NO81-NO90

HOME

NO81. プール嫌い

前回はゼロ除算、分母が0になる分数の値について話しましたが、(分数の分母は0は禁止)他にもこの国の学校で教える数学は昔も今も独特のものが在る様です。数学以外の、たとえば英語では、世界的にパソコンの普及で若者が筆記体を書かなく成った様です。そのため学校でも筆記体を教えないようです。

ドイツのビールの看板などに在るカリグラフ文字はアルファベットのどれに当たるか今でも分り難いですが、今に筆記体の英語の看板が読めなくなるでしょう。しかし数学は世界共通です。ところが日本独特の教え方がある様です。 試しに色々な世代に数式に使うエックスを書いてもらいます。(読み方さえ数学の時には、わざわざエッキスと言う教師もいる様です)英語では活字体でも筆記体でも、大文字でも小文字でも、要はXバッテンです。ところが数式のエックスと言うとなぜか )( と書く人が多いのです。試しに奥さんに聞いても同じでした。理由は知らないけど、そのように習ったか、先生が書いていたという記憶でした。

友人に高校教師が何人かいるので聞いても同じです。彼らは理由を知っています。ギリシア文字のカイと言う文字と間違わないような配慮のためと、先輩教師から引き継いだ様です。英語圏の外国ではそんな配慮はしないで、英語と同じバッテンを使うようです。高校数学や物理ではカイを使いませんから心配無用。この国は肝心な基礎を教えず気配りばかり。

数学では他にもあります。A’を数学の教師は、Aダッシュと教えるようです。英語圏の人はAプライムと発音します。微分関数では生徒も教師もダッシュ連発。陸上でもないのに。誰かが言いだしたのでしょう。

化学のpH(ピーエイチ)を今でも昔のドイツ語読みのペーハーと言ったり、塩化物イオンを塩素イオンと言ったり、NHKのアナウンサーがポリエチレンシートをいつまでもビニールシートと呼ぶのは何故でしょう。学校の先生の勉強不足があるでしょう。先輩が古い言葉を使っているので、遠慮して同じ言葉を使う職場体質でしょうか。

その点、法令順守の公務員は、この点だけは褒めたいです。ビニール袋の廃棄物とは言わず、ちゃんとプラスチック袋と言っています。NHKのアナウンサーは、一方のニュースで塩ビを燃やすとダイオキシンが発生の原稿を読み、もう一方でスーパーのレジ袋に今でも塩ビを使っていると思っているのでしょうか。この国の受験教育に原因が有りそうです。

いまだに昔の言葉が使われているものに、水道の世界ではカルキがあります。カルキと言う名称は、もともとは水道の消毒に使われていた さらし粉 次亜塩素酸カルシウムのドイツ語から来ています。これも今だに昔の先輩達がドイツ語を使っていた名残と言いたいですが、カルキと言う言葉の使用には問題があります。最近はメーカーのHPではさすがにカルキと言わず、残留塩素と言う言葉を使っていますが、一般の方のHPでは残留塩素の代わりにカルキと言う言葉を見かけます。カルキは単に昔の言葉ですが、カルキ臭と使うのは問題です。塩素臭とカルキ臭はpHをペーハーと呼ぶ(これも計量法違反です)ように古い呼び方との違いではなく、別のものだからです。

公務員は残留塩素とカルキをちゃんと区別しています。今まで会った水道関係の公務員は、浄水場でなく役所に居る方もみなさん分かっていました。塩素臭は消毒に入れている次亜塩素酸などの残留塩素の臭いです。これは水道法では異臭ではありません。一方カルキ臭は残留塩素がアンモニアなどと結合したクロラミンと言う化合物の臭いです。これは異臭で、水質基準に不適です。

塩素の原子は原子価が多く色々の化合物を作ります。次亜塩素酸カルシウムを消毒のため水道水に添加した時にも、pHによって塩素ガス、次亜塩素酸、次亜塩素酸イオンに分かれますが、さらに1酸化2塩素などの化合物ができます。また最近は次亜塩素酸にかわって2酸化塩素も使われています。化学系の人でも混乱してしまいます。ウイキでさえ、次亜塩素酸を溶かした残留塩素の臭いについて、次亜塩素酸そのものの臭いと、次亜塩素酸溶液から発生する(次亜塩素酸分解物の)臭いとの混乱があるようです。

塩素臭とカルキ臭は幸い、水道法で決まっています。塩素臭は残留塩素から発する臭いです。水道の異臭を測る時はアスコルビン酸を加えると塩素臭が消え、他の異臭を検査できます。また通常の残留塩素濃度0.4mg/lでは、匂いに敏感ではない人には分からないようです。カルキ臭は残留塩素がアンモニアなど(アミン類)と結合したクロラミンの臭いです。きれいな水道水ではアンモニアは含まれないのでクロラミンができずカルキ臭はありません。

学校プールや遊泳用プールの水質基準は水道水と変わりません。プールでは水道水を使っていても、汚れや日光で残留塩素が分解して濃度が下がるので残留塩素濃度が0.4mg/l以上になるよう塩素剤を加えています。ところが水道水と違ってプールの水にはアンモニアが含まれています。汗やおしっこです。そのためプール水はクロラミンができてカルキ臭がします。

学校のプールは、学校環境衛生基準と言う法令で管理方法が決められています。大腸菌が検出された時は遊泳禁止で残留塩素の添加、測定をまずしますが、それでもだめなら水の入れ替えです。これにはたいへん水道代がかかります。1回の入れ替えで¥10万以上かかります。そのため水質の悪化が起きないようにろ過装置を終夜運転や(プール期間中は止めてはいけない規則です)普段から毎日5%程度の水が入れ換わるよう水道水を入れています。昔はこうした基準が無く、プール水はかなり汚れていて、残留塩素と反応してカルキ臭がしていました。また腰洗い槽と言って、残留塩素の濃度が100mg/l以上ある水槽に浸かってからプールに入らせられました。これは今は廃止でシャワーに変わりました。水泳部などでプールと言ったらこの臭いというひともいるでしょうが、このカルキ臭のためにプール嫌いや、嫌な思い出も多いでしょう。カルキ臭は水質が良ければ減ります。また消毒のためと言って残留塩素を必要以上に上げない管理も要ります。

水道水もプール同様、安全のためと言って必要以上に残留塩素の濃度を上げない管理が重要です。浄水場から一番離れた地域で残留塩素の濃度を確保するために、浄水場での添加量を上げると、上流では塩素濃度が高くなってしまいます。最近では中継地点で再度塩素の添加を行うことで、上流の塩素濃度を上げなくてもよいシステムができています。安全安心は重要ですが、安全管理は公務員のもともと仕事、使う側はもっとおいしい水が飲みたいと言うべきです。安全な水は塩素添加など浄水場でできますが、おいしい水は水源をきれいにしないとできません。【分類:残留塩素】。

[ 2015/12/09 ]  『黒姫高原理科教室』 NO81. プール嫌い

TOP

NO82. 学校環境衛生の基準

プールの話をもう少し続けます。学校の水泳はプールの横の更衣室に近寄っただけでカルキ臭くて、体育の授業は嫌な思い出だけど、休日に出かけたレジャープールは楽しい思い出だとか、子供の学校の夏休みのプール当番の思い出があるでしょう。プールの塩素臭がプールの嫌な理由の原因になっているとすれば、前の体育の授業で使った後の更衣室は汗と塩素が結合してカルキ臭が残っていたはずです。水泳部には塩素臭が爽やかと言う人がいますが、カルキ臭というかクロラミンは悪臭に感じるようです。

水泳プールは、管轄の役所で学校プールと遊泳プールに分けられます。プールの水質基準は公衆浴場同様、飲料水と同じレベルの水質の基準になっています。水道水に準じるので管轄は厚生労働省です。ところが学校のプールは管轄が文部科学省です。

学校以外の水泳プールを遊泳プールと呼び、厚生労働省が水質基準を決めています。学校のプールは文部科学省が水質基準を決めています。水質基準の内容はほとんど同じです。遊泳プールの基準はガイドラインで法令ではないので拘束力はありませんが、所轄保健所の指導は厳しく、万一問題が起きたら経営に関わりますので民間のプールは管理がしっかりしています。学校プールは以前は遊泳プール同様、ただの通知文書で、「学校環境衛生の基準」として教室の照度や黒板の色や換気と並んで、飲料水の水質やプールの水質のガイドラインでしたが、その後予算処置を伴うため法的拘束力のある法令になりました。名称も「学校環境衛生基準」となり、役所では、の ない方と区別しています。

従来は水道の配管が老朽化して鉄錆の入った赤水が水栓(蛇口)から出たり、少子化と水道水を飲まない習慣の悪循環で受水槽内の水道水の滞留時間が長くなって、前の週に溜まったまずい水を飲むことになり、受水槽の交換をしたくても予算がなかったのですが、法令化後は教育委員会は水質基準に適合しないときは予算措置をとらなければならなくなりました。

学校環境衛生基準では、水質基準だけでなく、プールの管理についても基準を設けています。その中のプールの循環ろ過装置について説明します。

プールの横の機械室には砂ろ過タンクがあります。背の高さほどの円筒形のタンクに砂が詰めてあります。プールの水はプールの底にある排水口から吸い込まれて、配管を通り砂ろ過タンクの上から注がれ砂の層を通ります。タンクの下から出た、ろ過された水は、薬液のタンクから塩素剤を添加されて残留塩素濃度を基準値まで上げたのちプールの水面下にある出口から再度プールに戻されます。プールサイドの水面上にある、水の出ている配管はこの循環水の出口ではなく、水道水の出口です。空のプールに水を入れる以外でも常に水を出して、新鮮な水でプール水を一部置きかえることになっています。ここでも、水道水は吐水空間を水面から離して逆流を防いでいます。またこの循環ろ過装置や塩素の添加装置は児童生徒が授業で使うときだけ運転ではなく、シーズン中は終日運転です。ところが夜間の騒音などに気配りして止めてしまう学校があるようです。

この構造は水道の急速ろ過の浄水場と同じです。浄水場には緩速ろ過と急速ろ過があり、いずれも砂の層を使ってろ過していますが、原理は全く異なります。緩速ろ過では砂の層には微生物が住んでいて水中の有害成分を分解して除きます。微生物が有害成分や重金属を栄養として取り込んでくれるのです。あとはたまにこの微生物の層をかき取って捨てます。急速ろ過ではただの砂で、砂の層は砂の隙間を通過しないサイズの固形物を除くだけです。プールも同じで、目に見える濁りが除かれるだけで、アンモニアなどの水に溶けた成分はそのまま通過して除去されません。そのため浄水場では、凝集剤と言う薬品を先に原水に加え、細かな汚れをフロックという大きな塊にして砂の層に引っかかるようにします。

砂の間に溜まった汚れは目詰まりをおこしますので、毎日、逆洗といって、貯水槽の下から逆に水を流して砂を洗います。プールの循環ろ過装置もこれと同じでタンクの下から水を逆に流しま砂を洗います。毎日は無理でも毎週逆洗の作業をしないといけません。また薬剤のタンクも空にならないようチエックや、流量の管理をします。学校ではどの先生がやっているのか大丈夫でしょうか。これでもアンモニアは除けませんから、前回話したスーパークロリネーションを夜間やる必要があります。浄水場では逆洗した排水は産業廃棄物になりますが、プールでは下水に流します。

民間の遊泳プールでは専門のプールの管理人がいますので、プロがこうした管理をしていますが、学校では体育や擁護の先生で大丈夫でしょうか。こうした雑用は教頭がやるのでしょうか。幸い学校には町の化学者である学校薬剤師が任命されています。卒業式に来賓として並ぶだけではありませんので、彼らを頼りましょう。

学校環境衛生基準ではプール以外に、飲料水、教室の換気 照明や給食などについて基準と管理方法を定めています。受水槽については、水道法の簡易専用水道、ビル管理法、建築基準法などと縦割り行政がかぶり無駄のようにも思えますが、学校の場合、無駄でも安全優先でよいと思います。昔の体育、運動部では水を飲ませないおかしな指導がありました。今は教育委員会が率先して運動中の水分補給を指導しています。水道水を飲ませない親もいます。水道離れの時代に学校の水道水がおいしくなるような予算措置ができるなら重複もよいでしょう。

参考までに学校環境衛生基準には雑用水と言う名称で、雨水をためてトイレに使う基準もあります。ビル管理法の排水の再利用の中水道とは少し異なります。校舎の屋根に降った雨水を地下タンクに貯めトイレに使おうと言うのです。

学校環境衛生基準は大変優れた法令で強制力があり、昔のように不良個所があっても予算がつかないと言うこともできません。問題は学校の先生が教育以外の事務に追われて、環境衛生を理解する時間は大丈夫でしょうか。【分類:学校】

[ 2015/12/11 ]  『黒姫高原理科教室』 NO82. 学校環境衛生の基準

TOP

NO83. 名古屋市水道

先に長野県の地質で触れた寝覚めの床のある長野県南の木曽川流域は高級な木材、木曽檜の産地です。檜の天然林の山は信州にあっても、御三家 尾張藩の領地で厳しく管理されていたのは時代劇にもよく登場します。切り倒された檜の丸太は筏にされて木曽川を下って尾張藩まで運ばれます。いわゆる木曽のなかのりさんです。木曽川は今のJR中央線に沿って下り、東から順に木曽川、長良川、揖斐川として伊勢湾に注ぎます。

木曽川が愛知県に入った地点にある犬山市の犬山城のある山のふもとの川岸から南に向かって春日井市を通って、名古屋市北部までをグーグルマップで見ると、1本の緑の筋があります。自動車道路ではなく、植物の植えられた幅10メートルほどのベルトです。中間の春日井市には長方形の巨大な池があります。春日井市の浄水場にも貯水池の四角い水面が近くにありますが、それより大きな四角い池です。グーグルを拡大してストリートビューにすると、この緑のベルトは植物帯のあるサイクリングロードになっています。

これが名古屋市水道緑道です。なんと明治に作られた名古屋市の水道のために木曽川の水を引いた水路です。犬山付近から名古屋市に向かって南下すると途中、庄内川などの河川があります。また名古屋市のすぐ西には木曽川、長良川、揖斐川の河口があります。名古屋市の周りにはいくつか川が流れていますが、これらの近くの水源を使わず、わざわざ遠く犬山から木曽川の水を引いたのです。

木曽川は下流に向かって左岸が尾張藩、右岸が美濃藩です。美濃側の堤防は尾張側の堤防より1メートルほど低く作る不文律があったそうです。当然暴れ川の木曽川は美濃側に氾濫、尾張は被害なし。輪中というものがあります。木曽川の河口部の尾張と反対の地域では堤防が低く常に洪水にあっていたが堤防のかさ上げができないので、集落を堤で囲みました。これが輪中と呼ばれる集落です。ここまで書けば当時の尾張藩の木曽川上流の木曽谷から河口まで強力な水利権があったことが分かります。

明治になっても尾張藩の領地の木曽谷は長野県ではなく国有林になりました。木曽檜と水利権はなかなか地元に戻りません。こうした江戸時代から続く強い藩の水利権は、各地に残ります。尾張藩の流れを引く名古屋市が水利権のある木曽川の水を遠く犬山から水路を作り名古屋市の鍋屋上野浄水場まで引いて、明治の産業の発展に伴う水道の需要に備えたのです。

当時の水路は、今、各地にある農業用水路のような掘った水路でした。そのためまだ流域は田畑がほとんどですから、勝手に水を汲んで田畑に撒いたり、逆に糞尿が流れ込んだりしたはずです。そのために用水路にふたをして暗渠にしました。その蓋の上が緑道になったのです。その後、暗渠はダクタイルの鉄管が埋められ、現在に至っています。グーグルで見えた巨大な長方形の水面は沈殿池です。木曽川から引いた水はここで流れがゆっくりになり砂や泥が沈殿します。さらにここからまた送水管を通って名古屋市北部の鍋屋上野浄水場に送られます。緑道はまだ北に続いています。鍋屋上野浄水場は緩速ろ過です。ここで浄水された水道水は緑道の下に埋められた導水管を通って、少し高台になった場所に立つ配水塔に送られます。ここで緑道は終わります。

名古屋市の水道は古くから作られ、木曽川のきれいな水源、緩速ろ過のおいしい水、配水塔の上の巨大タンクにいったん貯め、その高さを使って落差で各家庭に配水するので、停電時にも水道が使えます。さらに各家庭に送る水道水を冷たいうちに時間をかけず送るように、おいしい水を追及しています。

同じ愛知県では、敗戦後に灌漑用に愛知用水ができました。名古屋の南の知多半島の水不足を解消するため、やはり木曽川から水を引いた用水路です。それでも知多半島の水不足は続きます。今度は木曽川、長良川、揖斐川の河口部に河口堰を造りそこに河川水を貯めて水道の水源にして知多半島に送ろうと言うのです。昔なら都市の排水が出た下流の河口部の水を水道の水源になどできませんでした。高度水道処理と言う化学処理をやることで下水の排水口より下流の河川の水を水源にできるようになったようですが、味は保証できません。この河口堰計画は当時長良川河口堰問題として環境問題になりましたが、知多半島への送水はあまり問題にならず進んだようです。

尾張藩時代の水利権がまだ続いているようです。殿様は上流のきれいな水を飲み、下々は下流の水を使えと言うことです。【分類:浄水場】

[ 2015/12/11 ]  『黒姫高原理科教室』 NO83. 名古屋市水道 

TOP

NO84. 遊離炭酸

厚生労働省の関連団体から、水道水のおいしい水の条件がでています。その前に、私たちが水道水をまずいと思うのはどんな時でしょう。仕事で東京か関西のビジネスホテルに泊まったのを想像してください。洗面所にはコップが置いてありますが、水栓(蛇口)の水は冷えていなくて生温く、塩素臭が強く、おまけに金気臭いしカビくさい、こんなことは学習済みで、最初から自販機でペットボトル入りの水を買うでしょう。中には一度沸騰させれば揮発性の成分が抜けるからと、備え付けのポットで沸かす方もいるでしょう。備え付けのティーパックがまずいのは別です。この条件の逆、冷たくて嫌な臭いがなければ水道水もおいしく感じます。また水道水がおいしくない理由は水道水そのものより、建物の受水槽や配管に原因があります。

おいしい水の条件に、適度なミネラル分を含むとありますが、水道の専門家でも舌でミネラル分を測るのは難しいです。まして金気以外の金属やVOCなどの有害な微量成分は味では判別できません。おいしい水の条件の中に遊離炭酸という項目があります。おいしい条件として 遊離炭酸の濃度が3から30mg/lとあり、解説に遊離炭酸があると適度な相快感があるとなっています。ところで水質基準にも遊離炭酸があり、こちらは20mg/l以下となっています。おいしい水の条件では水質基準を超えて不適になります。

おいしい水の条件は、水質基準ではありませんのでこうした数字の範囲がずれるのです。 水質基準は、人の健康、安全のためや、洗濯やトイレなどの生活上の理由から数字が決められています。おいしさからではありません。

遊離炭酸についてもう少し詳しく考えます。一般の方が水道の成分表を見た時、他の水道水の成分、鉄とかナトリウム、塩化物イオンなどに比べ遊離炭酸は何のことか分かりにくいと思います。簡単には水に溶けている空気中の炭酸ガスです。

空気中の炭酸ガスは水に溶けます。炭酸ガスは温度やpHで溶ける量が変わります。良く冷やした缶ビールと生温い缶ビールでは泡の出方が違います。炭酸ガスは水温が低いほどよく溶けます。泡は溶けずに残ったガスです。生温いビールでは溶けない炭酸ガスが多いので、缶を開けると大量の泡が出ます。また炭酸ガスは酸性の水には溶けにくいです。コーラにレモンを入れると泡が出るのはそのためです。

炭酸ガス(CO2)は水に溶けると水の分子(H2O)と反応して炭酸(H2CO3)になります。一方水の中にはすでに炭酸を含むイオンがあります。地下水が石灰石(炭酸カルシウム)を溶かし、炭酸水素イオンとなって水中に溶けています。炭酸水素イオンはカルシウムやナトリウムなどの陽イオンと対になる陰イオンで水中に大量に含まれています。このイオンは味はありません。炭酸ガスが溶けた炭酸の方はイオンになっていない分子のままで(これを遊離といいます)遊離炭酸と呼びます。

遊離炭酸は炭酸水の炭酸です。炭酸を含んだ水は相快感がありますが、多いと刺激になります。しかし水道水中の遊離炭酸は通常1とか2mg/lといった濃度で、水質基準の20にはなかなかなりません。

空気中の炭酸ガスが水に溶けた遊離炭酸は炭酸水の炭酸で、爽やかさとしておいしい水の成分です。石灰石を地下水が溶かして生じた炭酸水素イオンは水道水の主成分で味はありません。それぞれ水質基準では別の成分の項目です。しかし化学では相互に関係しています。たとえば、大気中の炭酸ガスが海水に溶け炭酸になりますが、海水中のカルシウムと結合し炭酸カルシウムとなって、石灰岩や貝殻になります。大気中の炭酸ガスはまた雨水に溶け、海底が隆起してできた石灰岩の地層を通る時炭酸カルシウムを溶かし、炭酸水素塩となって地下水に溶けます。こうして地球規模で炭酸の循環が起きています。

最近ではこうした自然の炭酸の循環以外に、地球温暖化で大気中の炭酸ガスの吸収を人工的に考える必要があります。水中には実はそれほど炭酸ガスは溶けないのです。溶けても数mg/lです。だから炭酸飲料水は、加圧して無理やり炭酸ガスを一時的に溶かしても、栓を開けた時に溶けない分の炭酸ガスが泡となって出るのです。炭酸ガスは遊離炭酸ではなくイオン状になればたくさん溶かせます。

炭酸ガスを吸収する簡単な方法は、自然界で起きている化学反応と同様なプロセスです。 炭酸ガスをアルカリ性の水に吸収させてイオン状にしたのち、カルシウムイオンと塩を作り沈殿させる方法です。しかしこの方法はあまり効率が良くありせん。水中に溶ける炭酸のイオンの濃度がそれほど高くなく、(高ければ沈殿しません)できた炭酸カルシウムの結晶は堅いスケールで取り扱いに不便です。このプロセスはどちらかというと配管にスケールのできる困った反応です。

現在炭酸ガスの吸収は次のような方法で行われています。水中のアルカリ成分ではなく、水以外のアルカリ性の溶液に直接炭酸ガスを吸収させるのです。苛性ソーダの溶液のような強アルカリの液体でも炭酸ガスを吸収します。吸収した炭酸ガスは炭酸ソーダの結晶となって沈殿します。苛性ソーダは強アルカリですがアンモニアは弱いアルカリです。苛性ソーダもアンモニアも単独では液体でなく、水に溶けて液体になります。

アンモニアの仲間をアミン類といいますが、アミンの中にはそれ自身がアルカリ性の液体があります。その中のモノエタノールアミン(MEAと略します)の100%の液に炭酸ガスを溶かすと、MEAと炭酸が塩を作り、炭酸と1:1で結合するので、MEAと同じ量の炭酸ガスを吸収できます。さらに苛性ソーダなどではできた炭酸塩の溶液を温めても変化はありませんが、MEAでは温めると吸収した炭酸を再び炭酸ガスとして取り出せます。MEAのような薬液を炭酸ガス吸収剤とよび、燃焼ガスから炭酸ガスを回収するのに使われています。【分類:おいしい水】

[ 2015/12/16 ]  『黒姫高原理科教室』 NO84. 遊離炭酸 

TOP

NO85. 従属性遊離炭酸

前回は炭酸ガスとおいしい水の関係についてでしたが、引き続き炭酸ガスが赤水の原因になる話です。 水質基準にある項目で、遊離炭酸は分かりにくい成分ですが、それ以上に一般の方が水質基準を見て、まず分からないのが従属性遊離炭酸と浸食性遊離炭酸です。実は水質検査でも、この項目の値は表を使って計算するので、簡単ではありません。また、たとえば塩化物イオンの値ならばそのものの濃度ですが、従属性遊離炭酸とはどんな成分かと言うとプロでもうまく説明しにくいです。水道の教科書でも、浸食性遊離炭酸とは従属性遊離炭酸以外の遊離炭酸であるとか、従属性遊離炭酸とは炭酸水素イオンを生じるために必要な遊離炭酸であるといった記載で、相互に定義しあって、よくわかりません。

排水の配管で、炭酸とカルシウムイオンが結合してできる結晶の炭酸カルシウムスケールは配管の閉塞する原因になります。排水やボイラーではそのため、軟水器でカルシウムを除去したり、スケール防止剤を添加します。また炭酸カルシウムの結晶はpHが高くなると溶解度が下がり析出し易く成るので、酸を添加してpHを下げます。

ところが水道水では、浄水場で炭酸カルシウムを原水に逆に添加したり、炭酸ガスをわざわざ加えたりすることがあります。炭酸カルシウムのスケールをわざわざ作るのです。 同じ炭酸カルシウムの結晶でも、大量に配管の内面に付着すれば、配管が詰まりますが、少量が配管の内面に付着するのは配管の金属がさびるのを保護する被膜になるのでわざと付けるのです。逆にこの炭酸カルシウムの被膜が溶けてしまうと、配管の金属がむき出しになり錆びて赤水の原因になります。

炭酸カルシウムの結晶が析出するか逆に溶けるかは、pH,炭酸、カルシウムの濃度で決まります。排水やボイラーではこの3つの値を調整して、炭酸カルシウムが析出しない条件にします。ところが水道の世界では炭酸カルシウムがわずかに析出して、いったんできた結晶が溶けない条件にします。原水の硬度の低い時には炭酸カルシウムができないので、日本の水道は軟水だと喜んでいる人は驚くかしれませんが、石灰を添加しカルシウム濃度を上げます。水源池で藻が繁殖すると光合成で水中の炭酸を使いpHが上がるので、炭酸ガスを添加してpHを下げます。ボイラーの管理をやっている人から見たら、わざわざ炭酸カルシウムのスケールができやすい条件にしているので驚くでしょう。

こうした排水と水道水で逆の管理方法を行っている理由を説明するのに、小学校の理科の石灰水を息で白濁させる実験があります。カルシウムを含んだ水として、石灰水(水酸化カルシウム)を用意して、ここに炭酸ガスを加えます。と言ってもストローで息を吹き込むのです。炭酸ガスとカルシウムが反応して水に溶けにくい塩の炭酸カルシウムができ、白く濁ります。実験はここで終わらず、さらに息を吹き込むとまた透明になります。

水中に吹き込んだ息の中の炭酸ガスはまず水に溶け炭酸になります。水中にカルシウムイオンがあると結合して炭酸カルシウムの塩なり、この塩は水への溶解度が低いので結晶が析出して白く濁ります。実際の現場では配管内に炭酸カルシウムのスケールができるのです。ところが炭酸カルシウムはさらに炭酸を加えると炭酸水素カルシウムという化合物に変わります。炭酸カルシウムの塩より炭酸水素カルシウムの方が水に溶けやすいので、いったんできた炭酸カルシウムの結晶は炭酸水素カルシウムになって溶けます。

そのため白濁した液は透明になります。この時使われた炭酸が従属性遊離炭酸です。もし水中に遊離炭酸がもっと含まれていたら、炭酸カルシウムの結晶を溶かすのに使われます。これが浸食性遊離炭酸です。排水ではスケールは嫌われ者ですが、水道の世界では、浸食性遊離炭酸があると、配管を覆っている炭酸カルシウムの被膜が溶かされ配管の金属がむき出しになって錆ができて赤水の原因になります。

ランゲリア指数というものがあります。ある組成の水と炭酸カルシウムのスケールが接しているときに、炭酸カルシウムがさらに析出するか、逆に炭酸カルシウムのスケールが溶けるかを示す指数です。炭酸カルシウムの結晶は、pHが高いほど、カルシウム濃度が高いほど、炭酸濃度が高いほど出来やすいのでこれらの値から計算式でランゲリア指数を計算します。この値が0より大きいと炭酸カルシウムのスケールができます。値が0より小さいマイナスの値ならスケールはできず、出来ていたスケールは溶けます。

ボイラーではこの値が0より大きくならないようにします。水道では逆にマイナスにならないようにします。水道の水質目標ではランゲリア指数は-1以上、出来るだけ0にするです。炭酸カルシウムのスケールができても、溶けもしない値です。現実は水道の原水はカルシウム分の少ない河川水、軟水なのでそのままではランゲリア指数は0より小さな値です。軟水はそのままでは水道の配管を錆させるので、浄水場でアルカリを加えpHを上げたり、石灰を加えカルシウム濃度を上げることをすることもあります。

炭酸カルシウムのスケールは身近なところでも見ることができます。ランゲリア指数によれば、カルシウム濃度が増えなくても、pHが上がってもスケールができます。適度なカルシウムを含む水道水を沸騰させると溶けていた炭酸ガスが気体になって抜けます。遊離炭酸の減った分pHはアルカリになります。するとランゲリア指数が上がり飽和した炭酸カルシウムが析出します。これが薬缶にできる缶石です。缶石を溶かすにはお酢を入れればpHが下がりランゲリア指数が下がり溶けます。【分類:おいしい水】

[ 2015/12/18 ]  『黒姫高原理科教室』 NO85. 従属性遊離炭酸

TOP

NO86. 専用水道

大きなショッピングモールの横に、ステンレス製の飲料水の受水槽をよく見かけます。20tとか50tとか書いてあります。ときには受水槽が2台あって、それぞれ井水、市水と書いてあることがあります。井水は井戸水が水源、市水は水道水です。飲用水や調理には水道水、それ以外には井戸水と使い分けているのです。もちろん経費上の理由です。逆に水道水を管理する自治体は予算収入の理由で水道水を使って欲しいです。

そこで、いろいろ井戸水を使わせない理由を考えます。先のショッピングモールの場合、同じ井戸水でも自家用でなく業務用です。ビル管理法では水道の水質基準と同じレベルの水質検査を義務付けています。検査料金はかなりの額になります。調理に井戸水を使うときも同様です。カップで出てくる自販機も調理になりますから、水道水と同じ検査をしないといけません。水質検査にかかる費用を考えたら、水道水に切り替えた方が安いよ、水道水なら水質をお上が担保するから水質検査は要りませんから、と役所は言います。しかしまだ水道料金の方が高いようです。

水質だけを考えたら、給水人口100人以下の小規模水道と、生徒数1000人の自家用井戸の学校との差はあるでしょうか。法的には小規模水道でも水道ですから水道法によって管理されます。大都市の上水道同様、毎月検査が義務です。一方学校は学校保健法で年2回の簡単な水質検査だけです。現実には水道水を使っていても汚染はあります。マンションなどの水道水がおいしくないどころか、受水槽に汚染が起きていて水道水が水源でも、さらに簡易専用水道という水道ですと当てはめ、検査を義務付けています。

水道は事業規模で給水人口5000人以上を上水道、それ以下を簡易水道、さらに100人以下を水道水供給施設としていますが、これらに該当しないものに専用水道があります。専用水道とは一般の水道事業とは異なり、自家用の水道です。学校などで自分の水源井戸があって使っている自家用井戸や、ホテルで業務用井戸でも、水質検査に合格すれば水質は水道水と変わりはありません。では専用水道は自分で水源を持っているのに、井戸ではなく水道として扱われるのでしょうか。専用水道とは何でしょう。

水道法では、専用水道とはまず、100人以上の居住者に給水か、1日20トン以上を飲用に使う場合に該当となっています。居住者なので学校や病院は該当しません。療養所は該当するので、病院の入院と療養の差は3カ月です。3か月以上は居住になります。旅館やホテルもこの項目には該当しません。団地などは最初から上水道や簡易水道のエリアとして開発されていますから該当しません。学生寮や隊舎が該当します。

1日20トン以上飲料水を使うことは居住でなくても昼間だけの社員や学生、隊員でも該当なので結構当てはまるはずです。こうした施設では井戸水が水源でも飲用井戸としてではなく、水道法を適用されると言うことです。もちろん衛生、安全上の理由です。水道法の水道に該当ですから、専用水道の施設は毎月の水質検査は厚生労働省の登録検査機関に有料で依頼するだけでなく、毎年、県に水道管理計画を提出し、水質検査結果を報告する法的義務があり、罰則もあります。自衛隊なども保安上の理由で、自家用の水源ですが専用水道に該当するため、県の水道管理計画に含まれ、検査は外部の検査機関に依頼し、水質検査に不適になれば県に報告と、飲用中止をします。明治に始まる富国強兵の公衆衛生の考えは、出来たばかりの自衛隊法より強いのです。

専用水道は自己水源でなくても、100人の居住か1日20トンのどちらかに該当すれば水道水を使っていても該当します。この部分が水道関係者でも分かりにくいので説明します。水道水を水源とした施設はすでに受水槽の容量が10トン以上の場合は、簡易専用水道として施設の検査が上乗せされる話はしました。これとは別に、受水槽の容量が100トン以上または施設内の口径2.5センチ以上の水道の配管の延長が1.5キロ以上の場合はやはり専用水道に該当し、水道法の水道施設になり厳しい基準が適用されます。理由は大規模な受水槽や水道配管を持つ施設ではおもに地面からの汚染の影響の可能性があり、予防すると言うのです。

そこで但し書きとして、地中または地表にある、とあります。地面に埋め込まれたり地表に設置された配管が該当し、建物内や支柱で持ち上げられた配管は該当しません。受水槽も古い建築基準法では地下式タンクで、隣の下水処理槽の汚水からの汚染が心配でしたが、地下式は現在新設はできません。地表とは地面に直接受水槽が置かれた場合で、通常は点検のために6面点検と言って、水槽の下にも土台で持ち上げ、点検空間にするので、地表には該当しません。これも古くからある地下式の水槽を早く建て替えないと管理に高い水質検査料金がかかるよという役所のやり方でしょう。【分類:おいしい水】

[ 2015/12/18 ]  『黒姫高原理科教室』 NO86. 専用水道

TOP

NO87. JISとISO

今月の分析化学会の雑誌にピペットについての記事がありましたので、ご紹介します。ピペットを知らない人のために説明します。化学実験で液体を吸い上げるガラス器具です。スポイトと違って、目盛がついていて、10mlとかを正確に測れます。ストローのようなガラス管で、目盛がついています。口などで液を目盛まで吸い上げて、別の容器に出せば正確な量の液体を測れます。正確にという時、吸い上げて減った量が正確に10mlではなく、別の容器に取り分けた量が正確に10mlになってほしいでしょう。 この時、細いストローをイメージしてください、液を目盛まで吸い上げてから出した時、管が細いので毛管現象で先端に少し液が残ります。この液をどうするかの問題です。液切れが悪くピペットに残った液を強引に移すか、そのままにしておくかです。

学生実験をやると、スポイトとは違って、ピペットは一応正確に液の容積を測る道具ですから、ピペットの先端の管内に残った液を残してはいけないと考えます。高校の化学のベテラン教師の中には、実験でピペットを使い、先端に残った液を片方の手の指先で上の吸い口を押さえておき、もう一方の手の平でピペットを握り温め、中の空気を膨張させ先端の液を押し出し、こんな風に上手にやるのだと見本を示すこともあります。学生で初めてピペットを使うと、先端の液を上の吸い口から吹いて押し出すことがよく見かけます。一応職場で新人がやるのを見たら、最初だけは唾が入るから吹くのはダメと言いますが、口で吸うのだから、吹くのも手っ取り早いです。

大学の分析のコースになると、きれいなガラスは水にぬれるものだから必ずガラスの表面には液が残る。無理に出さないほうが再現性がよい。ピペットに液を吸い上げたら、別の容器にピペットの先を当てて液を出し、そのまましばらく放置してそれでも残った液は残したままにする。あるいは出し終わったらピペットの先端を液を入れる容器の内壁に当てて、5秒ほど擦りそれでも残った液は残したままにする。こんなことを先輩から教わりました。

日本では、日本工業規格JISでピペットについての規定がありました。ピペットの容量は液を目盛まで入れたものを出し、先端に残った液を押し出した時の量と成っていました。出し方については記載はありません。その為いろいろな押し出し方が各地で発生したのでしょう。JISにこの様に規定があるので、国内の理化学器具メーカーは押し出してちょうどの容積に成る様にピペットを製造しました。

一方、国外では先端に残したままの方が繰り返しの再現性がよいので、先端に残した量で目盛をつけるようです。国際規格のISOにより作られたピペットは先端に残った液を出さないで正確な量になるように作られています。先端に残った液を無理に押し出しても、どうしてもまだ残る液があり、無理やり出さないでそのままにしておいた方が再現性がよいようです。残したままの容積で正確に目盛をつければよいのです。

これでは国内のJISと国際規格のISOで作られたピペットに差ができます。そのためJISは1990年代に改正を行いました。先端に残った液を押し出すを削除しました。ただしここで日本の公務員の得意な玉虫色です。将来はISOと一致させるのですが、それまでの期間はどちらにもとれるようなあいまいさを残し、押し出すを削除してけど、押し出さないとは書かなかったのです。そのため今でも国内のピペットメーカーはJISには押し出さないと書いていないので旧JISのまま、先端を押し出して正確な容積になる目盛で製造を続けているようです。

分析化学会の記事は、今日本で出回っているピペットは国産の旧JIS規格の先端の液を押し出すと正確な量が測れるものと、輸入品のISO規格の先端に液を残ったままにすると正確な量のものがあるので、実験で使うときには注意するようにというものです。化学実験では残った1滴の液の量は大きな影響があります。

JISが改正になっても旧JISのまま製造するメーカーも、ISOとの整合性をはっきりさせないJISの製作者も問題ですが、大学の分析化学の先生方はずいぶん以前から国際規格のISO式でした。ところが国内一般ではどうやら先端に残さないが主流のようでした。ピペットを使うのは一応化学を知った人です。きれいに洗浄したガラスは水をはじかないので、ピペットの先端に液が残るのは当然です。それを無理に押し出すより放置したほうが再現性はよいのです。西洋人は合理主義ですからこれでよいのですが、日本人には先端に液が残ったままでは気持ち悪いのでしょう。食事でも西洋人は食べたいだけ食べたら残す、日本では食べ残しは無作法です。再現性や精度より、吹くのは汚いしダサいからと上手な押し出し方の方を工夫したのでしょう。液を残すのは日本人の好きな、もったいないに反するからでしょうか。

ところであなたはどちらですかと言われそうですが、これにも正解は用意しています。厚生労働省に検査機関が手順書を提出するときにも、ピペットについて何mlのピペットを使いとか記載にうるさいですが、そもそもピペットで容積を測ることが正確さに欠けるのです。ピペットにはガラスの膨張を考え、このピペットの容積は何℃で目盛の値とか刻印がありますが体積は温度で膨張します。細かい規定をしても室温が変われば容積も変わるのです。正しく測るには室温も一定にしないといけません。本当に正確な実験をするときには、ピペットで測らず、天秤で液の質量を測ります。

私たちの学生時代には、分析の教室に入るとまずピペットを渡され、メーカーの印刷した目盛は無視して、自分で目盛をつける作業をさせられました。自分専用の道具で、使い方も自分の方法で決めた正確な目盛です。職場で若い子に聞いても、最近はこれをやらない学校が多いようです。職人型品質管理からISO型の品質管理に世の中が移って、当然品質は下がっているでしょう。民間にはまだ職人型の親方が残っている会社があるでしょうが、公務員の世界では職人はもういないのでしょうか。自分の精度は自分で管理し、親方はそれができる職人を育てる品質管理から、温度管理された、検定済みの器具を使い、実験者が勝手な判断をしないで公定法にしたがって検査を行うのを、管理者は管理する品質管理です。ISOはまだ品質の管理で検査そのものは専門家の知識を認めていますが、お役所式の品質管理では文字どうり公定法に一字一句従うもので、受験教育の理科離れのあとは、社会に出てからも理科は楽しくないでしょう。【分類:化学】

[ 2015/12/24 ]  『黒姫高原理科教室』 NO87. JISとISO

TOP

NO88. 高度浄水処理

今、引き受け手を探しているナトリウム漏れの原子炉、もんじゅ、ですが、とっくに廃炉にするしかないかと思っていたら、建設以来一度も稼働せず失敗続きでその間掛けた費用が莫大で引っ込みがつかないようです。例の日本人の好きな「もったいない」でしょうか?。廃炉を延ばすだけ無駄遣いです。もんじゅは高速増殖炉という名称です。僕たちの子供のころ、原子力は夢のエネルギーと呼ばれていました。その中でもウランを消費するだけの核分裂炉と違い、限りある資源のウランを燃やすと燃やしたより多いプルトニウムという別の燃料ができる高速増殖炉としてもんじゅの開発が始まっていました。

核分裂を使った原子炉は将来、核融合炉ができるまでのつなぎともいわれました。プルサーマルとか原子力船むつとか、夢は失敗続きというか夢に消えたようです。常温核融合とか怪しい物も在りました。高速増殖炉という名称も、ウランを燃やすとフェニックスのように新しい燃料ができると言うイメージ宣伝から、燃料の増殖が高速で進むと勘違いしそうです。高速の単語は通常の原子炉が減速した中性子を使うのに対して、核分裂で発生した中性子線を高速のまま使うからです。増殖という言葉も、1年稼働させれば後は燃料が要らないと勘違いさせます。1年稼働させてもできるプルトニウムはわずかですし、プルトニウムは使ったら終わりです。高速増殖炉は原爆材料のプルトニウムの製造が本当の目的ですが、役人は夢の原子力同様うまい名前を付けました。

水道の世界でも内容と合わない名称があります。浄水場の方式に緩速ろ過と急速ろ過があります。ヨーロッパで最初に始まったのが緩速ろ過で、その後日本では緩速ろ過より急速ろ過が増えています。これも広いろ過池で自然任せで行う緩速ろ過方式が、凝集剤を使い小さなろ過池でも大量の水道水を早い速度でろ過のできる急速ろ過になったようなイメージです。実際は緩速ろ過は砂のろ過層に棲んでいる微生物の力で有機物を除去しているのに対して、急速ろ過は砂の層でろ過をしているだけの別物です。生物ろ過と砂ろ過と呼ぶべきです。水道関係者にも、よく理解していないため緩速ろ過を急速ろ過方式に変えて、水道水をまずくしたところがあるようです。まずいだけではなく緩速ろ過は生物が汚染物を除去しますが急速ろ過は砂で濾しているだけなので、溶けている汚染物は除けません。

その為、水質の悪い水源では急速ろ過だけでは水質基準に適合した水道水を浄化できません。そこで作られたのが高度浄化処理方法です。大都市でも、名古屋市は木曽川というきれいな水源があるので今でも緩速ろ過でおいしい名古屋の水道がウリですが、東京、大阪は水源が汚れ、急速ろ過では水質基準を満たせず、より高度な処理方法を追加してやっと飲める水になったのです。高度浄水処理でやっと緩速ろ過に近づいただけなのに、急速ろ過の時代のまずい水から普通の水道水になったのを、まるで磨き抜かれたきれいな水というイメージで高度浄水処理の水道水という名称を使っているようです。これも追加浄水処理と呼ぶべきでしょう。追加処理をしないと飲めない水質です。

大阪の水は、琵琶湖の水を滋賀県がまず水道にしてそこから出た下水を今度は京都府が水道にしてまた下水になって淀川に流し、最後にその淀川から大阪府が水道の原水にしていると言われます。東京は多摩川の上流に水源地を持っていますが、琵琶湖の場合は湖水そのものが過去には家庭の排水由来の洗剤や窒素リンによる豊栄養化による藻や微生物の繁殖でカビくさくなっていました。かつては大阪の水道にも緩速ろ過の浄水場がありました。しかしその後浄水場は急速ろ過がよいという流れで廃止され、中には緩速ろ過の運転方法が悪く生物膜をダメにしてしまうこともあったようで、今では全国的に緩速ろ過の浄水場の少ない自治体です。砂でろ過するだけの急速ろ過では淀川の水はおいしくありません。高度浄水処理という追加処理を行うのは当然でしょう。やっと普通に飲めるようになり、ペットボトルに詰めるまでしているようですが、もともと緩速ろ過の水道水を飲み続けている他県からすれば、普通の水道水でしょう。

東京 名古屋のように越境したきれいな河川の上流から水源を引いてくることは大阪ではありませんが、大阪市には淀川の上流に水道の水源のための森を持っています。これは淀川の河川水を水道に使うための水利権に必要なのです。河川の水利権は、江戸時代にさかのぼる藩政時代から続きますが、今でも河川法で認められた権利です。水利権を主張するためには、上流でのダム開発や水源林に出資することが必要です。大阪府や市はこれを行っているので淀川の水利権があります。大阪市の水道の水源水の水質は上流では滋賀県や京都府の生活排水や下水処理水が流れ込み、下流では大阪湾の海水が逆流して塩濃度が上がり、あまり良い水質ではありません。

急速ろ過では水質が確保できないので高度浄水処理が必要になったのですが、以前に緩速ろ過方式を止めなければよかったかもしれません。緩速ろ過を止めた理由が広い浄水場の土地がいるのなら、新たに高度浄水処理場を作るのも無駄でしょう。水質は悪いのですが、大阪府や市の水利権は大きいのです。上流のダム開発にお金を出しているので、大阪に戻ってくる水利権は大きくて、今では水道離れもあり、水利権が余っています。

あの橋本君が大阪の水道の民営化を考えたのにはこんな裏があったのでしょう。公共財産の水道の民営化はもともと間違いです。経営上の理由だけでなく、水道の本来の姿は地域ごとにきれいな水源を確保して、あまり手を加えない、出来れば消毒だけの浄水処理です。各地の簡易水道の姿です。都市型の広域上水道はよくありません。

もし大阪の水道が民営化されたら、誰が喜ぶのでしょう。水道経営は儲からないから水道法があるのです。今、大阪の水道の民営化は将来、水道料金が必ず上がるとかで反対されていますが、民営化は水道サービスではなく水利権を買い取ると考えたらどうでしょうか。各地で、水道離れに付け込んで、水源林の水利権を海外資本が買い取ることが起きているようですが、琵琶湖の水利権は大きいです。【分類:おいしい水】

[ 2015/12/24 ]  『黒姫高原理科教室』 NO88. 高度浄水処理

TOP

NO89. ガラスを溶かす

化学に興味のある子供が昔からよくする話に、なんでも溶かす酸はどんな容器に入れる?とか、最近ではエイリアンの血より強力な酸は実在する?があります。ガラスを溶かすフッ化水素酸はプラスチックの容器に入っています。金属を溶かすのなら、酸性の強いだけでなく酸化力のある硝酸を加えます。硫酸より強い酸もあります。塩酸で溶けない金も溶かす王水でもケイ酸塩鉱物は溶けませんが、酸でなく、アルカリでなら溶かせます。物を溶かすのは酸だけではありませんが、金属を溶かしてイオンにするということについては、酸の強さによります。

そこでは硫酸より強い酸は確かにあります。強さの違う2種類の酸があれば、弱いほうの酸が遊離するという原理があります。硫酸と酢酸が共存すれば弱いほうの酢酸が遊離(遊離という言葉が難しいなら、溶けないと読み替えてください)するのです。金属を溶かすと言うことは金属を陽イオンにして溶かし酸の陰イオンと対になるのです。強いほうの酸が陰イオンになり溶けます。酸の性質を持つものを酸性といいますが、酸の性質にもいくつかの定義があり、濃硫酸より強い酸ではほとんど水分が含まれず酸性を示すpHは使えません。

硫酸より100倍強い酸とか、中には10000倍強力な酸ができたと言いますが、この時の強さはもちろん濃硫酸同様水が含まれないのでpHやpKaでは比較できません。酸の分子がどれだけイオンに解離するかで比較します。たとえば硫酸は硫酸分子が99.9%イオンに分かれるとします。それより強力な酸があって、99.999%イオンに解離するとします。イオンにならない割合は硫酸では0.1%,  強力な酸では0.001%です。この差が100倍なのです。これでいけば99.9999…と続けば10000倍とかもできます。

ものを溶かすのは、酸だけではないので、たとえば木の葉を塩酸で煮てもそれほど変化しませんが、アルカリの苛性ソーダで煮たら堅い葉脈だけがきれいに残ります。葉脈標本ができます。鉱物を分析するときは酸では溶けないものも、炭酸ナトリウムというアルカリと一緒に熱すると水に溶ける塩になります。水晶の結晶を硫酸で熱しても溶けませんが、苛性ソーダでは溶けます。

フッ化水素酸も水晶を溶かします。フッ化水素酸は酸としては弱酸にあたります。硫酸や塩酸の仲間ではなく、酢酸やリン酸の仲間です。ところがフッ化水素酸は水晶やガラスを溶かすので強力な酸と思われています。ガラスを溶かす液体は他には少ないのです。酸が金属を溶かすのは金属を陽イオンにする力が強いのですが、フッ化水素酸はイオンにするわけではありません。フッ化水素酸のフッ素原子がたいへんガラスや水晶を作る元素のケイ素Siと結合しやすいのです。フッ素はケイ素だけでなく炭素原子とも結合しやすいのです。フッ化水素酸がガラスを溶かすのは、ケイ素と酸素の結合でガラス(2酸化ケイ素 SiO2)を作っているケイ素原子が酸素とよりフッ素との方が結合しやすいからです。ガラスにフッ化水素酸を加えると2酸化ケイ素の酸素がフッ素に置き換わってフルオロケイ酸になります。

ガラスの代わりにプラスチックを構成する炭素原子にフッ素を反応させるとテフロンなどのフッ素樹脂になります。 フッ素はたいへん反応性の高い元素で、いったんフッ素が結合するとなかなか除去できません。水道原水にフッ素が含まれている場合、イオン交換などで除去する方法はありますが、今の高度浄水処理で高価なオゾンや活性炭を使う以上に経費がかかります。現実的ではなく、そんな費用があれば水源林の確保に使うべきです。フッ素を含む水源は使えないのです。

最近は国内では話題になりませんが、国外ではいまでも水道水にフッ素を添加している国があります。アメリカ合州国やカナダもです。国内では以前、国や医者がやりたがりましたが、歯科医や、中でも水道関係者(水道労組や水道協会)の反対で止めることができました。フッ素の歯への効果は仮にあるとすれば、今ではフッ素入りの歯磨きなどが市販されているので、やりたい人は自分だけやればよいのです。現在、テロ対策という理由で浄水場の警備はたいへん厳しくなりました。フェンスも厳重です。浄水場に毒物や細菌を入れたら影響が大きいからです。今でも一部の医師が水道水にフッ素添加をすれば安上がりな虫歯対策ができると言うのは同じことでしょう。

公衆衛生の考えは、個人の健康を考える臨床衛生と違って、時には多少の副作用があっても社会や産業が優先することがあります。水道の普及は公衆衛生の目的ですが、その前に水道水はミネラルウオーターではありません。基本的にはきれいな原水を使い、有害成分の除去をするだけで、逆に成分を添加するものではありません。ミネラルウオーターでさえナチュラルウオーターが好まれています。

水道の民営化を額のせまいあのリーダーは以前から考えているようですが、民営化された水道にフッ素添加で付加価値を付け、水道料金値上げの口実にされる可能性もあります。かって旧厚生省がフッ素添加を考えたのを水道関係者があほなことするなと止めたように、水道関係者の方々は民営化などさせないでください。【分類:フッ素】

[ 2015/12/24 ]  『黒姫高原理科教室』 NO89. ガラスを溶かす

TOP

NO90. 水道法34条

井戸水ではなく水道水を使う建物の受水槽について規定した簡易専用水道について再度考えます。水道法に基づく施設ですから、水質基準に適合する必要があります。水道水質基準では残留塩素濃度は0.1mg/l以上となっています。水道法の施行規則などでは、こうした簡易専用水道と呼ばれるマンション、学校などの受水槽でも、末端の水栓(蛇口)の残留塩素の値は水質基準の0.1mg/l以上と成っています。こうしたマンションや学校の受水槽では、休み明けなど水槽に前の週から溜まっていた水が出てくるので、残留塩素が分解し、消えていることがあります。水質基準の適合は大丈夫でしょうか。

水道法で簡易専用水道と呼ばれる建築物の受水槽の設備、水質を検査する厚生労働省の登録検査機関が在ります。水道法で簡易専用水道について規定している条文が34条なので、こうした検査機関を34条検査機関と呼んでいます。参考までに、水道水の水質検査を同様に20条検査機関と呼んでいます。県の衛生試験所や大都市の浄水場以外の多くの自治体では、水道水質基準の検査を行う施設が無いので、20条検査機関に依頼します。簡易専用水道では、ほぼすべての施設で34条検査機関が行っています。以前は公益法人などの検査機関がこれらを行っていましたが、規制緩和によって、民間の大手検査機関が加わりました。民間が加わると言うことは、こうした検査もたくさんの数を扱えば儲かるのでしょう。

話は飛びますが、pHをどうやって測りますか。リトマス試験紙は酸性は赤、アルカリ性は青としか分かりませんがpH試験紙といって赤、オレンジ、緑、青、紫とpHで色の変わるものもあります。pH指示薬といってpHによって色の変わる試薬があります。実験でよく使うフェノールフタレンは酸性で透明、アルカリで赤です。このpH指示薬の中のBTB指示薬という物を使うと、pH5からpH8の範囲を色で測れるので水道では使っていました。しかし普通はpHメータでしょう。ガラス電極式pHメーターです。最近はたいへん安くて、ホームセンターでも売っています。pHメーターは半世紀前から使われています。

では水道水はどうかというと、つい最近までpHメーターではなくBTB指示薬で測っていました。水道法では検査方法まで細かく決めています。水道が明治に始まってから、pHは指示薬で測っていました。 国には、全国の浄水場の(明治以来の)長い間の測定値が統計として残っています。測定方法を変えると統計の連続性が変わる可能性があります。そのため中学校や主婦でもpHメーターを使うのに、水道水の検査方法では指示薬で測ることになっていました。pHメーターが高いからではありません。

しかし10年ほど前についにpHメーターの規則が変わりました。統計より精度が優先です。ここに検査と研究の違いがあります。研究ではその時代の一番精度の高い方法が当然です。一方、検査で測っているのは、実は正しい値ではありません。古い検査方法は研究が進むと正しく無かったということもあります。正しいかではなく、法令で決めた全国どこでも同じ方法で測った値です。ここでは学術的に正しいことより、全員が同じ値を出すことが求められています。20条や34条の検査機関も当然、全国どこの検査機関で行っても同じ値が出ることが厚生労働省から求められます。検査精度が劣るのもダメですが、勝手に最新の方法に変更もダメです。

さて話は戻ります。簡易専用水道の検査機関では全国どこの検査機関でも同じ判定結果が出るように、法令だけでなく実際に現場で使う検査マニュアルが決められています。その検査マニュアルでは、簡易専用水道の残留塩素の判定基準は、「検出すること」となっています。「検出しない場合は保健所に通報してください」ともあります。「検出しない」と、基準値以下とは同じでしょうか。

水道水に限らず、排水や産業廃棄物の基準を見ると、法令ではよく「検出しないこと」と書いてあります。一方実験室では、いろいろな検査には検査精度がそれぞれあります。有害物質を測る感度は検査機器の精度によって変わってきます。昔は検出できなかった低い濃度でも検査機器の進歩で数字が出るようになってきます。今検出できなくても、将来感度が上がれば数字がはいるかもしれません。そこで検査機関は報告書には 0 とか 検出せず とは書かず、今使っている測定方法で検出しなければその時0.001mg/lまでの精度の検査ならば0.001未満と書きます。

残留塩素も同じです。昔はオルトトリジンという試薬で残留塩素が黄色く発色する方法を使っていましたが、オルトトリジンの製造工程で発がん性があるため(粉を吸い込むことで引き起こされるので、オルトトリジン液ならよいのですが)禁止になり、今はDPDという残留塩素でピンクに発色する試薬を使っています。DPD方で残留塩素を測定すると、水質基準の0.1mg/lより低い0.01mg/l近くまで測定できます。もしも測定値が0.05mg/lの時は報告書には0.1未満と記載します。どうして0.05mg/lと書かないかというと、感度ぎりぎりの低い値は精度が悪く、0.05なのか、ほんとは0.06なのか不確かなので、間違いなく報告できる値の0.1mg/lより低い値ですという意味で0.1mg/l未満と記載します。未満と、検出せずは違います。0.1mg/l未満と記載してある時は、実際の濃度は0.05mg/lなのか、もっと低い値なのかは報告書では分かりません。このあたりの分析報告書の記載方法は、銀行や税金の数字とは違うのに慣れてください。

水道水そのものの水質検査の20条検査では、水質基準を超えたら即、飲用不適になります。そのため、基準値の7割近くの値で要注意です。ところが34条の簡易専用水道の検査マニュアルではなぜ、残留塩素濃度は基準値の0.1mg/l以上の事、ではなく検出すること、と成っているのでしょうか。 古い法律で、たとえば排水中のPCBなどについて、検出しないこと、と記載されていても実際の施行規則で、検出しないとは0.0005mg/l未満を指すと読み替えています。これは事務方と技術方の数字の感覚の違いです。しかし簡易専用水道は残留塩素濃度を現場の検査マニュアルで基準値を、満たす、ではなく、検出すること、としています。さらに所轄官庁の指導では、「残留塩素は基準値0.1mg/l以下なら不適合ですから判定は不適です。しかし一応残留塩素は出ていますので、「DPD測定で全く発色しないときには飲用不適にしてください。」のようです。

水道管に直結の一戸建ての水道では、残留塩素が基準値の0.1mg/l以下なら飲用不適なので、水道事業者は残留塩素濃度が基準値以上に回復させる義務があります。ところが簡易専用水道は同じ水道法でも管理者は施設の所有者です。自治体側には責任も義務もありません。もし簡易専用水道で残留塩素の値を水質基準厳守をすると、多くの受水槽が飲用不適になってしまうでしょう。

水道水の塩素添加を嫌う方もいますが、受水槽については残留塩素濃度が低いと場合は、その水槽の水が滞留した古い水で、生温い、不味い水です。ところが今の(簡易専用水道というより)水道水の管理が、安全 安心な水ということだけを考え、おいしい水ということを考えていません。現在の34条検査が法令に違反していないかの発見に偏っている現状を改め、厳しくチエックするのなら残留塩素の値も厳しくすれば、末端の水栓(蛇口)で残留塩素の値がちゃんと出ているかのチエックする事で、水槽に長時間水が滞留しているかが分かり、例えば、「水槽のサイズが大きすぎますから交換するように」といった指導もできるでしょう。【分類:おいしい水】

[ 2015/12/25 ]  『黒姫高原理科教室』 NO90. 水道法34条

TOP


Copyright (C) 2015 黒姫高原理科教室. All Rights Reserved.

inserted by FC2 system