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NO11. 塩素イオンと塩素ガスって別物?

井戸水、水道水など飲料水の水質には大きく分けて、水の素性、味を決める成分と、健康に害のある汚染成分があります。水質検査はこの両方を測定します。水の素性はpHやナトリウム、カリウム、カルシウムなどのミネラル分や、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオンなどです。鉄分も有害成分ではなく、こちらです。有害成分の検出は保健所にお任せして、ここでは水の味に関わるイオンについて話します。

水に基本的に含まれ、味を決める成分に塩化物イオンがあります。元素記号ではCl塩素です。塩素原子が2個くっつくと塩素ガスの分子になります。 これが水に溶けると残留塩素(カルキ)です。塩素原子1個では塩化物イオンになります。食塩(塩化ナトリウム)は塩化物イオンとナトリウムイオンがくっついたもので、食塩が水に溶けると塩化物イオンができます。同じ塩素原子でも1個か2個かで別の成分になります。これが化学の面白いところです。

残留塩素とは水道に消毒のため人が加えた成分で、塩化物イオンは天然の成分ですが、たまに混乱を起こす方がいます。以前は塩素イオンと呼んだことがあり、水道水中の塩素濃度と言うと、塩素ガスの溶けた残留塩素の濃度か、食塩の溶けた塩化物イオンの濃度か、と、混乱を起こすので、化学では塩素ではなく塩化物と呼びます。漏水などで道路から水が湧き出した時、残留塩素と塩化物イオンの濃度を測ると、漏水の原因がわかります。残留塩素は水道水にしか入っていないので、これを検出た時は水道水の漏水です。地下水からは残留塩素は出ません。

塩化物イオンが高濃度で検出した時は下水の漏水です。この場合、塩化物イオンの由来は人の尿です。また井戸水では海岸に近付くにつれて塩化物イオンの濃度が高くなります。水道水中のミネラル分は地下に浸透した雨水が鉱物を溶かした結果ですが、 塩化物イオンの由来は海水なのです。水道水の素性、味を決める成分は土壌や岩石が由来の成分、海水が由来の成分がありますが、この他に空気由来の成分もあります。

[ 2015/07/22 ]『黒姫高原理科教室』 NO11. 塩素イオンと塩素ガスって別物?

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NO12. 空気由来の水道成分

大気汚染の成分が水道水の有害成分の由来になることがありますが、水道水の基礎的な成分にも空気由来のものがあります。酸性雨と言う言葉があります。大気汚染で空中に硫酸などが含まれるとそれが雨に溶けて酸性の雨になり、ブロンズの彫刻を溶かしたりします。では大気汚染が無ければ雨水は中性でしょうか?雨水のpHを測り、酸性なら大気汚染による酸性雨と言えるのでしょうか?実験をしてみると、大気汚染の無い山奥でも雨水は、わずかに酸性です。

空気中には炭酸ガスが地球上どこにでも含まれています。酸素や窒素のガスは水に溶けても分子が溶けただけですが、炭酸ガスは水に溶けると、水分子とくっつき炭酸と言う酸になります。酸と言っても硫酸とは違い弱い酸ですが、pH5程度でりっぱに酸性です。

中学などの実験で雨水のpHを測って、酸性雨だと騒ぐことがありますが、これより低いpHの時に酸性雨と初めて呼びます。弱いと言っても酸性です。また中学の実験ですが、石灰石に塩酸をかけると泡が出るのを経験しました。石灰岩や大理石を作る炭酸カルシウムと言う鉱物は、酸に溶けるとカルシウムイオンと炭酸イオンに溶けて分かれます。炭酸も酸ですから炭酸を含む雨水も石灰岩を溶かします。溶かす方にも、溶ける方ににも、“炭酸”が含まれるので混乱しないで下さい。

このように石灰岩の地質を通ってきた地下水にはカルシウムイオンが多く含まれます。石灰岩や大理石は各地に分布しますが、鉱物にはケイ酸塩鉱物というものもあります。堆積岩と呼ばれる鉱物などです。石灰岩が酸性で溶けるのに対して、ケイ酸塩は酸性では溶けずアルカリ性で溶けます。ガラスもケイ酸塩ですからアルカリで少しずつ溶けます。ケイ酸の名称に酸が含まれるのでこの酸がアルカリと反応すると考えると判り易いでしょう。

ケイ酸塩鉱物の地層を通ってきた地下水はあまりミネラル分が溶けず、カルシウム濃度も高くなりません。河川水や伏流水は雨水が素通りしてきてミネラルを溶かしていない軟水が多いですが、地下水は通過する地質で硬水、軟水に分かれます。黒姫山では南斜面の弘法湧水と黒姫高原の深井戸では地質が異なり、軟水、硬水に分かれたようです。

[ 2015/07/22 ] 『黒姫高原理科教室』 NO12. 空気由来の水道成分

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NO13. 水道水中のカルシウムイオン

ヤカンやポットの内側に付く白い結晶、缶石、は嫌なものです。ボイラーなどの配管内面に付くと運転に影響します。魔法瓶の内面の缶石を取るのに、お酢を入れて溶かす人もいます。缶石は炭酸カルシウムの結晶ですから石灰岩を酸性の雨水が溶かすのと同じです。この缶石のでき方も中学の実験でやったはずです。消石灰を水に溶かした石灰水に、息を吹き込むと白く濁りました。石灰水のカルシウムイオンと息の炭酸ガスが反応して炭酸カルシウムの結晶が出来たのです。

アルカリ性の水(排水)には炭酸が溶けやすいので、カルシウムイオンを含む水と、アルカリ性の水が混ざると炭酸カルシウムの結晶(スケール)が出来やすく、配管が詰まり困ります。酸で洗ってやればスケールは溶けるのですが、配管を通す水をいつもわずかに酸性にしておけば、スケールは出来ません。ボイラーや配管が詰まっても修理のできない原発の冷却水の配管では、リン酸と言う酸をあらかじめ水に混ぜておきます。

水道水の配管ではカルシウムは配管内面に付かないのでしょうか?やはりカルシウムの多い硬水は嫌われ者でしょうか?実は逆なんです。水道水中の炭酸とカルシウムイオンが反応して炭酸カルシウムができるのは同じですが、水道水では炭酸カルシウムの結晶は、良い者なんです。水道水中の炭酸は酸なので水道配管のコンクリートや金属を徐々に溶かします。配管内面は、鉄錆で詰まったりします。ですから、この炭酸が水中のカルシウムイオンとくっついて配管内面に炭酸カルシウムの膜を作れば、炭酸も無くなり、配管も保護されて助かります。

水道ではランゲリア指数と言って、炭酸カルシウムの結晶の出来やすさを示す値を測ります。カルシウム濃度とpHを調整して、この値がプラスになるようにします。以外でしょうが、カルシウム濃度が少ない時、石灰を加え増やすことがあります。硬水嫌いの方は驚くでしょう。逆に、排水や冷却水の方ではランゲリア指数がマイナスになるように調整し、スケールが付かないようにするのは当然です。

[ 2015/07/22 ] 『黒姫高原理科教室』 NO13. 水道水中のカルシウムイオン

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NO14. 海水中のカルシウムイオンの不思議

水中のカルシウムイオンの量で軟水、硬水を表し、おいしさの基になる成分であることは分かりましたが、炭酸ガスが石灰岩を溶かすことで水中のカルシウム濃度が増えたり、逆に水中のカルシウムイオンが炭酸ガスと結合し炭酸カルシウムの結晶になるなど、不思議に思いませんか。この炭酸ガスの起こす反応が結構複雑で化学を勉強している人でも、よく混乱します。

前に書いた実験、石灰水に息を吹き込むとカルシウムイオンが炭酸ガスと反応して炭酸カルシウムの結晶ができ、白く濁るのですが、この実験は続きがありました。さらに息を吹き込むと今度は白濁した水が透明になります。化学では炭酸カルシウムが、炭酸ガスが水に溶けてできた炭酸によって溶かされたと説明します。

この反応が海でも起きています。今問題の大気中の炭酸ガスは陸地では植物に吸収され光合成に利用されますが、陸地より広い海でも吸収されます。炭酸ガスは水に溶けるので海水(もともと弱アルカリ)に溶け炭酸になります。このままでは海水中の炭酸が飽和すればもう炭酸ガスは溶けないのですが、海水中にはカルシウムイオンが大量に溶けています。このカルシウムイオンと炭酸イオンが反応して、炭酸カルシウムになって炭酸を消費するので、さらに大気中の炭酸ガスが溶けることができます。この反応は化学的に起きるだけでなく、サンゴや貝が積極的に進めてくれます。大気中の炭酸ガスはサンゴや貝殻になって固定されます。

ここで実験でやったようにさらに息を海に吹き込んだらどうなるのでしょうか。実験同様に炭酸カルシウムが溶けるのでしょうか。実際の陸水ではいろいろなミネラル、イオンが溶けています。海水ではさらに濃いイオンが溶けています。こうしたイオンが溶けた水は緩衝作用と言って多少酸やアルカリが溶けてもpHがあまり変わりません。その緩衝作用を作っているひとつが炭酸の複雑な反応です。ただ炭酸ガス濃度があまりに増加すると、海水の炭酸濃度が増え、サンゴとして固定された炭酸カルシウムが炭酸に溶かされてしまいます。

[ 2015/07/23 ] 『黒姫高原理科教室』 NO14. 海水中のカルシウムイオンの不思議

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NO15. 水道水から生じる白い結晶 蒸発残留物

硬度の高い水をボイラーで使うと、カルシウム成分が炭酸ガスと結合し炭酸カルシウムの結晶ができ、配管に詰まる話をしました。またカルシウム分の多い排水を酸性にすると炭酸カルシウムのスケールが付着することも話しました。水道水でも、硬水では同じように炭酸カルシウムの結晶を生じやすいです。

ところで、ヤカンを空炊きした時底に残る白い結晶、あるいはコップや車のガラスを洗った後に残った水滴が乾いたあとで残る白い結晶も炭酸カルシウムでしょうか?水道水ではこうした、水道水を蒸発させた後に残る物質の事を 蒸発残留物 と呼びます。この成分としてはカルシウム、マグネシウムの硬度成分以外にナトリウム、塩化物イオン、硫酸イオン、シリカと言う成分などが入っています。

蒸発残留物の量を実験室で測るときは、水道水を器に入れ、100℃のオーブンに入れて放置し、蒸発しないで残った結晶の重さを測ります。軟水でカルシウム分がほとんど含まれなくても蒸発残留物の量が多いこともあります。温泉水では1リットルの水に10g以上含まれることもあります。炭酸ナトリウム泉とか硫酸ナトリウム(ボウショウ)泉とか温泉の効能書で見かけます。水道水にも含まれています。

カルシウムのように石鹸の泡立ちを悪くしたり、炭酸とくっつき結晶化はしませんが、これらの蒸発残留物も水道水の味に大きく関わっています。むしろ軟水、硬水と言う区別より蒸発残留物の量が少ないとコクの無い味、多いと苦みが増します。カルシウムでも蒸発残留物でも少なければさらっとしておいしいかと言えば否です。 適度の濃度がおいしいのです。さらっとしておいしいのは大吟醸の話。

もうひとつ ついでに 超軟水と言うか蒸留水を飲んだらどうなるかですが、私たち分析屋に言わせてもらえば、蒸留水を口に入れたら唾液が混ざってもう蒸留水ではありません。蒸発残留物の1成分 シリカについてもう少し考えてみます。実はシリカは水道水の検査項目にも通常は入っていませんが、たいていの水には含まれています。

[ 2015/07/28 ]『黒姫高原理科教室』 NO15. 水道水から生じる白い結晶 蒸発残留物

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NO16. 水道水から生じる白い結晶 シリカ

水道水の検査項目に普段は無いが、たいていの水道水では1リットル中にシリカが数10mg含まれています。元素の周期表でSiで表わされるケイ素です。このケイ素からできた鉱物がシリカです。鉱物には炭酸カルシウムのような炭酸塩鉱物もありますが、多くの鉱物はこのシリカからできたケイ酸塩鉱物でできています。ただ炭酸塩鉱物のように酸性雨では溶けず、地殻を何億年の間保っています。でもわずかには溶けます。

農家の方は稲が倒れやすいのとシリカの関係を御存じと思います。 稲の葉がけがをするほど堅いのもこのシリカが含まれるからです。 稲のモミにはシリカが含まれていますが、もみ殻を田んぼに戻さないとシリカが減ってきます。牛糞もみ殻堆肥なども売っていますが、稲が倒れやすくなると川砂をまくこともあります。もちろん川砂はシリカが含まれています。

このようにカルシウムのように溶けやすくはありませんがシリカも鉱物と水の間を循環していて、多くのものに かなりの濃度で含まれています。ガラスもシリカが主成分です。

ところで、蒸発した後の結晶ではなく、お湯や氷の溶けた水にキラキラした板状の結晶を見ませんか?地球のほとんどの地殻を作っているケイ酸塩鉱物にはいろいろな種類があります。その鉱物がいろいろ集まりさらに岩石を作っています。その中にケイ酸マグネシウムがあります。ケイ酸もマグネシウムも水道の成分です。普段はイオンとして溶けていますが、お湯を沸かすと炭酸ガスが抜けpHが上がります。氷は不純物を残したまま凍るので後にミネラル分が濃縮されます。この過程は実は堆積岩ができる反応と同じなのです。

水道水中のマグネシウムイオンとケイ酸イオンが周りの条件が変わったためケイ酸マグネシウムの結晶を作るのです。このキラキラ結晶については、ブログ等でガラスが溶けたもの(分析すればガラスも同じ成分ですから間違えたのかな)とか、アルミニウムとか言った推理、推測を見かけます。ひどいものは発ガン性があるから飲むなと言うのも有りました。エセ科学です。

[ 2015/07/29 ] 『黒姫高原理科教室』 NO16. 水道水から生じる白い結晶 シリカ

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NO17. 水道水から生じる赤い水

黒姫の山小屋の上水道の水栓(蛇口のことです)を、しばらく小屋を留守にして戻った時開くとしばらく赤い水が出ます。これは水道水の成分ではなく、上水道の屋内配管がこの小屋を建てたころは鉄管を使っていたため、配管内部に鉄錆がたまっていて急に水を出したために錆が一緒に出たのです。こうした赤水はしばらく出していると消えます。

この赤水は上水道の成分では無く、建物に原因があるので、上水道の検査で水栓水を測るときは5分ほど放水してから採水します。依頼者から水を無駄に流すなと言われることもあります。(食品のサンプリングなどでは買い取りします)

しかし黒姫高原では上水道そのものも鉄分が多くカナ気の味がします。こうした水では最近、内面をポリエチレンで覆った鋼管や、プラスチック配管の内面にも赤錆が付着します。地下水は空気に接していないため湧水などで地表に出ると空気中の炭酸ガスを吸収してわずかに酸性になります。同様に空気中にある酸素も反応します。前に、地下水がケイ酸塩鉱物の地殻を通ってくるとシリカが溶け込むことを話しましたが、他にも長い時間をかけていろいろの成分を溶かします。火山灰の地には有害なフッ素やホウ素が含まれます。黒姫高原では褐鉄鉱も地殻にあります。

鉄のイオンには2種類あって2価鉄と言う方は薄い緑、3価鉄は濃い黄色。地下水のなかでは鉄のイオンは2価の薄い色です。これが地表に出て空気と触れ酸化すると黄色い3価の鉄イオンになります。地下水をバケツに汲んですぐは無色であったのが、次の日になると赤水になっていることがあります。さらに空気を吹き込むと鉄イオンは酸化鉄の沈殿になって底に沈みます。これを大規模にやっているのが浄水場です。

隣の飯綱の霊仙寺湖はワカサギ釣りのためではなく、もともと農業用水の除鉄をしているため池です。微生物はこれをもっと盛んに使っています。鉄分の多い沼では水中の鉄イオンと空中の酸素を使って鉄錆を作り、この時発生するエネルギーを光合成の代わりに成長に利用する鉄バクテリアがいます。細菌の体は鉄錆でできた長い鞘状のもので覆われています。鉄分の多い湿地が鉄錆で覆われているように見えるのはこの鉄バクテリアが大量に増えているのです。鉄バクテリアは光合成をしないで成長できるので光の無い排水枡にも発生します。上水道の配管内部も、残留塩素が無いと鉄管でなくても、原水に鉄分が含まれ、酸素が溶けていれば鉄バクテリアは育ちます。残留塩素は鉄錆が多いと消費され無くなります。

[ 2015/07/29 ] 『黒姫高原理科教室』 NO17. 水道水から生じる赤い水

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NO18. 愛と宿命の泉

こんなことを考えませんか?黒姫高原は沢が少なく、水が豊かとは実感しませんが、けっこう地下水は豊かと聞きます。火山灰が5メートルも積もっているので地下水はその下を流れています。弘法湧水の豊富な水量はどこから来るのでしょうか?よく富士山の山体の容積に溜まった雨水は豊富な水量と言いますが、野尻湖の水量と周りの山が貯める水量を比較すると、この周りの山のどこから豊富な水量が出てくるのか、不思議に思ったことありませんか?山に降った雨水はいったん植物や根周りの腐葉土に貯められます。雪渓も貯水します。でも地下水はもっと複雑。河川や伏流水は上からしか流れません。谷を越え別の山からは流れません。

しかし地下水は地層の下を流れます。地層は水平とは限りません。褶曲した地層があれば、地下水は谷を越えて隣の山からも時間をかけて移動します。地層には水を通さない層がいくつかあり、地下水はその間を上下にも曲がって複雑に流れます。地層が地表に出ていればそこで湧水や、時にはサイホンになって噴き出します。

プロバンスを夫婦で旅行したことがあります。日本ではあまり知られていませんが、奥さんがフォンテーヌ、ド、ヴオークリューズに行こうと提案、村の中を泉から出た湧水がものすごい水量で流れています。湧水の水路には水車やレストランがあり、大変美しい水路の村です。信濃町のちかくの安曇野にも黒沢の映画のロケ地になった有名な場所がありますが、残念ながら比較ではありません。

そこで泉の水源に行く道があり、観光客が登っていきます。周りは石灰岩の山々で一見乾いた土地ですが、一か所山から突然大量の湧水が出ているのです。周りの山を見ても、そんなに水量を蓄えそうではありません。その湧水の水源に行く崖に沿った山道に小さなプレートが取り付けてありました。ここが映画“愛と宿命の泉”ロケ地。(もちろんフランス語で)以前に見た映画です。水道ばかりで退屈されるのでここで脱線します。(ネタばれ注意)

プロバンスの村の農家の主人が亡くなり、町に住む息子が農家を継ぐことになったが、村民はよそ者が来るのを歓迎しない。そこでイブモンタン(悪役)がその農家の水源を山に登り泥で塞いでしまう。どうせよそ者は、水が無ければあきらめ町に帰るだろう。残った土地を手に入れたら泉を元に戻す悪知恵。逆にイブモンタンの土地は水量が増え花作りで大忙し。

時は過ぎ、町から来た後継ぎの娘と、イブモンタンの息子、双方の子供の時代になる。映画の常で、お互いが惚れあう。親が水が出なくて苦労したのを知っている娘は、ある日山で泉の秘密を知る。今度は逆に村中の湧水の水源を止めてしまう。プロバンスの石灰岩の土地で、川が無いのに村の広場には、年中出ている共同水栓がある。映画によく出てくる風景です。後は一度映画とロケ地を見て下さい。

[ 2015/07/29 ]  『黒姫高原理科教室』 NO18. 愛と宿命の泉

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NO19. pHについて

水道水の性質を示すものにpHがあります。みなさんご承知のように水の酸性、アルカリ性を表すもので、水質基準では中性近くの5.8から8.6の範囲になっています。発音するときは英語式にピーエイチと読みます。たまにドイツ語のアルファベットの読み方でペーハーと言う方がいます。どちらで呼ぶかでどんな先生に習ったかが分かります。

pHは長さや重さと同じように計量法で決められた単位です。読み方もピーエイチと法律で最初から決められています。でも結構ペーハーと呼んでいる人がいます。専門家も。若いころ、医学系の研究室にしばらくいましたが、教授からコルベンを取ってくれと言われまごつきました。フラスコの事でした。医学系では患者をクランケと呼んだり、手術をオペと言ったり、ドイツ語の世界です。pHは化学者の発明ですが、日本ではなぜかドイツ語読みが多いようです。

上水道の専門家は、独自の文化圏を作りたいようで、水道法をよく見るとpHではなく、pH値 となっています。もちろん計量法ではpHが正しく、単位も無単位です。以前水道法では塩化物イオンのことを塩素イオンと呼んでいて、残留塩素と間違える方もいて、化学の国際ルールに呼び方を合わせました。pH値も今にpHに変わるでしょう。

排水の水質を決めた法律、水質汚濁防止法では pHではなく、水素イオン濃度となっています。こちらの方が堅い言い方と思われる方がいるかもしれませんが、化学をやった方なら、pHは水素イオンの濃度ではなく活量と習ったでしょう。水素イオン濃度と言う言葉は化学を知らない政治家が作ったようです。そういえば当時 公害 と言う訳のわからない言葉が作られ、いつの間にか環境汚染の言葉に変わりました。

かって永六輔さんが、尺の目盛りの物差しが違法なのはおかしいとラジオで盛んに話し、結局 尺の単位は計量法に無い単位で違法だが、尺の目盛りは違法ではないとなりました。だって尺の目盛りはメートルの物差しで刻めるのです。偽札と計量単位は国が厳しく取り締まるようです。それならペーハーの読み方は違法では?政治家は、若いころから化学は頭が痛くなるのでしょうか。

[ 2015/07/29 ]  『黒姫高原理科教室』 NO19. pHについて

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NO20. 酸の強さはどうやって決まる

前回 pHを考えましたが、ついでに酸について考えてみます。pHが7より小さな値を示すのが酸です。酸と名が付く物質にもいろいろあり、塩酸や硫酸のような強力な酸だけでなく、食品の中にもアスコルビン酸(ビタミンC)やクエン酸も酸です。

前者は金属も溶かす薬品ですが、後者はそうした反応はおこしません。強力な酸と酸味がする程度の弱い酸の差は何でしょうか?まず、思いつくのが濃度です。強力な酸は濃度が高いのでしょうか?そこで硫酸とクエン酸を同じ量、10gを1リットルの水に溶かしてみます。これに金属たとえば亜鉛を入れると硫酸は水素の泡を出して溶けますが、クエン酸は変化無しです。どうやら濃度では無いようです。砂糖を水に溶かすと、水中には 砂糖は一つの分子になっています。食塩(塩化ナトリウム)を水に溶かすと塩化物イオンとナトリウムイオンに分かれて水に溶けます。

このように分子として溶けているものと、イオンに分かれて溶けているものがあります。前回pHとは水の中に溶けている水素イオンの濃度に大変近いものと言いました。水素イオンをたくさん出すものがpHが低い、酸の濃度が高いのでした。

硫酸は水に溶けると全部が硫酸イオンと水素イオンに分かれます。大量の水素イオンを生じます。一方クエン酸は水に溶けてもクエン酸分子のままで、一部分だけイオンに分かれます。そのため同じ重さの硫酸とクエン酸を水に溶かした時、出てくる水素イオンの量が100倍ほど違ってきます。イオンになりやすさの差が酸の強弱の理由です。

イオンには水に溶けやすいものと溶けにくいものがあります。ナトリウムやカリウムイオンはそのままで水に溶けていますが、カルシウムやマグネシウムイオンはイオンのままでいるより、他のイオンとくっつき水に溶けない塩になりやすい性質があります。そのため水中のカルシウムイオンは炭酸イオンとくっつき炭酸カルシウムの沈殿になるほか、石鹸や洗剤ともくっつき水に溶けなくなります。硬水でシャンプーすると、洗剤のイオンは汚れとくっつく前にカルシウムとくっつき水に溶けないカスになって髪に付着します。硬水でシャンプーした時のごわごわ感です。

カルシウム以外にも水に溶けない塩を作るイオンがあります。アルミニウムイオンや鉄のイオンです。土の中にこれらの成分があると肥料のリンさんとくっついて水に溶けない塩を作り、肥料の効果をなくしてしまいます。黒姫の黒ボク土に含まれています。

[ 2015/08/05 ] 『黒姫高原理科教室』 NO20. 酸の強さはどうやって決まる

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