NO91-NO100

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NO91. ペットボトル

最近、各地の浄水場で、水道水をペットボトルに詰めて配っています。水道水離れ、ペットボトルの水の方がおいしくて安全と思う人が増えている世の中で、水道屋は水道水の方が安全ですといわなければいけません。事実安全なはずです。それが今までまずかった水道水が高度浄水処理を初めてやっと本来の水道水に戻った程度で、ペットボトルに詰めて配るのは変ではないですか。

高度浄水処理のところで、大阪市の水道民営化が進めば、大阪の水道事業のサービスの民営化だけでなく、琵琶湖の水や、琵琶湖を水ガメとする淀川の水利権も売ってしまうことだと話しました。水道事業は水源の河川や湖沼の水利権が伴います。大阪府や市の持っている琵琶湖水系の水利権は、過去の税金の投資でたいへん大きく、現在水道に使っている水量以上あります。というか水道離れで余っています。民営化ではこの水利権を狙っているのです。水道料金やサービスだけにこだわっていては、今に琵琶湖や淀川の水を使えなくなりますよ。

よく、日本人は水はタダだと思っていると言われます。ヨーロッパではミネラルウオーターより安いワインの方が安いように、水はタダではないというのが定着しています。KFDやマックに行けば、お冷は無いです。日本でもけっして水はタダではありませんでした。農家の方は今でも、勝手に農業用水の堰を開けてはいけないのはよく知られています。江戸時代にさかのぼっても水争いの話はたくさんあります。水利権は、昔からあり、今では河川法などの法律になっています。水道水も、農業用水も、水力発電の水も水利権があります。最近では新潟で電力会社が水利権を無視して信濃川(長野では千曲川です)の河川水を使い、裁判に負け億単位の賠償金を農家に払いました。

ところがこの水利権の及ぶ範囲は、河川と湖沼だけなのです。地下水には今のところ水利権はありません。河川の地下を流れる伏流水は、河川法の対象ですから水利権があります。日本の大都市の水道は水量の確保できる河川や湖沼から水源をとっていますので、水利権については水力発電を行う電力会社や、農業用水を管理する組合と話し合ってきました。江戸時代から続いている農業用水が結構水利権を持っていることが多いようです。ところが水利権の無い地下水については今までは個人の井戸とか、比較的小さな簡易水道の水源として使われていただけです。水質についてはどちらがよいのでしょうか。河川水や湖沼水を水道の水源にするには浄水場が必要です。最近では高度浄水処理をしないと飲めません。一方地下水は消毒さえすれば飲用適合です。小規模な簡易水道が浄水場がなくても消毒設備だけで水道になるのは、規模が小さいからではなく地下水の水質がよいからです。

ところで、日本でペットボトルに詰めて売っているミネラルウオーターはどこで採水するのでしょうか。答えは地下水です。ヨーロッパのミネラルウオーターでは湧水をそのまま詰めたものもありますが、日本で作られているものは地下水をくみ上げてボトリングしています。地下水には水利権がありませんから、周辺の土地を買えばその土地からは勝手に汲みあげられます。

長野県は地下水が豊富です。安曇野のワサビ畑の湧水も山からの地下水がわき出たものです。長野市の水道の水源の一部は地下50メートルほどからくみ上げた地下水です。アルプスの山に浸みこんだ雨水が地下浸透して地下水として流れ、フォッサマグナの断層で止められ地下に大量にきれいな水が溜まっています。井戸を掘る土地を買えば、アルプスから流れてくる地下水を水利権なしで使えます。 これこそ、日本人は水はタダと思っている現場でしょう。最近、海外資本が長野県などで水源林を買っているという話があります。本来水源林というのはそこを源流として海まで流れる河川の源の森林を養生するものです。ペットボトル用の井戸を掘る場所ではないはずです。

水道屋はそんな、ペットボトルブームに加担してはいけません。ペットボトルより水道水の方が安くて安全、そしておいしいと言わねばなりません。自分たちがペットボトルを配ってはいけません。それより水栓(蛇口)から出した水を飲む習慣を広げるため、公園にヨーロッパの町の広場にあるような水飲み場を作ったらどうですか。【分類:おいしい水】

[ 2015/12/25 ]  『黒姫高原理科教室』 NO91. ペットボトル

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NO92. レモン味のお冷

喫茶店やレストランで、日本独特の無料のお冷の水にレモン味のものを偶に遭遇します。水道水をボトルに入れて冷蔵庫で冷やしておけばペットボトル水を買わなくてもいいと言う人もいます。一度水道水を沸騰させればよいと言う人もいます。いずれも塩素臭い水道水をおいしくする方法のようです。さらにネット上には、発がん性の有機塩素化合物(VOC)は沸騰させても消えませんとか、浄水器を使うのが一番とか、怪しい情報の氾濫です。

ところで、水道水の水質分析では、残留塩素が他の成分の分析の妨害になるので、ものを酸化する働きのある塩素を、酸化の反対の還元作用のあるアスコルビン酸(ビタミンC)を加えて分解し消すことをします。あるいは揮発成分を追い出すには沸騰させればよいのですが、揮発成分を全く無くするには1時間ほど沸騰させないと抜けません。

残留塩素は熱や日光でも分解しますので、確かに汲み置きしておけば減少します。こうした方法は、おいしい水のためではなく、水質分析で残留塩素を消す方法です。最初のレモンを水に加える方法も、ネット上でレモンのビタミンCで塩素を分解する方法として紹介されています。

レモン入りのお冷は、塩素臭を消すのが目的ではないかもしれませんが、本来無味無臭の水にレモン味は、かえってよけいな味です。そもそもうまく管理された水道水で、塩素臭はそれほど気になるのでしょうか。残留塩素濃度は一昔前より低くなってきています。水質基準の最低値の0.1mg/lまで下げれたら、塩素臭は普通の味覚の人には分からないと思います。残留塩素は放置すれば減少しますが、冷蔵庫に入れておくとおいしいと感じるのは冷えているから。室温で汲み置いたら生温く、雑菌も繁殖します。

本当においしい水道水を飲みたければ、水道水そのものをおいしくさせればいいのです。まずできるのは浄水場から末端までの滞留時間を短くすること。そうすれば塩素の添加量も減らせるし、水温も下がります。水道屋もプロですから、彼らにさせればよいのです。もしプロではなければ、教えてあげましょう。

水温、塩素臭と並んで水道水がおいしくない理由に金気があります。鉄味です。業者の中にも、配管から鉄錆の赤水が出るからといって、配管工事を客に勧めることがあります。この工事をするのは、メンテナンス上の理由のはずです。鉄分がでるのは建物の配管の錆とは限りません。もともとの水道水中に鉄分が多いこともあります。黒姫高原の水道水を組み置きしておくと、おいしかった水がまずくなります。金気臭くなります。黒姫高原は昔製鉄ができたように、褐鉄鉱を豊富に地層に含んでいます。地下水にはそのため鉄イオンが多く含まれています。鉄イオンは濃くなれば2価は薄緑、3価は黄色ですが、地下水の濃度では薄くてほとんど無色です。ところが地下水が地上に出て、空気に触れると酸化して鉄イオンが鉄になります。鉄といっても銀色の金属鉄ではなく、鉄錆の色です。だから黒姫高原の水路は赤さび色なのです。

黒姫高原の水道も地下水なので同じです。水栓(蛇口)から出てすぐは鉄イオンです。これが空気と触れると酸化して鉄の渋みがしてきます。建物の配管から出た錆なら最初から鉄味がします。黒姫高原の水道水中の鉄分(鉄イオンも鉄錆も合わせた濃度です)はおそらく水質基準の鉄分の基準値程度前後でしょう。鉄分は健康に問題ありませんから、あまり騒がないでおきましょう。井戸によっては、くみ上げてすぐは無色透明だった水が、次の日まで汲み置いて置くとバケツの水が赤茶色に濁っていることがあります。鉄イオンの濃度が高く、空気に触れ酸化して鉄錆になったのです。

井戸水の水質検査をする時に、採水直後と、しばらくたってから測ったのでは値が変わるものに、色度と濁度があります。これはこの鉄イオンが酸化して黄色く、濁った鉄錆ができるためです。鉄分は鉄イオンと鉄錆を合わせた全量を測るので、値は変わりません。それ以外に変化するものに、pH(水道法ではpHではなく、pH値と呼んでいます)があります。地下水の時の水は空気に触れていません。ところが、くみ上げて放置すると空気中の炭酸ガスが水に溶けていきます。(逆に炭酸濃度の高い地下水では空中に抜けることもあります)

炭酸ガスが水に溶けるとその一部は水の分子と反応して炭酸になります。炭酸は酸なので酸性です。そのため放置した地下水はpHが下がることがあります。水質検査では、採水直後のpHが測れなかったときは、サンプル水を加熱して溶けている炭酸ガスを追い出してからpHをもう一度測ることがあります。

地下水ではなく、雨水でも空気中の炭酸ガスが溶けます。亜硫酸ガスなどが雨水に溶けて酸性の雨になる酸性雨が問題ですが、酸性雨でない普通の雨のpHは中性の7ではありません。空気中の炭酸ガスが溶けてpH5から6の間になっています。この値以下になった雨を酸性雨と呼びます。【分類:おいしい水】

[ 2016/01/05 ] 『黒姫高原理科教室』 NO92. レモン味のお冷

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NO93. 炭酸水

適度な炭酸ガスを含んだ水道水は、相快感があっておいしいです。炭酸飲料の栓を抜くと大量の気泡が出てきます。圧力をかけて無理やり溶かしていた炭酸ガスが押さえつける圧力が無くなったので溶けていられず気体に戻ったのです。地下水や雨水に空中の炭酸ガスが溶ける話をしました。砂糖を水に溶かす時、それ以上溶かすと飽和してしまい溶けない値、溶解度があります。溶解度は温度によって変わります。砂糖のような固体を液体の水に溶かすのと同様、気体の炭酸ガスを水に溶かすのもやはり溶かすことなので、溶解度がそれぞれあります。固体の砂糖では圧力は関係しませんが、気体の場合は圧力が高いと溶解度も増えます。

大気中には酸素も大量に含まれています。酸素も水に溶けます。雨水などに炭酸ガスが溶ける話をしましたが、酸素と炭酸ガスのどちらが雨水に多く含まれているでしょうか。計算で求めることができます。酸素と炭酸ガスのそれぞれの溶解度の値だけでは計算できません。雨水に溶ける濃度はもともと空気中に含まれている酸素と炭酸ガスの割合に比例します。この場合酸素の濃度の方が圧倒的に大きいです。そのおかげで川や海にすむ魚がエラで水中に溶けた酸素を呼吸できます。

水に酸素が溶けていると問題も起きます。地下水に含まれる鉄イオンが酸化されて鉄錆になって、赤水になったり、金気臭くなるのはこの水中に溶けている酸素による酸化です。酸素の溶けていない地下水では酸化は起きません。鉄クギを酸素が溶けていない水に漬けておいても錆びないのです。実際に酸欠の蒸留水に漬けておく実験をすると錆びません。一方、海水に漬けるとクギは真水より早く錆びます。

鉄イオンではなく、金属の鉄が錆びる時には酸素以外に、金属の表面が水にぬれている必要があります。多くの化学反応は水の中で進みます。この時の化学反応は電荷を持ったイオンの反応です。水は蒸留水より海水の方が電気を流しやすいので化学反応が進みやすく、錆ができるのは早いのです。石川県の千里浜に砂浜の海岸が堅く締まっていて、そのまま国道になったところがあり、自動車でドライブできます。ここでドライブした後は、水道水で洗車しておかないと車が錆ます。

海岸の建物は錆びやすいと言われます。海水由来の塩分が建物に飛んできます。塩分が食塩だけなら建物に食塩の粉が付着するだけで雨が降らない限り金属の酸化は進みません。しかし海水には食塩以外にマグネシウム塩も含まれています。にがりです。にがりは潮解性といって、空中の水分を吸収して溶ける性質があります。海水を煮詰めていくと食塩が析出します。残った濃い煮汁には潮解性のにがりが含まれています。ここで煮詰めるのをやめれば純度の高い食塩、さらに煮詰めて、にがりも結晶させれば旨みのある天然塩ができます。にがりを含んだ塩分が付着したトタン板は雨が降らなくても空中の湿気を吸ってぬれ、表面に付いた水分で化学反応が進み錆ます。

冬場に高速道路では融雪剤を撒きます。塩化カルシウムです。融雪剤は水の凍る温度を下げる働きをします。食塩を氷に混ぜると寒剤といって温度が下がるのも同じ凝固点降下という化学反応です。塩化カルシウムの方がさらに強力です。水の凍る温度が下がるので、気温がそのままなら凍っている水や雪は溶けます。海水同様、塩化カルシウムを含む水も鉄の酸化を進めますから、冬の高速を走った後は水道水で洗車が必要です。

大気中の酸素と炭酸ガスが水に溶ける量は実験では酸素の方が多いです。ところが実際の海では、炭酸ガスは大気中に含まれる量より、海に含まれる方が多いのです。液体の水に砂糖を溶かすと、砂糖の分子は水の分子の間に分散します。液体のアルコールや気体の酸素でも同じで、アルコール分子や酸素分子が水の分子の間に分散します。炭酸ガスもおなじく、水分子の間に、二酸化炭素の分子が混ざっています。ところが酸素の分子と違って、二酸化炭素(CO2)の分子はその中の一部は、水の分子と化学反応して炭酸(H2CO3)という分子に変わります。炭酸という名のとおりこれは酸ですが、塩酸のような強酸ではなく弱酸ですから、この反応はあまり進まず、蒸留水に炭酸ガスを溶かしてもpHは5以下にはなりません。このままでは水中に溶ける炭酸ガスの濃度は酸素ガスに比べわずかです。

ところで海水のpHを知っていますか。世界中でほぼ8です。わずかにアルカリ性です。弱酸は酸性では強い酸に負けて遊離酸、分子のままですが、アルカリ性ではイオンになります。炭酸は炭酸イオン(CO3 2-)や炭酸水素イオン(HCO3-)になります。海水にはカルシウムイオンが豊富に含まれています。サンゴなどの生物の働きで炭酸イオンとカルシウムイオンから炭酸カルシウムの結晶が作られます。サンゴ礁です。サンゴ礁は時間がたつと石灰岩になります。

化学反応は時間が経つと平衡状態に落ち着き、それ以上進みません。大気中の酸素と海水中に溶けた酸素は平衡状態です。ところが大気中の炭酸ガスと海水中の二酸化炭素の平衡は、できた炭酸が石灰石になって海水中から除かれるので、さらに新しい二酸化炭素から石灰石が作られる反応が進みます。大気中の炭酸ガスが石灰岩になるまでの全体が化学平衡です。こうして海水だけではなく海全体として大量の炭酸ガスを蓄積します。海水中の二酸化炭素はまた植物プランクトンによって光合成の材料になります。さらに付け加えると炭酸ガスは冷たい水によく溶けます。冷やした炭酸飲料を温め栓を抜くと、溶けきれない炭酸ガスが噴き出します。極地の冷たい海水も炭酸ガスを貯めます。こうして大気中には酸素ガスの濃度が高くなり、炭酸ガスは太古の昔から海洋に蓄積されて安定してきていたのが、人が発生する増えすぎた二酸化炭素は平衡を維持できなくなりました。バランスが崩れた結果が温暖化です。【分類:おいしい水】

[ 2016/01/06 ] 『黒姫高原理科教室』 NO93. 炭酸水

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NO94. エステル化

北信名産のリンゴ、このリンゴを収穫したキウイと一緒に袋に入れておくとキウイが熟成しておいしく食べられるのは、最近ではよくブログに載っています。リンゴから出るエチレンというガスのせいです。リンゴを家庭の冷蔵庫に入れておくと自分で出したエチレンガスで熟成が進み保存がききません。JAなどでは換気扇の付いた冷蔵庫を使って、エチレンガスが溜まらないようにしているようです。エチレンはわずかに甘い香りがするという人もいますが、それほど強い香りではありません。リンゴのよい香りはいろいろな他の芳香性の有機化合物のせいです。その中にエステルという化合物があります。有機化学で最初に行う実験にエステル化があります。エステルの合成実験です。

エタノールなどのアルコールと、酢酸のような有機酸をフラスコに入れ、化学反応を進めるために硫酸を少し加えて加熱すると酢酸エチルというエステルができます。エタノールも酢酸も水に溶ける物質です。できたエステルは水に溶けない油です。この酢酸エチルは接着剤のセメダインにも含まれあの接着剤の臭いですが、それよりバナナの臭いがします。バナナの臭いに似ているのではなくバナナの臭いはバナナに含まれるこのエステルのせいです。アルコールの種類をエタノールの代わりにメタノールとかに置き換え、有機酸も酢酸以外を使って同じ反応をさせるといろいろなエステルができます。パイナップルなどの果物の臭いはそれぞれ固有のエステルの臭いです。リンゴの香りもエステルです。

このエステル化の化学反応は、水溶性の化合物から水に溶けない油ができるとか、硫酸が反応を促進するとか、有機化学反応の基礎の学習になります。さらにできたエステルはそれぞれ特定の果物の臭いがするので実験に興味が湧くはずと昔の教師は思いました。サリチル酸という化合物があります。サリチル酸と無水酢酸を混ぜて加熱するとアセチルサリチル酸ができます。商品名アスピリンです。アスピリンは最初の合成医薬品です。サリチル酸と無水酢酸の液を加熱して反応させるとアスピリンのきれいな結晶が析出してきます。これもアセチル化の実験として入門書によく載っています。

塩色反応というものがあります。いろいろな金属を含む塩の水溶液を白金の棒の先に漬けて炎に入れると、金属固有の炎の色が出ます。食塩はナトリウムのオレンジ色、硫酸銅は銅の緑色、塩化ストロンチウムなら赤色という具合です。これも金属元素の電子配置によって固有の色が出るたいへん基礎化学的な実験です。また花火の色はこの原理ですとか、トンネルの照明がオレンジなのはナトリウムランプのせいだとかの説明で、教師は生徒が化学に興味を持つことを期待します。

こうした生徒(新入社員)が興味を持ちそうな実験を通して基礎化学を教えることは最近の若い世代には、昔の世代が思うほど興味が無い様です。これを呼んでいるみなさんも退屈でしょう。一方、スライムを作って遊ぶ実検や、伝次郎先生の化学実験は興味というより面白いようです。ただ本当に面白いだけで、化学の勉強には実際なっていないような気がします。

公務員の作るHPには、下水に家庭排水を流す時の注意に、コップ1杯の油を水質汚濁防止法の排水基準濃度にするには風呂おけ何杯分の水が要るとか、牛乳ではバケツ何杯の水とかいった説明があります。もちろん下水処理場では大量の水で薄めているのではありませんが、この説明では勘違いする読み手もいるでしょう。油が排水処理を妨害するのならストレートに生物処理の原理を説明すればよいのです。公務員は賢く、市民はバカだから直接説明しても分からないと思っているのでしょうか。まさか公務員は下水処理場でほんとに希釈していると思っている人がいるのでしょうか。

昔は金属のイオン化傾向の説明にトタンとブリキを例にあげました。金属によってイオンになりやすい順番がある説明です。その順でいけば、鉄よりイオンになりやすい亜鉛をメッキしたトタン板は亜鉛が先に錆びるので鉄は錆びない、逆に鉄よりイオン化傾向の低いスズでメッキしたブリキは鉄が錆びるので屋外では使えないのです。これも今では若い子にトタンとかブリキといっても知りません。トタン板も海岸では錆ます。高速道路などで表示板を支える鉄柱をよく見ると、メッキした亜鉛の結晶の方向が異なり、模様になっているのがあります。鉄に亜鉛をどぶ漬したメッキです。これは同じ亜鉛でもトタンより相当錆ません。

化学を教えるのに、興味を持たせようと思うと単に遊びになってしまいます。難しい話を避けようとすれば、何も伝わりません。結局ストレートに伝えるのが良いように思います。

私が在職中、新人に化学に興味を持ってもらうために、ガラス細工を実際にやってもらいました。最近は大学でもガラス細工は実習しないようです。ものづくりに興味がある人には楽しいようです。ブログでとんぼ玉を作って載せている人が結構いるようです。とんぼ玉はバーナーと両手があればできますが、実験器具の手作りには吹きガラスといって、口でガラス管を吹く作業が増えます。これも今後紹介していきたいと思います。この記事の左上のイラストのバーナーに気づいていましたか。【分類:化学】

[ 2016/01/06 ] 『黒姫高原理科教室』 NO94. エステル化

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NO95. ニトロ化

前回有機化学のエステル化でしたが、今回も化学反応です。化学実験でやはり面白いのは燃焼や爆発でしょう。 僕の中学時代、制服の詰襟のカラーはセルロイドでできていました。まだ当時は暖房は石炭(コークス)ストーブでした。ストーブ当番が交代で、新聞紙を使って点火していました。今ではボーイスカウトか黒姫高原の住人でなければ、うまく火がつかないでしょう。新聞紙と点火用の細い薪が数本配られ、1時間目が始まるまでに火をおこします。最近では実験でも安全のためアルコールランプが追放され、家庭でも自動着火のガスコンロで、唯一裸火を扱うのはタバコの着火のライターだけ。ここまで来ると火が怖い子供が増え、かえって危険だと思います。

昼休みに、制服のカラーを細かく切って当時アルミでできていた鉛筆のキャップに詰め、点火するとロケットになりました。最近は、下町ロケットのドラマのように、H-2ロケットなどは液体燃料ロケットですが、当時は国産ロケットは固体燃料ロケットです。今でも初代はやぶさはミューロケットで打ち上げです。ミューロケットは固体燃料です。セルロイドは固体ロケットの燃料同様良く燃えます。セルロイドは初めて作られたプラスチックです。綿に硝酸を反応させた硝酸セルロースは最初火薬として作られました。

硝酸塩と木炭と硫黄を混ぜた黒色火薬に対して無煙火薬と呼ばれました。それほど硝酸を反応させていない硝酸セルロースは弱綿と呼んで、包帯の代わりやセルロイドの原料になりました。 今では考えられないでしょうが、教室の中に火があれば、火遊びをしたくなります。当番制なのでクラス全員コークスストーブの点火、消火ができます。燃焼したコークスは製鉄の溶鉱炉と同じなんです。

有機物に硝酸を加え反応させることをニトロ化といいます。窒素の英語名nitrogenから窒素を含む強酸の硝酸は二トリックアシドです。硝酸の化学式はHNO3で分子の中にたくさん酸素があります。ロケット燃料は酸素の無い宇宙空間で燃焼します。火薬は分子内に酸素を持っていて、空気が要らず燃焼速度が速いので爆発します。このニトロ化反応でできた化合物でまず思いつくのはニトログリセリンでしょう。(厳密にはニトログリセリンはニトロ化ではなく酸素がもう一つ多い硝酸エステル化です)TNT火薬と呼ばれるものはトリニトロトルエン、溶剤のトルエンをニトロ化したものです。

実際のニトロ化は、一度硫酸を加えスルフォン化してからニトロ化するなど複雑で、硝酸を加えれば火薬ができるわけではありません。昔サスケというマンガで、忍者が着物の綿を便所横の地中で硝化菌がアンモニアから作った硝石を使って綿火薬を作る話がありました。硝石は信州の戸隠などでこの方法で本当に作られていました。綿をニトロ化するには硝酸が要りますが、硝石(硝酸カリウム)から硝酸を作るには硫酸が要ります。硝石のままでは黒色火薬しかできません。

 

硝酸セルロース(ニトロセルロース)を原料に楠木から採った油の樟脳と混ぜるとセルロイドができます。最初のプラスチックです。プラスチックの意味は熱可塑化樹脂と思ってください。その後いろいろなプラスチックが発明されましたが、塩化ビニルのように柔らかかったり、ベークライトなどの熱硬化樹脂で堅すぎて、カラーやピンポンボールはずっとセルロイドでした。このセルロイドのカラーも1970年代に別の燃えにくいプラスチックに変わってきました。硝酸の代わりに酢酸を使った酢酸セルロースです。以後カラーは燃えないので鉛筆キャップのロケットはできなくなりました。

セルロイドは映画のフィルムにも映画が始まって以来使われました。柔軟性、透明度や、おそらく感光材を塗るときの親和性などの点で、たいへん燃えやすい性質があっても他に変わるものがなかったのでしょう。燃えやすいセルロイドの映画フィルムというと、僕の好きな映画、ニューシネマパラダイスのシーンをすぐに思い出します。パラダイス座の撮影技師アルフレードが映写フィルムに火がつき、映画館は燃え、火傷で盲目になります。新しく出来たニューシネマパラダイス座で主人公のサルバトーレはアルフレードから映画を教わります。ここではセルロイドの燃えやすいフィルムが重要な小道具です。フィルムに感光材を塗るのにはゼラチンを使っていました。主人公の少年がフィルムのゼラチンが甘いので舐めているシーンがあります。

酢酸セルロースの燃えにくい映画フィルムも最近では無くなってしまいました。映画のデジタル化です。ニューシネマパラダイスの映画の中で、映画フィルムを入れた缶を持って隣村まで自転車で行くシーンがあります。隣村の映画館と掛け持ちで上映していたのです。複写できるフィルムに限りがあるので、新作映画を最初に上映できる映画館を封切り館と言う呼び方もありました。その後地方の映画館をフィルムが順に回っていくのです。今ではほとんどの映画館がデジタル化され、家庭でブルーレイを見るのと同じ仕組みで、フィルムなしで映写機で映しているようです。

映画という文化が変わったわけではなく、媒体が変わっただけです。映画そのものの良さは変わりません。制服の詰襟のカラーはどうなったでしょう。本来襟の汚れよけのカラーだったものが、堅い材質の飾りになってずいぶん経ちます。外国人から見たら、日本の小学生のランドセルや中高生の詰襟は昔のプロシアの軍服に見えるでしょう。昔のカラーはそれでも、燃やして遊べたけれど、今は何の使い道もない。昔は制服は家で洗えずクリーニングでしたが今は洗濯機で洗えます。やっぱっりカラーは洗濯に邪魔で外してです。【分類:化学】

[ 2016/01/07 ] 『黒姫高原理科教室』 NO95. ニトロ化

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NO96. 暗い日曜日

前回 ニトロ化の話から映画の話になりました。最近の映画館は巨大なシネコンとミニシアターだけになって、名画座がどんどん減っています。金沢市内では10年ほど前に最後の名画座が閉館しました。最後の上映は支配人の希望で、サムペキンパ監督の名作、ワイルドバンチでした。長野市内に、相生座という映画館があります。すぐ近くにシネコンがありますが、こちらは3スクリーンの名画座。

ところで映画にフィルムを使っていた頃は、フィルムの配給で封切館、ロードショー館とか独立系のミニシアターと二番館と呼ばれる旧作2本立ての名画座がありました。今残っている名画座は、文字どうり名作を上映してくれる映画館です。僕の区別方法は、映画のエンドロールが始まると席を立ち始め、照明がつくと誰も座っていないのがシネコン、エンドロール中に立ち上がると観客が嫌な顔をするのが名画座です。

この相生座はすごい名画座です。名画座と言うと、山田洋次監督の作品に出てくるような、支配人は元気でも観客が来なくなって、閉めることになった、落日の感じられる映画館が多いのに、こちらは違っています。郊外型シネコンなら建物の前は大駐車場、街の映画館は大通りに面して看板が掲げられ、ミニシアターならビルの地下に目立たないようにです。チケットは自販機。

ところが長野市の相生座は違うのです。道路に面してではなく、道路の先に広場があり、広場の正面に堂々と建っています。建物の左右の入り口の真ん中にはガラス張りの大きなチケット売り場がネオンで光っています。座席には2階席もあります。この光景、映画好きなら覚えているでしょう。ニューシネマパラダイス座です。それも焼けた後再建されたネオンに輝く方。昔は映画館に入り切れない観客が前の広場にあふれていたのでしょう。ネットで映画館の歴史をみると現役では最古のようです。建物は古いけど映写機はデジタルになっています。でももっとすごいのは支配人が選んで上映する映画の個性。映画好きが見たい映画を仕入れて来ている様です。シネコンの映画とは違った名作ぞろいです。

この相生座はリクエストを受け付けています。ここでぜひかけて欲しいのが映画、暗い日曜日。ハンガリーの名作映画です。この映画の話の前に、もとになった暗い日曜日と言う曲の話をします。今、ネット上で暗い日曜日と検索すると、聞いたら死ぬ曲と書かれたブログまであり都市伝説になっています。

僕の若い頃、暗い日曜日という曲はフランスのダミアが歌っていました。暗い感じの名曲です。日本でも、当時の銀巴里のシャンソン歌手が何人か歌っていたのでもともとのシャンソンかと思っていました。曲はメランコリーというより、シャンソンに良くあるアンニュイな感じです。ところが音楽好きな友人が教えてくれました。この曲はもともと第二次大戦の前夜のハンガリーで作られた曲で、その後イギリスやフランスで歌われるようになった。当時この曲がラジオでかかると自殺者が増えたので、放送禁止になったと音楽好きの友人が話していました。ただし彼はそれほどシャンソン好きではなく、ましてやハンガリーに行ったこともなく、まだインターネットの無い時代です、ラジオの深夜放送のパーソナリテイが話していたと言うことでした。

ちょうどその頃、ハンガリーから日本に出稼ぎに来ていた演奏者と友達になりました。当時のハンガリーはソビエトの占領が終わり、隣国チエコのプラハの春の影響で自由な雰囲気でした。その後の民主化のひとつ前の改革の時代です。当時のハンガリー人はソビエトの占領の影響でロシア語を話せましたが、その演奏者は、ロシア語を嫌っていました。ロシアの占領の前はドイツの占領の時代があり、ハンガリーの年配の人はドイツ語が話せる人が多く、彼とも片言のドイツ語で会話です。

彼の話を参考にすると、華やかなハプスブルグ家のウイーンハンガリー時代の後、ハンガリーはドイツに続きソビエトの支配下で暗い日が続きました。この曲に関係なく、つらい生活で自殺者も多かったようです。それとこの曲の暗いイメージが重なって、今で言う都市伝説になったのでしょう。ただし当時は、ダミアの歌う曲がメインで、曲にまつわる話という程度でした。演奏者もシャンソンの名作として演奏していました。それがいつの間にかダミアの曲も聞いたことがなさそうな若造が、ブログで聞くと死ぬ曲と言っているのは、噂に尾ひれがつく良い見本でしょう。あるいはブログはあまり信用しない方が良いと言う。

映画 暗い日曜日はこの曲ができた時代を描いています。第二次大戦前夜のハンガリーのブタペストのレストランを経営する夫婦と2階に下宿する作曲家の話です。有名なドナウ川にかかるくさり橋の近くです。ネタばれになるのであらすじは避けます。映画ではレストランの名物、ロールビーフを食べに来るドイツ将校が悪役です。ところでハンガリーの演奏家から聞いたハンガリー料理にはロールビーフは在りません。似た物に肉を詰めたロールキャベツ(演奏家はトリトットカプストと発音していました)があります。この映画はドイツ、ハンガリー共同製作なのでドイツ人が間違えたのでしょうか。この映画は、曲が放送禁止は噂だったのでしょうが、あまり映画館で上映されません。映画館にかかったらぜひ行ってください。【分類:なし(余談)】

[ 2016/01/07 ] 『黒姫高原理科教室』 NO96. 暗い日曜日

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NO97. 亡命のハンガリー人

料理は科学ではないと言う料理人もいますが、僕は料理は化学だと思っています。そこで理科教室でも遠慮なく料理の話です。前回の映画、暗い日曜日は元歌がハンガリーの曲、ロケ地がハンガリーのブタペスト、俳優もハンガリー人でしたが映画はドイツ映画でした。だから出てきた料理もドイツ料理のロールビーフ。日本では、ただ肉とだけ言えば牛肉、というか高級な順に牛肉、豚肉、鳥肉のようですが、これもハンガリーの演奏者に聞いた話ですが、ハンガリーでは高級な順に鳥、豚、牛だそうで、トリ肉料理はごちそう、牛肉は庶民料理だそうです。

イタリア料理がトマト、ロシアでは赤カブ、といった風にハンガリーでは赤いパブリカを何にでも入れる印象があります。赤パプリカと牛肉を使ったシチューがグヤッシュです。牛肉だから庶民料理。もうひとつの庶民料理がロールキャベツ。日本のおでんにもロールキャベツがあるけど、キャベツそのものがヨーロッパが起源だから、こちらが元祖でしょう。暗い日曜日では、ロールビーフをドイツ将校が食べに来て、戦後もまた年老いた元将校が食べに来る重要なアイテムですが、ハンガリー料理では普通ロールキャベツです。

ドイツ料理のロールビーフは、牛肉の薄切りで野菜を包みますが、ハンガリーのロールキャベツ(トルトットカプスト)は逆で、豚肉をキャベツの葉で包みます。演奏者が作っていたのを見ると、日本ではパン粉を混ぜますが、生米を豚肉に混ぜていました。キャベツも日本でロールキャベツを作る時は、大きな鍋でキャベツを丸ごと茹でて葉を1枚ごと使いますが、塩漬けしたキャベツを使います。ドイツではザワークラフトと呼ぶ、長野の野沢菜同様の保存食です。漬け物ですから、乳酸発酵して酸っぱいです。

映画の暗い日曜日はネタばれを避けて料理の話だけにしますが、曲のほうは、もうすこし続きを話します。今でこそ、ネットで暗い日曜日の曲を検索すると放送禁止とか自殺と言う言葉が出てきますが、曲を聞いたことのある世代では、そんなことは感じないいい曲だったと言う印象です。この差はやはり当時の時代背景にあるのでしょう。

ハンガリーと言う国にどんな印象がありますか?。これも世代によって違うでしょう。冷戦時代には、ヨーロッパを西ヨーロッパと東ヨーロッパに分けました。西洋社会とスラブ系社会、西側とソビエト側、古くは西ローマと東ローマ帝国。東側は常に暗いイメージでした。その中でハンガリーだけが少し自由な気風が感じられました。あるいは19世紀末から20世紀半ばにかけて、多くの亡命ハンガリー人が西側でノーベル賞を取った天才を生んだ国。東側ではこの国だけ明るい印象があったのを私たちの世代は感じています。

もっと古い世代の人にとっては、ハンガリーと言えば、オーストリア、ハンガリー2重帝国として、ハプスブルグ家の全盛期の印象です。ドナウ川の橋の名前にもなった皇女エリザベートの時代です。その後第一次大戦と第二次大戦の間のヨーロッパの混乱時期にハンガリーはドイツに占領されました。映画や曲の時代です。暗い時代で、曲に関係なく自殺者が出た世相です。同じ時代に、日本でもよく知られた曲、リリーマルレーンがあります。ララアンデルセンやデートリッヒの歌うこの曲も禁じられたようです。若い頃知り合った来日ハンガリーの演奏家は、このドイツ占領からソビエト占領時代を知っていました。ベルリンの壁崩壊後、東側の西欧化が進み、貧富の差はかえって進んで、一部にはソビエト時代の方が暮らし易かったと言う人もいます。ソビエト崩壊の前に、東ヨーロッパの民主化の時代がありました。プラハの春です。ハンガリーではそれよりずーっと前に似たような時代がありました。忘れないうちに演奏家に聞いた話を書きとどめておきたいと思います。

ハンガリーでは、ドイツの占領が終わると、今度はソビエトの占領時代です。 演奏家に一番嫌いな政治家の名を聞くと、ラーコシュと言います。スターリン時代のハンガリー政府のトップです。東ヨーロッパ各国で、ソ連寄りの政府が続く中で、ハンガリーでは1956年に政変が起きました。日本ではハンガリー動乱と当時呼ばれました。ここではその当時の呼び方を使いました。事件とか、革命とか、反革命とか言う人もいます。まだ歴史として冷めてはいないので、呼び方も定着していません。隣国チェコでプラハの春が始まるより10年以上前です。

ナジと言う当時の政府のトップがソビエトに逆らいました。ソビエトはと言えば、スターリンからフルシチョフに変わった頃です。今の西側の呼び方で言えば、民主化、当時のソビエトから見たら反革命です。プラハの春では反ソビエト政権はしばらく続きますが、ハンガリーではナジ政権はソ連軍にすぐにつぶされました。プラハの春の時代では、ソビエト崩壊がもう近くに来ていたせいか、ソ連軍もおとなしく、戦車の前に人が立って停めている画像がありますが、ハンガリー動乱の画像は、ドイツ軍の戦車がソビエトの戦車に変わっただけで、市街戦です。ところがナジ政権が倒された後で、ソビエト寄りの政権ができたのですが、それほど不人気では無かった様です。演奏家にそれでは一番好きな政治家は誰かと聞くとカダールと言いました。ナジの次のトップ カダール ヤーノッシュです。(ハンガリーは日本に似たとこが結構あります。名前も姓名の順です。言語学的にも同じウラルアルタイ語族です。民族的にも蒙古斑があります)

カダール政権下でハンガリーは他の東欧東欧諸国と違って、西欧的な国でした。もともと隣国オーストリアとのつながりが長かったせいもあります。これも演奏家に聞いた話ですが、国境を越えてオーストリアに買い物に行くと言っていました。戦後のヨーロッパを東西に分けて考えますが、NATOかワルシャワかといった東西ではなく、セーヌ川、ライン川流域とか、ドナウ川流域とかで国を超えて文化を考える方法もあるようです。こうした歴史の中でハンガリー人は悶々と暮らし、国外に亡命する人も多かったようです。こんな歴史の中で暗い日曜日の曲ができたのです。亡命の時代が過ぎてからも、ハンガリーでは他の東欧諸国とは異なって、海外旅行する人が多かったようです。演奏者のように、国の許可をもらった旅行ではなく出稼ぎでした。

暗い日曜日の曲は決して放送禁止の内容ではなく、時代が暗かったのですが、ハンガリーを考える時にもう一つの放送禁止があります。演奏者と話していた時のことです。ハンガリー語でジプシーと言う言葉に当たるのはチガニーです。チゴイネルワイゼンのチゴイネルはジプシーのと言う意味です。ハンガリー語入門の本で覚えた片言で、あなたたちはジプシー音楽かと聞こうと演奏家にチガニーバンドと言うと急に怒り出しました。今では日本でもジプシーは差別語でロマと置き換えていますが、当時は日本ではジプシー音楽と言う言葉を使っていました。今はロマ音楽でちょっと変です。ハンガリーは多民族国家です。他のラテンやスラブ系の国と違って、もとはアジアから来たフン族の末裔です。ロマ族以外にも、かってジプシーと呼ばれた民族もいます。それらを合わせて、ハンガリー人は自分たちをマジャール平原にすむマジャール人と誇りを持って呼んでいます。ハンガリ語にチガニーと言うのがあっても、使ってはいけなかったのでした。ハンガリーの民俗音楽にチャルダッシュと言うのがあります。これもジプシー音楽ではなくハンガリー固有の音楽です。【分類:なし(余談)】

[ 2016/01/15 ] 『黒姫高原理科教室』 NO97. 亡命のハンガリー人

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NO98. ベルサイユ宮殿と兼六園

長野市相生座でベルサイユの宮廷庭師を見ました。今は美術館になっているパリのルーブル美術館から郊外のベルサイユに宮殿が移る際の、新しい庭園作りの話です。理科教室で取り上げる理由としては、セーヌ川からベルサイユまで水道を作ったことでしょう。水道と言っても、有名なフランス南部にある観光地、ポンデイユガルは古代ローマ時代の水道橋ですが、ベルサイユの水道は宮殿の噴水の水源でした。もちろん飲用にもしたでしょうが。今では、フランスでは、食事の際、水よりワインの方が安いと言われていますが、ちゃんと飲める水道水がパリ市にはあります。街角の公共トイレだけでなく、水飲み場もあります。レストランで高いミネラルウオーターが出るのは、ミネラルウオーターの種類ごとに味が異なるのを楽しむためで、水道水を水差しに入れたものは日本と同じように無料のようです。

パリ郊外のベルサイユに新しく宮殿を作るにあたって、宮殿そのものより庭園の方が予算を使ったようです。よくイングリッシュガーデンとフランス庭園が比較されますが、フランス庭園は幾何学模様で三角錐や円錐形にカットされた樹木や噴水のある様式です。水の不便な郊外のベルサイユに巨大な庭園を作るため、セーヌ川から用水路を作り水を引きました。これが文字どうり水道です。水道と言っても主に噴水に水を供給するためです。今のポンプで吹きあげたり、循環させる噴水と違って、当時の噴水は水の落差を使ったものです。それをいったん宮殿の貯水池に貯めてから、管を伝って噴水に送り、貯水池と噴水のある場所の高度差を落差に使って、水を吹きあげたのです。ベルサイユに行かれた方はお分かりのように、噴水と言ってもたいへんな量です。セーヌ川から引いた水路は、ひとつの町の用水と言うか、水道でした。

これに似たものが、日本にもあるのです。ベルサイユほどではありませんが、フランス式庭園は日本でも各地にありますが、ここで言うのは噴水です。庭園を作るのに、少し離れた河川から水路で水を引き、いったん庭園内の貯水池に貯め、そこから地下に埋めた管を通して噴水を噴出させる。これと同じものが金沢市の兼六園にあります。

江戸時代に加賀藩が作った金沢城に隣接する庭園の兼六園です。金沢市内を流れる2本の河川、犀川と浅野川のうちの犀川の上流から取水し、辰巳用水として金沢市内を通り金沢城まで水を引いています。犀川の上流から取水しているのは、金沢城までの水路を高低差を利用して流すために、金沢城より標高の高いところから取水するためです。取水口からしばらくは緩やかな傾斜を保つために、山をくりぬいてトンネルになっています。江戸時代に岩を手彫りでくりぬいています。辰巳用水の取水口付近は史跡になっていますが、ここに犀川を堰き止めてダムを作る計画が起き、市民が反対しました。今久しぶりに金沢を訪れると、ダムの堰堤は完成して、水がたまりつつあります。

街中を抜けた用水は兼六園の中の池や曲水に流れます。兼六園の池は当然人工の池です。定期的に水を抜き、泥を掃除します。この泥は当然産業廃棄物になりますので、以前この分析をしたことがあります。兼六園内の池より標高が数メートル下がったところに噴水があります。そこまで木でできた管が埋められていて、池の水が通っています。管を通った池の水はそこから上に噴き出し、ちょうど池の水面からの高低差分だけ上がります。そばに日本最古の噴水とか書いてあったような記憶です。 金沢城と兼六園の間には堀があります。今は道路になっていますが、この堀の水もですが、城内にも用水の水は、逆サイホンで堀の下を通って送られています。  金沢城やその付近は、犀川と浅野川に挟まれた川岸段丘で、標高が高く、水利に恵まれないはずですが、辰巳用水のおかげで、今でも融雪などの水に不便はありません。なんかタモリさんが好きそうな話です。規模は違いますが、ベルサイユ宮殿の庭園と兼六園、そっくりでしょう。【分類:水道】

[ 2016/01/15 ] 『黒姫高原理科教室』 NO98. ベルサイユ宮殿と兼六園

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NO99.  薪ストーブ

黒姫高原で薪ストーブに火をつける時、氷点下に冷え切った部屋でしばらく消えていたストーブと、まだ前日燃やした温かさが残ったストーブでは火の着きが違います。薪ストーブは煙突が温まらないと上昇気流がうまく流れず火の起こりが悪いですが、屋外の煙突は火を消せばすぐ冷えてしまいます。ストーブ本体の温度で火のつきが変わります。この理由を考えてみました。  今は、携帯用のバーナーはガスのカセットのものが多いですが、若いころキャンプで使ったのは、ガソリンを使うバーナーでした。火力が強く料理に便利でしたが、点火に時間がかかりました。ところで安全な灯油でなくなぜ、ガソリンを使ったのでしょう。

ガソリンバーナーを使うときは点火の前に本体に付いているポンプを手で押して加圧したのち、コックを開きガソリンを少しバーナー部分に出します。そしてマッチでバーナーではなく、バーナーの下に溜まったガソリンに点火します。その熱でバーナーが熱くなったら再度コックを開くと、バーナー内でガソリンが気化しバーナーから噴き出し勢いよく炎が出ます。今のガスカセットのバーナーならコックを開けばすぐ点火できるのに比べ、時間がかかりました。液体のガソリンを一度気体に変えてから燃やすためです。

室温が氷点下の時、灯油コンロに火をつけるとき、なかなか点火しません。灯油ファンヒータではなく、芯のある灯油ストーブです。乾電池式の点火フィラメントではなかなか点かず、マッチの方が早いです。薪ストーブの点火を早くするのに、新聞紙を灯油で濡らしてマッチの火をつけても、灯油に火が付きません。これは引火点がガソリンと灯油で異なるからです。引火点とは燃料にマッチなどの裸火を近づけた時に火が付く最低の温度です。引火点以下では火を近づけても燃えません。ガソリンの引火点はマイナス40℃程度なのに対して、灯油は+40℃付近です。 そのため灯油そのものに火を近づけても引火しないのです。芯のあるコンロやランプの灯油に火がつくのは、マッチで芯が温まり引火点以上になるからです。灯油の引火点は40℃付近なので、真夏の炎天下以外では灯油に直接火をつけても引火しないわけです。もちろん引火点の低いガソリンは冬山でも引火します。家庭用のストーブにガソリンではなく灯油を使うのはこのためです。

灯油やガソリンに引火しただけでは、液体の表面が燃えるだけです。火力を得るには燃料を気体に変えて一気に燃焼させる必要があります。先のガソリンバーナーではガソリンを燃やしてバーナーを熱くします。温風ファンヒーターでは、電熱線でバーナーを温めます。着火に数分かかるのはこの時間です。芯のある灯油ストーブでは芯が熱くなると炎が大きくなります。いったん温度が上がればその燃焼熱で燃料は次々に気化します。

以上は液体燃料の場合ですが、薪ストーブの燃料は固体の薪です。薪を燃やした時と木炭では燃焼の様子が違います。木材には水分が含まれているので、生木は燃えにくいです。水分が多いと、水を水蒸気にするのに気加熱を奪われ燃焼が進みませんので割った薪は乾燥させて水分を除きます。薪を燃やすと炎が出ます。燃える気体が出ているのです。炎は気体が空中の酸素と化学反応している姿です。木を燃やすと、まずこうした燃える気体成分が熱で木の外に出て炎となって燃えるのですが、燃焼温度が低いと燃えずにタールとなって、冷えて煙突の内部に凝固します。乾燥していない薪を燃やすと煙突にタールが溜まるのはこの理由です。

ロケットストーブでは燃焼温度が高いので、揮発成分が効率よく燃焼し、その熱でさらに成分の気化、燃焼が進みます。薪の燃焼が進むと、炎が出なくなって、薪が赤くなって燃えているのが分かります。揮発成分が抜け薪が木炭になったのです。木炭は気体が出て燃えるのではなく、固体の木炭が高熱になり空中の酸素と直接反応して燃焼します。炭の火が長く持つのは、固体の燃焼だからです。薪ストーブでは最初炎の出る燃焼、次に炎の出ない木炭が赤く燃える2段階の燃焼です。薪も木炭も、室温では空中の酸素と反応して燃えません。室温で火が付いたら大変です。燃焼が始まる温度まで加熱する必要があります。いったん燃焼が始まったら、燃焼で出る熱で次から次に燃焼が続きます。最初に炎が出る時の温度の低い燃焼では、気化したガスは燃えずに飛んで行ってしまいます。焚火などの場合です。薪ストーブでは、火をつける時は煙突に気流が通りやすく、火がつくと燃焼室の温度が上がるように遮蔽板を動かすようになっています。炎の出る燃焼はこのように、薪が燃えるのではなく、薪から出たガスが燃えるので燃焼室の温度を上げる工夫が要るのです。

炎の出ない木炭になった薪の燃焼は薪本体が燃えるのでバーベキューの木炭と同じです。燃焼は、空気を十分に送ってやれば進みます。木炭はほとんど成分が炭素です。酸素が十分あれば、木炭の中で炭素が空中の酸素と化学反応して熱と二酸化炭素になります。ところが木炭が燃える時、青い炎が出ることがあります。これは酸素が不十分で木炭の炭素が空中の酸素と化学反応して酸素が少ない、一酸化炭素になるからです。一酸化炭素はガスで燃えます。青い木炭の炎は木炭から出た一酸化炭素のガスが燃えているのです。木炭や薪ストーブでは、換気が悪いと一酸化炭素中毒の心配があります。

鉱物の分析で吹管と言うものがあります。鉱石に含まれる金属の分析に使います。鉱石を砕いて粉にして、木炭の板に空けた数ミリの穴に詰めます。これをアルコールランプの炎を吹管で穴に吹きつけ加熱すると、鉱石に含まれていた金属だけが溶けて固まり、穴に金属光沢の塊が残ります。これを吹管分析と言います。今では機器分析が発達して使われません。木炭は加熱すると成分の炭素が酸素と結合しやすくなります。通常この酸素は空気中にあります。鉱石は金属が酸素と結合して金属酸化物になったものです。鉄なら酸化鉄、鉛なら酸化鉛が鉱石の成分です。

この粉を木炭の穴に詰め、吹管で炎を吹きつけ加熱します。木炭を火吹き竹で吹いて炎を大きくするのと同じです。これでたいへん高熱になった鉱石は、周りの木炭の炭素と化学反応します。金属酸化物の酸素が木炭の炭素と結合して、金属酸化物から酸素がとられ、金属が残ります。もし鉱石に金属が含まれていると、金属酸化物の酸素がとれて、銀色の金属の小さな固まりが残るのです。今はほとんど使われない方法ですが、こんな方法で金属を含む鉱石を調べていました。溶鉱炉で鉄鉱石とコークスを混ぜて燃焼させて、酸化鉄から酸素をとって金属鉄を作る製鉄の化学反応と規模は大変小さいですが、同じ原理です。

化学で酸化と還元と言う反応があります。酸素と結合する反応を酸化と呼びます。木炭が空中の酸素と反応して燃焼するのは酸化反応です。燃焼以外にも、金属の鉄が錆びるのも、空気中の酸素と結合して酸化鉄になる酸化です。鉱物中の金属元素は太古の昔に酸化物になったものです。こうした鉄鉱石などの酸化鉄の酸素を木炭やコークスなどの炭素と反応させて除く反応を還元と呼びます。酸化と還元は対になっていて、この時酸化鉄は還元されて金属の鉄になります。一方木炭は酸化されて2酸化炭素になります。【分類:酸化還元】

[ 2016/01/21 ]  『黒姫高原理科教室』 NO99. 薪ストーブ

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NO100. 記念特集1 大きな水道、小さな水道

一般家庭では、汚水や排水はそのまま下水に流す場合と、浄化槽や合併処理槽で浄化してから流す場合がありますが、産業界では排水はいったん排水処理してから公共水域や下水道に流します。この時、水質汚濁防止法の排水基準をクリアするために、生物処理や化学処理を行い排水濃度を下げる操作を行うのですが、そんな面倒な処理をしないで、濃い排水を地下水で薄めてやれば、排水基準をクリアできないかと言う質問が時々あります。

排水基準は濃度の規制なので、薄めれば基準をクリアできます。これは法的に合法かと言えば、答えはもちろん否です。以前は水質汚濁の施行令や施行規則に希釈はダメと書いてありましたが、今では希釈は処理では無いのでわざわざ断るまでもなくダメだとされています。しかし現実には、排水の濃度の測定は施設の境界にある排出口でサンプリングするので、そこに流れ出るまでに、施設から出る濃い排水と、生活排水が混ざり、ちょうど薄まって、故意にではなく、たまたま処理設備が壊れていても排出口での値は基準値以下になっていることがあります。

倫理的には許されないけれど、結果的に薄めただけで排水基準をクリアするのは問題です。1970年代は公害の時代でした。今は環境汚染と呼んでいますが、公害と言う言葉が登場したのもこの時代です。当時公害国会とも呼ばれました。今ある公害防止の諸法令がこのとき作られました。東京湾や瀬戸内海などの内海や琵琶湖の汚染がひどい状況でした。排水の濃度を規制するだけでは希釈すれば濃度はクリアですが、全体の汚染物質の量は変わりません。そこで総量規制と言う法令を作りました。汚染物質の総量で規制をすれば薄めても変わりません。

排水処理、下水処理の方法は、排水の出る場所ごとに処理場を作るより、排水をまとめて広域の処理場を作った方が経済効率が良いです。しかしこれでは汚染物質の濃度は場所ごとに異なるので、広域化するだけで処理をしなくても希釈効果があります。どこか特定の場所で生じた汚染物質は、広域処理場で大量の他の排水と混ざると、処理をしなくても混ざるだけで濃度が下がります。総量規制なら希釈の影響はありません。また汚染物質の除去も、広域化して薄くなった物より、発生場所ごとに濃度の高いうちに処理したほうが除去がしやすいのです。

排水処理場の中には希釈による効果を無くすために、雨水を排水に流すのを禁止している物もあります。(農業集落排水処理場)見かけ上、大規模な広域処理場は経済的に効率が良いように見えますが、ある汚染物質が出るのは特定の排出源です。そこで濃度の高いうちに処理すれば、その特定の汚染物質を出さない他の処理場では、処理の必要はありません。現実では経済上の理由で広域化の方向に成っています。自治体単位の下水処理場が、複数の自治体が集まり巨大な広域下水道が作られています。では排水ではなく水道では広域化の効果はどうでしょうか。

水道事業は給水人口5001人以上の上水道と、5000人以下の簡易水道に分かれます。(さらに少ない飲料水供給施設は水道事業に含まれません。専用水道は自家用です)上水道が都市部に普及に対して、簡易水道は人口の少ない地域に普及しています。簡易水道と言うと何か上水道に比べて簡易的な施設で、上水道より水質が劣ると思う人が居るようです。水道法では、上水道も、規模の小さな簡易水道でも同じ水質基準を要求しています。そのため簡易水道では規模が小さいと言う理由で経営がさらに困難になります。上水道と簡易水道の違いは、給水人口の差だけです。簡易水道は施設に予算をとれないので上水道に比べ水質が劣ると想像されそうですが、水質は上水道と同等か、場合によっては上水道より良いのです。

その理由は上水道と簡易水道で、水源が違うからです。もともと、水道水はきれいな井戸水に塩素消毒を行う程度で始まりました。簡易水道の場合、多くが都市から離れた地域です。その地域の給水人口に必要な水量を満たす井戸水や湧水が比較的容易に見つかります。地下水の場合、もともと水質が良いので、塩素消毒だけで水質基準に適合します。多くの簡易水道では、地下からポンプアップした原水に、残留塩素を添加してポンプで送水するだけの施設で十分なのです。

一方都市の水道は井戸水では水量が不足なので、どうしても河川水を原水にします。河川水が原水の場合、ろ過を行う必要があり、ろ過池のある浄水場が要ります。一部の簡易水道でも河川水を水源にしているため浄水場があります。地下水に比べ都市部の河川水はいろいろな汚染物質を含むため、大規模な浄水場が必要になります。雨水が地下浸透して地層でろ過された地下水と、汚染物質が流れ込む河川水では、水質は比較になりません

上水道や簡易水道は水道事業ですので、水道料金をとり、採算を考えます。採算のとれない簡易水道を上水道に統合したり、小さな簡易水道をひとつにまとめる動きがあります。簡易水道を廃止して、来月から上水道に切り替わりますと言う案内が来ることがあります。この時、実際に水道管を新しく上水道から延ばしてくることもありますが、多くは違うのです。多くの場合、採算のとれない簡易水道の事業を廃止して、その施設を上水道の会計に組み入れる作業で、施設はそのままで看板が変わるだけです。会社が吸収されても、そのまま営業を続けるわけです。

上水道は事業としての単位です。一つの上水道に在る水源井戸や浄水場の数は一つとは限りません。上水道とは給水人口5001人以上で行われている水道事業の事で、その中でひとつの浄水場から枝のように水道管が広がっているわけではありません。ひとつの上水道のエリア内にいくつかの浄水場があり、水道管は単に枝分かれして広がるのではなく、インターネットの網のようにというか毛細血管のように、網状になっています。どれか水源が止まってもよいようなネットワークです。中にはエリア内の隅に離れて孤立した水道網も在ります。信濃町の上水道でも、幾つかの水源が在ります。水源によって水質が異なるので、同じ信濃町の上水道を飲んでいても、別の水質の水であることがあります。信濃町の上水道は軟水ですと言う人と、硬水ですと言う人が出てくるのです。信濃町の上水道の水源は湧水と深井戸とを使っています。

都会の水道では大量の原水が必要のため、河川水や河川に沿って流れる伏流水を利用することが多い。河川では季節によって水量に差があるので、水量を確保するためにダムを作り、水を溜める。長野市では現在原水を長野盆地の地下に溜まった地下水と、ダムを水源にしているが、以前は野尻湖の水を水源にしていました。琵琶湖も近畿の水源となっています。湖沼の水は河川以上にリンや窒素が流入して豊栄養化となって微生物が増殖し、かび臭やクリプトスポリジウムなどの除去困難な成分が含まれています。

簡易水道では、自分のところに水源が無い場合は、無水源簡易水道と言って、余所から原水をもらうことがあります。上水道でも地下水が枯れるなどで水源が不足すると、県から水を分けてもらうことがあります。もちろん分けてもらうと言っても料金を払ってです。そこに目をつけたのが県水です。水道の分類で上水道、簡易水道以外に、水道用水供給事業という区分があります。給水人口を持たず、他の水道事業者に原水を売るのが仕事です。水源不足の簡易水道や上水道に水を供給するために県が行うのならよいのですが、実態は違うようです。

各地で不要なダムの建設が問題になっていますが、ダムを作る時に使った多額の費用を回収するため、ダムに巨大な浄水場を作り、周辺の自治体に高く売るのです。水道事業なので、ダムの水をそのままではだめなので、浄水場を作り水道水質基準をクリアするまで浄水しないといけませんのでよけいに費用がかかります。本当に水源の無い自治体だけでなく、水の不足していない自治体まで押し売りです。そうした自治体では、地下水や、河川でも山奥のきれいなところから原水を取っているのに、高くてまずい県水を買わされるのです。

金沢市は山間部に犀川、内川という小規模で水のきれいな河川があります。そこに犀川ダム、内川ダムをつくりそれぞれ原水にしています。とくに古いほうの末の浄水場は緩速ろ過でこの給水エリアではおいしい水道水が飲めます。金沢の隣の白山市や川北町では、手取川の扇状地にあるため、地下水が豊富です。周辺の水道は手取川ではなく、扇状地に井戸を掘れば塩素消毒するだけできれいな水道水になります。ところが地下水は水道以外に工業用水としても使います。そのため井戸の水位が下がり枯渇してきました。その為水源不足に成り、不味くて高い県の水道用水供給事業からの原水を買うことに成ります。県の水道用水供給事業はこの扇状地を流れる手取川の上流にダムを作りそこから取水して県営浄水場で行っています。地下水の枯渇の原因に県水の取水もある様です。困った悪循環です。

水道の分類で残った一つ、専用水道も問題があります。自家用の専用水道は多くが高い水道水を買う代わりに敷地内に井戸を掘り、消毒して使っています。井戸水なので安くて水質も良いのです。もう一つ利点があります。地下水には水利権がありません。河川水や河川に沿って流れる伏流水には河川法で水利権があります。取水するには、農業用水を管理する組合や、発電所を持つ電力会社と調整が要ります。水利権は江戸時代にまでさかのぼって、早い者勝ちです。地下水なら自由に使えます。ショッピングモールや自衛隊や工場が専用水道として地下水を大量に消費します。またしても地下水枯渇の心配があります。

水道と並んで工業用水と言うものがあります。工場が地下水をくみ上げて工業用水にすることもありますが、自治体から工業用水を供給することもあります。各地に、河川から水を引いている用水路があります。水道ではありませんので浄水場は要らず、河川水を取水するだけです。

地下水には水利権が無いので、ペットボトルへの取水を含め、水道水以外の工業用水などに大量に汲みあげられていて、枯渇や水位の低下、地盤沈下が問題に成っています。地下水の取水制限もあります。

そこで,「上水道、簡易水道にはおいしい地下水を優先的に使える様にし、水道用水供給事業や専用水道は必要以上に進めず、代わりに河川水を工業用水に使うことを進める。限りある地下水は飲料水に使う。さらに現在土地を所有すれば自由に使える地下水にも水利権をもうけ土地所有者が自由に使えなくする。」 こんな提案を100回目の記念にしたいと思います。【分類:水道】

[ 2016/01/21 ]  『黒姫高原理科教室』 NO100. 記念特集 大きな水道、小さな水道

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