるのは、この黒曜石が採れたからです。新石器時代で石を加工したのですが、黒曜石はすでに矢じり状に割れて産出します。少し加工すれば鋭い矢じりです。道の駅で売っている土産は新石器で言う矢じりに加工した物と思う方がいますが、黒曜石は元々こんな形で掘り出されたものです。

ガラスと言うのは特定の組成のものではなく、こうした結晶に成らずに固まった物をさします。原料は石英と同じケイ酸だけのガラスもありますが、これは溶ける温度が大変高く加工しにくいので、ソーダやアルミ、ホウ酸などを混ぜ合わせた色々な種類が在ります。

[ 2015/09/02 ]  『黒姫高原理科教室』 NO41. 黒曜石

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NO42. 野尻湖

以前、黒姫高原に山荘を持っていた絵本作家のいわさきちひろさんは、よく野尻湖を窓から眺めていたそうだが、その場所に近いはずの私の住む山荘からは見ることができない。地図では視野内なのだが、周りの樹木が成長して視界を遮ってしまった。

野尻湖は噴火でせき止められて出来た湖と言われているが、東の斑尾山、西の黒姫山のどちらの噴火だろうと考え湖岸を周ると、北岸に関川を経て新潟に流れ出る川が在るだけで、流入する川が無い。地図で調べると、飯綱山、戸隠、黒姫山から流れてきた川がいったん伝九朗用水となって野尻湖に入っている。

冬の積雪時や春の雪解け時の湖面の水位に比べ、夏の野尻湖花火大会の時の水位が異常に低いことを感じた。桟橋の周りの水位が下がり、水面が沖まで引いてしまい、桟橋にボートが付けられないほどの水位低下だ。例年、表日本では夏の渇水でダムの水位が下がるニュースをやっているが、ここは水の豊かな土地のはず。野尻湖のこの大きな水位の変化について調べると興味あることが判る。

野尻湖は自然が作った湖を溜め池として使っているのです。そして日本で最初に出来た揚水発電所があります。花火大会で観客が集まる関川に流れ出る河口の横に、長野県は中部電力の管内ですが、東北電陸私有地と立札のある厳重なフェンスで囲まれた一画があります。中には水門や取水口、桟橋のような施設があります。これが揚水発電所の一部です。

野尻湖には幾つかの水利権が関わっています。もともと野尻湖は江戸時代から越後に水利権が有り、農業用水に使われていた。それを水利権の調整で一時は長野市の水道も野尻湖から取水していました。今は県内にダムを造り水源を変えました。野尻湖に入る水は伝九朗用水だけなので、夏場に新潟側が農業用水を使うと、野尻湖の水は枯れてしまいます。

そこで長野の山からの春の雪解けの豊富な水を関川から汲み上げ野尻湖を満たし、その水を田植え時期から農業用水に使う。冬は野尻湖の水位は高いので発電に使い、使い終わった水は積川に流す。春には発電所の発電機をモーターとして使い川の水を野尻湖に揚水する、日本で初めての揚水発電所です。この発電所を管理しているのが東北電力です。

ところで野尻湖の水を使って発電する電気と、関川の水を野尻湖まで発電機を逆にモーターとして電気を流して使うのと、どちらの方が電気が必要でしょう。当然モーターの効率は発電より何割も低いです。この揚水発電所はあまり知られていないかもしれませんが、実は国内に結構あるのです。知られていないのは、発電所といっても発電と揚水を比べると結局発電ではなく、電気を消費する発電所なので、発電量の統計にも入れられていません。不思議な発電所です。(次回に続く)

[ 2015/09/04 ]  『黒姫高原理科教室』 NO42. 野尻湖

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NO43. 揚水発電所

9.1以後、厚生労働省にもテロ対策マニュアルができ、浄水場の警備が厳しくなり、敷地の周りはフェンスとテレビカメラで監視しています。又、一般の受水槽もマンホールの施錠だけでなく、施設をフェンスで施錠し、昔は水槽に雨水や虫が入らない為の対策でしたが、現在は外部の者が立ち入れないことが水道の管理基準になっています。

排水用マンホールは落下防止などの安全対策が中心ですが、水道に関しては安全より原発に負けない程の治安対策です。浄水場は以前は中の建物まで行けたのが、フェンスの外のインタホンで確認しないと場内に入れまん。どうしてもこの国では、治安、安全、汚染、おいしさの順になってしまいます。おいしさより安全が優先の考えは一見正しそうですが、相反する内容ではないのですから。その点日本一のおいしい水を目指す名古屋市はりっぱです。

野尻湖の揚水施設も、厳重なフェンスと監視カメラのため、何の施設なのか、一般には分からないでしょう。 野尻湖は長野県で諏訪湖に次ぐ大きさだが、水深があり、貯水量では諏訪湖より多いそうです。関川につながる野尻湖唯一の川、池尻川の流出口の横にフェンスで囲まれた東北電力の取水口があります。

ここから関川まで送水管でつながり、その落差を使って発電をします。雪解け時には外から電気をもらって、発電機を逆にモーターとして送水管を逆に流し、関川の水を野尻湖にポンプアップします。野尻湖の取水口から地下を通る送配水管の側には補助ポンプのレンガ作りの建物もあります。関川の水をポンプアップするのは大変なエネルギーを要し、古いデータでも発電機の馬力より送水時のモーターの馬力の方が大きくなっています。

これを明治に日本で初めて作ったのは、技術力もすごいですが、水利権で必要があったのでしょう。もともと山国長野では、冬の雪解け水を貯めて、沈殿物を落とし、温めて農業用水にするため池がたくさんありました。野尻湖も天然の溜め池です。

只、流入するのが飯綱、戸隠、黒姫の山に降った水が伝九朗用水から入るだけなので、周辺の農業用水には十分でしょうが、ここに越後の水利権が入り、新潟に農業用水を流せば夏場は相当水位が下がるでしょう。さらに冬場も発電を続けるなら、水位は相当下がるでしょう。

関川の水をいったんエネルギーを使って野尻湖に貯めて使うのは、関川で直接発電、農業用水も関川から直接引く方が効率が良いように思います。プロバンスが映画の舞台にまで成ったのですから、農業用水の水争いは各地であるようです。野尻湖では、長野市の水道水源も、発電も、越後の農業用水の水利権には勝てなかったようです。しかし今は、環境や観光で、野尻湖の桟橋が干上がってしまうのはまずいでしょう。

山の湖に貯まった水は大変な量で、もしこの水を全て使うことができれば、 そのエネルギーは水量×落差(標高)で大変な値です。野尻湖の発電量は数千キロワットですが、その1000倍近い発電量の揚水発電所がたくさん作られています。野尻湖は年周期で運転しますが、それらは毎晩揚水します。

あまり知られていないのは揚水発電所が山奥にあり、電気を作るより使う方が多いので、リストでは発電所に入れないこともあります。発電所は水力、火力、原子力の順に出力の調整が困難です。水力は水門を開ければ発電出来ますが、原子力はいったん運転したら、次の定期点検まで出力を変えれません。

揚水発電は水力よりさらに早くスイッチ一つで発電から揚水に変わります。そのため原発の夜間の余った電力を貯めるバッテリー代わりに使われています。今大容量のリチウムバッテリーが作られていますが、1日分の電気を蓄えれる湖は桁違いなサイズです。但しこの場合、湖といっても人口湖が多く、山の上と下の2つの湖の水は毎日交代に空になるので、生態系は無視の巨大なタンクです。

[ 2015/09/04 ]  『黒姫高原理科教室』 NO43. 揚水発電所

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NO44. 高圧送電線

水力発電所はダム発電以外に、川の落差を使ったサイズの小さなものが各地にあります。この時上流の発電に使った水は落差というエネルギーがまだ残っているので、さらに下流に送って次の発電所で発電します。さらに第3発電所といった具合に続きます。このため山の中には送電線がたくさん在ります。水力以外の発電所も電力消費地から政治的理由で離れているので、各地に送電線があります。

一般家庭の掃除機などは、最近パワーを上げるのにどんどんモーターの消費電力を上げているので、コードが熱くなることがありませんか?電圧が同じ場合、流す電流が増えれば、熱で電力を無駄に消費しないため太い電線を使わないといけません。電圧と電流は反比例するので、電圧を上げれば、電所からの大量の電力をあまり消費せず、それほど太くない電線で送れます。そのため送電線を流れる電気の電圧は、高圧、超高圧になってきています

鉄塔と電線を結ぶ碍子の大きさ、笠が何重に重なっているかで電圧がわかります。新幹線の電線には25000Vの流れていますが、碍子は5段程度です。山の中の高圧送電線は10段ほどの碍子が2重に使われていて、50万Vです。間もなく100万Vになります。それでも電力会社のデータでは発電した電力は送電線からかなり逃げていくようです。

電圧を上げて細い電線を使う事とは違いますが、サイズの話にはこんな事もあります。最近 家電が軽く成りませんか?家電のボデイが軽く、ただの空の箱のように感じませんか?。昔の真空管は交流で動きましたが、トランジスタで始まる半導体は交流でなく直流で動きます。そのため家庭用の100Vの交流を電圧を落としてから直流に変えます。その時トランスという装置を使います。四角い鉄板を重ねて電線を巻いた重い電磁石です。これが電気器具の中に入っていたので重かったのです。

電線を流れる電気は、電圧が高いほうが細くできる性質がありますが、同じように、コイルを流れる電流は、周波数が高いほど小さなコイルで済む性質があります。家庭用の周波数は50または60Hzですがこの周波数を1000倍ほど上げるとトランスが小さくできます。今まで10センチ角程の鉄と銅の塊が鎮座していたテレビなどの家電からこれが無くなり、指先ほどのトランスに成りました。昔のラジオ少年は、古い電気器具から取り出した大きなトランスが宝物でした。ACアダプターも以前はコンセントに差し込むと重さで外れそうでした。この回路の事をスイッチング回路と呼んでいますが、大発明と思います。

もう一つ、あまり気付か無い事は、家庭に来ている電線がいつの間にか100Vから200Vに変わっているのです。うちは今でも100Vで引き込みの線も2本しかないと思っていませんか?。2本の電線の片方は100V,もう一方はマイナス100Vです。合わせて200Vです。どちらか一方の電線と中立の地面のアースの間から電気を取ると100Vが使えます。2本の電線で100Vと200Vの2種類の電気を送れるのです。よく見ると家の引き込み線3相でなく単相なのに3本ありませんか?。1本はこの中立線です。

これでいつでも200Vの家電が使えます。電圧が倍になれば今までの太さの電線で、倍の電気が使えるようになります。今は節電の世の中だったはずなのに、電力会社はもっと電気を使わせたいのでしょう。

[ 2015/09/04 ] 『黒姫高原理科教室』 NO44. 高圧送電線

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NO45. 飲料水健康危機管理実施要領

厚生労働省が表題のようなマニュアルを出しています。水道水だけでなく井戸水にも適応されます。名前から、災害時などに水の供給が止まった時、どの様にして水の供給をするかのマニュアルかと錯覚しますが、これは水道水の水質が何らかの理由で水質基準に不適合になった時にどうやって供給を止めるかというものです。災害の危機では無く、水道局の危機なのです。上水道は水質基準に適合した水を供給する為に浄水場だけでなく、水質検査にも高い能力を求めています。事故などで水道の水質が水質基準に不適になる恐れがあれば素早く水質検査を行い、不適合なら直ちに供給を止めます。

東北の震災でも、水道水源の放射能汚染で水道の供給をただちに止めました。おかげで東京でもペットボトルの買い占めがありました。我が家でも東京の子供から金沢の水を送れと言ってきました。しかしこれではトイレも使えないので、水道関係者間では見直しの動きも在ります。

水道法は厳格で、水質基準に少しでも不適のものが有れば供給出来ません。災害時、水道水はライフライン中で特に重要なものです。災害時は普段の水質基準を維持出来ないから水道の供給を止めるのでは無く、乳幼児などに飲ませる時は注意して、と周知徹底した上で、トイレや洗濯用に供給を続ける為に、法令を改正しようと言うのです。こんな事私たちから見たら今更と思う内容なのです。

反対におかしな傾向もあります。ビルの受水槽には大量の飲料水が蓄えられています。ただ、停電ではポンプが動かず屋上のタンクに水は送れませんから、災害時は、ビルの住民にさえ使え無く成ります。そこでこの受水槽に直接蛇口を取り付け飲料水を確保しようと言うことを、各地で始めています。こんな所に飲料水が有ったと発見したつもり?しかし、これにも問題があります。

災害時、厚生労働省でさえ余所の水道水を給水車で運んで来るより近場の受水槽に貯まっている水を給水に使いたくても、残留塩素が残っている保証が無くて給水に使えませんでした。さらに水道法では安全のため受水槽に、直接蛇口どころか他の配管をつなぐの事も強く禁じています。それを非常時だから安全も法令も無視と言うのは、額の狭いあのリーダーの安保の考えと同じです。まず受水槽の水が滞留して塩素が消え、細菌が繁殖したり、まずくなることを解決してください。名古屋市の様に、まず受水槽を無くした上で、水道管と水栓を直結し滞留の無い美味しい水を普段から飲めるようにするのが先です。災害対策はその次の段階です。

[ 2015/09/11 ] 『黒姫高原理科教室』 NO45. 飲料水健康危機管理実施要領

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NO46. 浄水処理困難物質

浄水処理困難物質ということを最近言い出しました。水道の高度処理は今までの浄水方法よりきれいな水道水と受け取りそうですが、水源に従来の浄水場では除去出来ない汚染が有る為、より高度な方法を使わないと除去出来ないと言う意味でしたが、今回も怪しそうです。

従来の水道水質基準にも、トリハロメタンとか消毒副生成物と言う項目がありました。残留塩素を加え浄水することで水道原水の中に新たに別の成分が化学反応で出来てしまうのです。(この有機塩素化合物が発ガン性がある為、残留塩素に発がん性があると誤解しているHPも見かけます)

最近、関東地方の水源でこんなことがありました。ある河川を水源としている水道水から大量のホルマリンを検出したのです。 しかし周辺にホルマリンの排出源はありません。調査の結果、ヘキサミンという化合物が原因でした。フルネームでヘキサメチレンテトラミンです。化学に詳しい方は独特の立体構造に記憶があるでしょう。工業的には接着剤などの硬化剤に使われます。独特の匂いがありますが、これ自体は水質基準の項目でもなく規制はありません。2液を混ぜる接着剤のあの匂いです。

ところがこの物質に残留塩素を加えるとホルマリンができるのです。ヘキサミンを含む水源水を浄水すると、有害なホルマリンに変わってしまうのです。調べるとこのような、規制物質では無いが浄水することで、かえって有害物質に変わる化合物が他にも在りました。これらを厚生労働省は浄水処理困難物質と呼んでいます。

新たに出来たホルマリン等は、もともと水質基準の項目に在りますから浄水処理は出来ます。しかし厚生労働省はこれらの化合物を当面は排出を調査、規制物質では無いので排出は禁止出来ませんので見守るようです。浄水処理困難物質と言う名称からは、高度処理でも浄水出来ないような化合物をイメージしますが、そうではありませんでした。

浄水処理困難物質と言うと、たとえば フッ素やホウ素のような成分を想像します。これらは自然界にも火山地帯などの水源に含まれますが、通常の浄水場では除去に採算が合わないので処理しません。水源を変えるのです。これらは工業活動からも出ます。その場合は水質汚濁防止法で排出量を規制しています。ところが浄水処理困難物質はそのものには毒性は無く、浄水することで初めて有害物質になるので規制出来ません。

最近たとえば愛知県では、従来水源を木曽川の上流から取水していたのを、高度浄水処理を行うように成ったので、下流の長良川河口堰から取水するこにしました。これでは浄水処理困難物質は増えるだけです。水道水は浄水方法ではなく水源をきれいにすることが本来のおいしく安全な水の確保です。

[ 2015/09/11 ]  『黒姫高原理科教室』 NO46. 浄水処理困難物質

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NO47. カルキ臭

水道水やプール水の塩素臭について、もう少し考えます。以前、水道水に加える塩素、次亜塩素酸塩を加え水中で残留塩素になるようにしている、のことを俗にカルキと呼ぶが正しくは残留塩素と呼ぶと言いました。水中の成分ではなく臭いについても塩素臭とかカルキ臭と呼びます。塩素臭とは何でしょう。この残留塩素を含む水道水の匂いもカルキ臭と呼ぶ方がいます。この塩素臭については、次亜塩素酸の臭いとか塩素ガスの臭いとかHPでも多説あります。Wikiでもはっきりしません。

実は、塩素と言う元素が色々な化合物を作ることに混乱の原因が在るのです。先に、水中に溶けている塩素と塩化物イオンを混同している化学の先生もいるという話をしました。食塩の成分が溶けた塩化物イオンと、塩素ガスが溶けた残留塩素は全く別物です。さらに話は複雑で、塩素剤と言うものには、塩素ガス、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸とたくさんあります。塩素原子の酸化数が幾つかある為です。そのため、塩素の化学反応は複雑で、臭いの成分を決めるのも簡単では無さそうです。臭いが有ると言うことは、塩素成分が空中に揮発しているのです。受水槽内部では、水中部分より水面より上の水槽内部の空間の方が錆ていることがあります。

水道屋さんは、はっきりしています。水中の残留塩素は、正確には遊離残留塩素と呼びます。水中にアンモニアなどの汚染成分があると遊離残留塩素はこれと結合して結合残留塩素になります。これが塩素による水処理です。結合残留塩素は悪臭があります。水道屋さんは遊離残留塩素を塩素臭。結合残留塩素をカルキ臭と呼んでいます。水道水質基準には臭気について異臭の無い事!と、ありますが塩素臭は異臭ではありません。カルキ臭は異臭です。水質基準に不適です。

塩素のように、同じ元素でも別の化合物を作る物ではなく、1つの元素が幾つかの化学種になる例があります。鉄は金属としての鉄以外に、酸化数2の緑の還元鉄イオンと酸化数3の黄色いイオンがあるのは絵具や焼き物の上薬に使われていますが、水道水ではクロムが代表的です。クロムには幾つかの酸化数が在り、6価のクロムの毒性は有名ですが、3価のクロムは生物にとって逆に代謝に必須成分です。 そこで水質検査では単に鉄とかクロムの濃度(全鉄、全クロム)を測ることから化学種ごとの測定の方向にあります。また規制も全クロム濃度ではなく、6価クロムの値です。

これは化学分析で鉄なら2価の鉄イオンと3価の鉄イオン、クロムなら3価のクロムと6価のクロムを分けて定量出来るからです。排水基準では6価のクロムとして規制値があり、検査方法も6価クロムを選択的に測る方法を指定しています。不思議なのは同じ厚生労働省でも水道水です。水道水質基準では6価クロムに基準がありますが、検査方法は排水のような6価クロムを選択ではなく全クロムを一括測定です。同じ検査でも排水は色々な成分が共存するので検査方法も選択性が高い方法ですが、水道水は共存物が少なく綺麗と言うのか、高価な測定機器を使って感度だけ追求しているように感じます。

[ 2015/09/11 ]  『黒姫高原理科教室』 NO47. カルキ臭

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NO48. アボガドロ定数

官僚と話すと、法律は名称の短いほうが上位だそうです。その認識が本当なら、2字の憲法が最高位、最近よく登場する長ったらしい名前の法令は下っ端。それでいけば3文字の計量法はかなり上位。私たちの国では、計量法で70余りの計量単位が決められています。これらは役人が勝手に決めたのではなく、国際的な基本単位が元に成っています。基本単位は7つ在ります。質量(キログラム)、長さ(メートル)、時間(秒)この3つは有名です。続いて電流(アンペア)、温度(ケルビン)、光度(カンデラ)と6つです。最後の7番目の基本単位があまり知名度がありません。モルです。他の単位はこれらの基本単の組み合わせで出来ています。速度は長さ/時間、ワットはアンペアx秒、 濃度は質量/長さの3乗(体積)と言う具合です。モルって、濃度の単位の一つかと思っていた方もいるでしょうが、7つの基本単の一つです。

昔、化学でモルとか、アボガドロ数とか習ったけど、その後、全く使う事が無いので忘れてしまった方も多いでしょう。アボガドロの法則とアボガドロ数が混乱している人も多いでしょう。アボガドロの法則とは、気体の分子は元素の種類に関わらず、圧力が同じなら同じ体積中に同じ個数存在する、というもの。アボガドロ数は22.4リットルの気体中の分子の数、6.02x10の23乗個でこれを1モルと言うと覚えさせられませんでしたか?。今、モルは次のように定義します。質量数12の炭素原子12グラム中の原子数と同じ数の構成単位の集団を1モルと呼ぶ。単位はmolで表わす。この数をアボガドロ定数と呼ぶ。

昔のアボガドロ数と呼んだ時代は、鉛筆が12本で1ダースと呼ぶのと同じような、扱うのに便利なサイズ(ちょうど原子量にgを付けた重さ)の単位と言うだけでしたが、物質量を表す単位として基本単位7つの一つと成り、ただの数でなく定数に成りました。原子や、原子からできた分子やイオンの量を表すのに重さで表わすと、1gの塩酸と1gの苛性ソーダを混ぜてもちょうど中和することはなく、意味のない単位です。一方物質を構成する原子や分子、イオンの個数からなる物質量の単位を使うと1モルの塩酸と1モルの苛性ソーダはちょうど1対1で反応し中和します。化学屋にはなくてはならない単位です。

化学を教える時には、原子の発見、周期表の歴史から初めて、化学史として教えることが必要です。一方アボガドロ数のように現代化学で再定義された説明も必要です。最近の若い子に化学を教えていると、中学、高校の化学の教え方に問題があるようです。教える側が化学の体系を理解していないように思えます。  化学以外でも同じでしょう。中学、高校の数学では先生は方程式のxを筆記体のxでなく、)( と全国的に書いているようです(今筆記体を教えないようです)。X’の読み方はPCをやってる方ならエックスプライムと知っていますが、高校数学ではなぜかダッシュと呼んでいます。理由を誰か知ってますか?pHもペーハーと教える教師がいるよう。さすが大学では正解を教わります。

[ 2015/09/16 ]  『黒姫高原理科教室』 NO48. アボガドロ定数

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NO49. マイナスイオン水と言う言葉

このブログの管理人であるうちの奥さんは、化学は不得手ですがpHをペーハーと呼ぶと教わったのはまだ記憶しています。職場でもペーハー派は多いです。計量法でもJISでもピーエッチです。旧文部省の学術用語もピーエッチです。ペーハーの語源は明治生まれのドイツ語世代です。数学のxの書き方やX’の読み方など高校には方言が残っているようです。スケベのエッチの語源同様、学校の先生とタレントを通して結構“方言”が広がっています。方言と言うのは、大昔、京都が都だった頃、公家が使っていた言葉が時間をずいぶんかけて地方に広がり、いつの間にか都で昔使っていた言葉が地方では今使われている言葉。ペーハーもだから方言です。但し公務員は方言はダメです。モルはSI単位と言います。

国際的な基本単位でしたが、pHもりっぱな計量単位です。計量法の定めた70余りの単位の一つ。濃度を表わす単位として法律にあります。読み方もしっかりピーエッチと書いてあります。実はpHは二通りあります。学校で習った時、水素イオンの活量とか活動度とか聞きませんでしたか?。学術的には水素イオンのモル濃度ではなく活量の指数と決められています。他方JISではある試薬を溶かした時の値がpHいくつと定義しています。理論と現場の違いです。公務員は法令順守のはずですが、法律を見ると、厚生労働省の水道法ではpHではなくpH値と項目名をわざわざ旧通産省系のJISと違えています。同じ厚生労働省でも排水の関係法令は水素イオン濃度となっています。

NHKのアナウンサーが今でもビニル袋と呼んでいます。公務員はポリエチレン袋はプラスチック袋と呼びます。さすが公務員は、ダイオキシン発生源の塩化ビニルと間違う訳にいかないでしょう。塩化ビニルは最近は電線の被膜以外使われていません。一般の方は、透明なプラスチックを目視や手触りで塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンと区別出来ないでしょう。ごみの分別収集で苦労されるでしょう。ただしプロの化学屋はすぐ区別できます。

マイナスイオン水と言う言葉を見かけます。以前トルマリンが流行ったころ、トルマリンの鉱物の屑石を入れたフィルターを水道水やプールのろ過装置に付けてアルカリイオン水と呼んで健康に良いと売り込みました。今でもエアコンメーカーまでもが、健康に良いマイナスイオンを発生すると売り込んでいます。マイナスの逆のプラスイオンは体に悪いと言うHPまであり、ここまで来るとお笑いです。イオンと言う言葉は化学で定義した言葉で、原子、分子などの構成単位から電子が取れたり、くっついたものを言います。化学の言葉ですから世界共通でそれぞれの国の言葉で、マイナスの電荷の電子が取れたら電気的に陽性に成り、陽イオン又は、カチオンと呼びます。電子が付加すると逆に陰性に成り、陰イオン、アニオンと呼ぶことになっています。

マイナスイオンと言う説明を聞くと、電気分解で水中で塩化物イオンや硫酸イオンと言った陰イオンを作るのではなく、水を電気的にマイナスに帯電させるようです。それならイオンと言う言葉を使う必要はなく、電気的にマイナスに帯電させた水と呼べばいいのです。(水が帯電するか否かは別の話)言葉では「黒い雪」と言えるのと同じです。ペーハーは方言として済ませましたが、アルカリイオンと言う名称は化学では使ってはいけない誤った名称です。商品の科学的説明には用いてはいけません。NHKのアナウンサー同様、知らずに使っているのなら、更にそこまで企業の化学のレベルが落ちたかと思います。

[ 2015/09/16 ]  『黒姫高原理科教室』 NO49. マイナスイオン水と言う言葉

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NO50. 水道水へのフッ素添加

水道水質基準の50項目の中にフッ素と言う項目があります。当然、基準値以上は健康のため含んではいけない成分です。以前、在職中に自治体の水道関係者から、水道水へのフッ素添加について相談を受けたことがあります。現在、海外ではアメリカ合衆国などで、虫歯予防の為、水道水のフッ素添加が行われている国がかなり有ります。在留邦人などが、その国で水道水にフッ素が添加されている為、強制的にフッ素を摂取させられていると言う話を聞きます。

最近はあまり話題にされませんが、日本でも以前、水道水のフッ素添加について議論が起きました。議論と言うことは虫歯予防のために、水道水にフッ素を添加すべきだと言うグループと、安全のためやってはいけないと言うグループに分かれ、論争が起きました。ちょうど今の原発や安保をめぐっての対立の様でした。

ただし日本での水道水のフッ素添加については、どちらかと言うと旧厚生省側の医師が推進派、歯科医からは反対意見だったような記憶です。国、厚生省があまり進めるべきではないと言うような煮え切らない意見でしたが、水道の大御所である日本水道協会が明確な考え、「水道水は本来原水に含まれている以外の成分を(残留塩素を除いて)健康に良いと言う理由があろうとも加えるべきではない。」を出したので、その後日本では一部の自治体を除き添加しないことが常識として定着したようです。私も以前の自治体からの相談に対しては、この日本水道協会の考えを紹介しました。

もともとフッ素は地質的に含まれている地域があり、その地下水を原水とした水道の供給エリアで子供の歯に異常(斑状歯)ができ、問題に成っていました。今ならフッ素は水質基準で基準値が決められていて、除去も困難なので、水源を変える等の対策が執られるでしょう。一方アメリカ合衆国などの医師で、子供の歯にフッ素化合物を塗ることで歯をコーテイングして虫歯予防をすることが行われていました。

これを水道水に添加することで国民的予防を進めようと言う考えを持つ行政側の医師がでてきました。歯医者でのフッ素塗布に比べ大変安く、水道水にフッ素化合物を溶かすだけですから、できます。結果アメリカの幾つかの州やカナダ、東南アジアの国で今でも行われています。

水道水は自然の綺麗な原水に何も添加すべきではないと言うことは、日本水道協会だけでなく、当然の考えです。浄水場では有害成分の除去はしても、人為的にある成分を添加すべきではありません。虫歯予防は歯科医での塗布でなくても、希望者はフッ素入り歯磨きを買って使えばよいのです。

公衆衛生学と言う分野があります。日本では明治以来、公衆衛生は役所の重要な仕事です。しかし公衆とは誰のことでしょうか。インフルエンザの集団接種は個人の健康のためではありません。風邪をひいたら思い切って休んで休養すればいいのです。ここでいう公衆とは会社、工場などの産業や軍隊が弱らないようにすることです。

水道水のフッ素添加を進める医師もこの考えです。だから今の原発、安保と同じで、学者、歯科医は反対しました。しかし原発と違い、日本では水道については厚生労働省より現場の水道協会に力量があり、フッ素添加の話は終わりました。ただし今でも一部の自治体では強制的に水道水のフッ素添加が行われているようです。

歯科医でのフッ素塗布にも問題があります。同じフッ素化合物にも、フッ化ナトリウムやフッ化水素酸があり、歯科医の間違えや、フッ化水素を使った犯罪が起きています。

[ 2015/09/25 ]  『黒姫高原理科教室』 NO50. 水道水へのフッ素添加

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