NO31-NO40

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NO31. 海の水はどこから来た?

水に砂糖を溶かすと、砂糖は1個づつの分子にばらばらになって水に溶けます。食塩の結晶を水に溶かすとナトリウムイオンと塩化物イオンに分かれて水に溶けます。逆にナトリウムイオンと塩化物イオンが同じ量溶けている水溶液を蒸発させると塩化ナトリウムの結晶ができます。

ここまでは中学レベル。砂糖などの化学物質や塩は、それぞれ水温によって溶ける濃度が決まっています。砂糖は低い温度ではあまり溶けませんが、高温では水の体積の数十倍も溶けます。それ以上溶けない濃度を飽和と言います。熱して飽和させた砂糖液を冷やすと、飽和できる濃度が低くなるので溶けない分は砂糖の結晶(氷砂糖)になります。食塩は溶ける濃度が温度であまり変わりません。飽和食塩水を冷やしても結晶はうまくできません。

食塩の結晶を作る時は、飽和食塩水を放置して水分をゆっくり蒸発させます。大きなサイコロ状の結晶が作れます。また飽和する濃度は塩の種類によって違うので、何種類かの塩のイオンが混ざった水溶液をゆっくり濃縮すると、あるいは温度を下げると、飽和濃度の低い種類の塩から順に結晶を作ります。水溶液を急に冷やすと、いくつかの塩が混ざった結晶ができます。

いろいろなイオンの溶けている水溶液を蒸発、濃縮すると、それぞれのイオンに対応した塩(えん)の結晶ができます。これが火山岩、溶岩がゆっくり冷える時、いろいろな鉱物に分かれる原理です。この時できる結晶には塩だけでなく水の分子が一緒に結晶します。結晶水です。最初に覚える塩化ナトリウムの結晶はナトリウムと塩化物のイオンだけで、できていますが、多くの金属の塩は結晶水を含むことが多いのです。

私たちの周りにある石ころ、ケイ酸塩岩石もケイ酸やアルミニウムや鉄イオンと塩化物イオンなどからできた結晶です。岩石を作る鉱物の結晶にも結晶水が含まれます。結晶水は加熱すると結晶の外に出てきます。たとえばよく実験室にある硫酸銅と言う結晶は1個の銅イオンに5個の水分子がくっついています。実は原始の海水はこの結晶水が火山で熱されて出てきた物、同じく海水の塩分も鉱物成分が溶け出した物と考えられています。水の無い火星でも、鉱物から水が作れるわけです。

[ 2015/08/15 ]  『黒姫高原理科教室』 NO31. 海の水はどこから来た?

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NO32. 軟水器

黒姫高原と金沢を往復して水道水について一番感じるのは、味では無く、御風呂なのでまた、硬水、軟水の話です。都会に比べたら味は金沢も黒姫高原も美味しいです。実験室で、蒸留水を作る時は水道水をそのまま使うとボイラーに炭酸カルシウムのスケールができるので、水道水をいったんイオン交換水で脱イオンしてから使います。

昔の実験室では、自分で塩酸と苛性ソーダを使ってイオン交換樹脂を再生していました。今は使い捨てのようです。蒸留水を作るのに大量の塩酸と苛性ソーダの排水を流すので、実験室規模だから許されることです。産業のボイラーでは、スケール防止に水道水をいったん軟水器というものに通します。実はこの軟水器と言うのはカルシウムイオンを除いているのではなく、ナトリウムイオンと交換しているのです。中の樹脂が劣化すると濃い食塩水を流してやるとまた元に再生します。

ボイラーの運転では、スケール防止のために安い食塩で運転できるので経済的です。これを硬水の多いアメリカでは、一般家庭での洗濯に軟水を使う為に家庭用の軟水器が普及したことがあります。最近は、各家庭が軟水器を使うと、毎月20kg入りの食塩を排水に流す事に成り環境汚染の問題になりました。何しろアメリカでは硬水より畑の塩分の方が問題です。畑に貯まった塩分を除く安い方法を見つければ大儲けできます。日本では今でも軟水器を進める水道屋がいるようです。

ところで軟水器の水はおいしいと思いますか。カルシウムは多少あった方がコクがありますが、この軟水は除去したカルシウムの2倍のナトリウムイオンが増えていておいしくありません。ボイラーのスケールを防止するには、カルシウムを水から除く方法以外に、カルシウムが炭酸イオンとくっついて塩を作り結晶になるのを防いでやればいいのです。カルシウムの陽イオンは陰イオンとくっつき電荷のない水に溶けない塩を作る性質があるのですが、キレート剤という薬品はカルシウム陽イオンとくっついても塩ではなく、また新たな陽イオンを作ります。イオンですから水に溶けたままですし、もう炭酸イオンとはくっつくことができません。この薬品をスケール防止剤と呼びます。

話は飛びますが、原発の冷却水には超純水を使っています。理由の一つに原発はいったん運転したら掃除ができないので、配管内でスケールができないように、軟水どころか超純水を使います。さらに念のためにスケール防止剤も加えます。トリポリリン酸というキレート剤などです。このリン酸がまた別の悪さをします。原発の話はまた別の機会に。

[ 2015/08/17 ]  『黒姫高原理科教室』 NO32. 軟水器

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NO33. シャンプーの成分

前に砂糖と食塩の水の溶け方を話しました。砂糖は分子のままで、食塩はイオンに分かれて溶けます。天然石鹸はイオンに分かれにくいので砂糖同様、冷たい水には溶けにくいです合成洗剤はイオンに分かれるので冷たい水にも溶けます。これは水温の話。正しくは合成洗剤中の陰イオン界面活性剤の話。カルシウムとくっついて石鹸カスを作るのは石鹸も陰イオン界面活性剤も同じ。

そこで合成洗剤では、カルシウムイオンと洗剤がくっつかないように、カルシウムイオンとくっついたまま水に溶ける化合物を作るキレート剤を加えました。トリポリリン酸という薬品です。硬水では洗剤がカルシウムに消費されて、多量に使わないと洗濯の効果が無いと前に話しましたが、トリポリリン酸を大量に加えておけば、カルシウムイオンがマスクされて洗剤が消費されません。後は洗剤とトリポリリン酸のどちらが安いかです。

その結果、琵琶湖のリン酸汚染が起きました。家庭から洗濯排水が多量に出て、栄養豊かなリン酸の濃度が上がり、琵琶湖に藻が大量発生しました。そこで今では洗剤の無リン化と言って、リン酸の代わりにケイ酸を使ったキレート剤に変わりました。 無リン化といっても、洗剤そのものが変わったのではなく、キレート剤の種類がリン酸からケイ酸に変わったのです。

EDTAというやはりキレート剤があります。実験室で昔から使われています。カルシウムとくっつき、水に溶ける別の化合物を作るので、たとえば水道水中のカルシウムイオンの濃度を測るのに使えます。水にこの濃度の分かったEDTAの液を徐々に加えていき、カルシウムイオンがあると色の付く試薬をあらかじめ入れておくと、色が消えた時、ちょうどカルシウムイオンの量とEDTAの量が同じなので、水道水の硬度を測ることができます。

このEDTAは化学屋ならみんな知っている薬品ですが、これが食品や化粧品によく使われています。カルシウムと大変くっつきやすいので、歯科医で歯を溶かすのにも使われます。シャンプーにも使われています。これが水道水中のカルシウムイオンと結合して水に溶けたままで化合物を作り、シャンプーの洗剤成分の消費を防ぎます。硬水でもシャンプーができるわけです。硬度の高いヨーロッパでは添加量が多いようです。このEDTAも体や環境に優しいかどうかは問題です。

[ 2015/08/17 ]  『黒姫高原理科教室』 NO33. シャンプーの成分

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NO34. 鍋屋上野浄水場

黒姫高原の山荘の水道水を飲むときは、1階の水栓からの水の方が、2階よりおいしいです。2階は水道の水圧がそのままではトイレの洗浄に弱いのでいったん屋根裏の小さなタンクに貯めて落差で加圧しています。1階と2階の味の差は水温です。2階の水はわずかに温くなっています。このことが極端なのは会社や、学校、マンションです。1戸建ての水道直結の水栓に比べ、こうしたビルの水道水が不味いのは、都会の水道の水質が悪いのではなく、屋上のタンクで温まった生ぬるい水のせいです。水道水の味は水温に影響されます。

そこで思うのが名古屋の水道水。日本一おいしい水道水をめざしているようです。私の前に住んでいた金沢の末浄水場は古くからある浄水場ですが、名古屋市の鍋屋上野浄水場は明治に始まり日本の水道では老舗中の老舗です。いずれも緩速ろ過の方式で、近代水道100選に選ばれています。確かに東京、大阪と違い名古屋の水道水は不味くありません。

ビルの水道水はいろいろの理由で、いったん地上の受水槽に貯め、さらに屋上のタンクに貯めていましたが、最近は屋上のタンクを無くしポンプで各階に送る方式に変わってきています。名古屋市ではさらに地上のタンクも無くし水道管と直結を進めようとしています。もちろん高圧ポンプを間に入れるなど複雑に成りますが、水道水が滞留することは無くなります。配水場から各水栓までの時間が短くなれば、水道管内で温くなるのを避けれるだけでなく、滞留中の分解を見越して多めに入れていた残留塩素も低くできカルキ臭も減ります。また水道管を地中に埋める深さも深くして太陽熱の影響を避け、浄水場の冷たい水が各家庭に温くなる前に届く努力をされているようです。

ここで渋めの一言。金沢の水道水がおいしいのは、手取川ダムから取り入れた県水を買わず、市を流れる犀川の上流に水源があるからですが、名古屋市も水源はなんとはるか市の北の木曽川です。そこから途中、春日井市でいったん巨大な沈殿池で泥を沈め、延々と地中を通って浄水場に来ます。これが明治にできたのです。さすが尾張名古屋です。おいしい水の一番は、綺麗な水源にあります。河口堰から取水では無理です。

わが長野県、信濃町でも野尻湖など、隣の越後様との間に水利権問題があるようです。農家が田んぼに用水を引くことから、水力発電、水道水源など、水利権は複雑なよう。

[ 2015/08/20 ]  『黒姫高原理科教室』 NO34. 鍋屋上野浄水場

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NO35. ミョウバン

濁った水にミョウバンを入れると、にごりの成分が沈殿して透明になり、これを沸かして殺菌すれば飲めると、サバイバル雑誌によく書いてあります。食塩は、ナトリウムイオンと塩化物イオンが1対1でくっついた結晶でしたが、ミョウバンは塩化物イオンの代わりに硫酸イオン、ナトリウムイオンの代わりにカリウムイオンとアルミニウムイオンが混ざった2種類の金属イオンからできた結晶です。

化学の記憶のある方は、カリウムやナトリウムは1価、アルミニウムは3価と思いだしてください。電荷が多いアルミニウムは他のイオンと電気的にくっつきやすいのです。そのため汚れの細かい粒子は電気を帯びていてお互い反発して沈みませんが、アルミニウムイオンがあると中和され電荷が無くなり反発しなくなり、大きな粒子になって沈みます。

水道水の場合、一番きれいな水源は、信濃町のように塩素消毒だけで水質基準に適合します。緩速ろ過も、やはり薬品は加えず、すごくゆっくり砂の層を通し砂の表面に着いた微生物の力で汚れを除きます。急速ろ過では、原水にミョウバンではなく、同じようにアルミニウムイオンを含む硫酸バンド(バンはミョウバンのバン)やポリ塩化アルミニウムを加え、汚れを凝集、沈殿させます。

従来 水道水はここまでの処理方法でした。鉄分も最初はイオンとして溶けていますが、空気に触れると酸化して細かな沈殿に成り、凝集沈でんで除去できます。原理的には最初のサバイバルの方法と同じです。水道水の原水は本来、きれいな上流の水が対象で、工場排水などに含まれる化学物質は除去できません。

最近都会で行われている高度水道処理は、こうしたろ過だけでは除去できない成分を、化学処理で除去しようというものです。活性炭を使って、トリハロメタンなどの化学物質を吸着除去、重金属は従来の塩素の酸化力では不足なので、強力な酸化剤のオゾンで酸化することで水質基準にやっと合格です。本来は水源の水質が劣化したら、水源を変えるのですが、その代わりに化学処理(厳密には生物処理も含む)を加えたのです。従来より綺麗な水を作ると勘違いしそうです。

高度処理という紛らわしい言葉に似たものに、高速増殖炉という言葉があります。 使った燃料のウラン以上にプルトニウム燃料を生み出す夢の原子炉と昔言われましたが、高速と増殖は無関係。増殖が高速で進むようなイメージですが、冷却に水を使えない高速中性子を使う、の意味です。高度処理でもホウ素などは化学的に除去不可能です。水源汚染を無くすのが、本当です。

[ 2015/08/20 ]  『黒姫高原理科教室』 NO35. ミョウバン

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NO36. 温泉と塩素消毒

水道水と同じ塩素消毒は、プールでも行われています。海水浴と違い、カルキ臭がプールの記憶と重なっています。プールでは絶えず残留塩素を検出することが法令で決められています。銭湯の湯船の湯もプールと同じ水質基準です。温泉も循環式は銭湯と同じ基準です。最近、温泉なのにカルキ臭がしませんか?

70年代、アメリカの在郷軍人大会の会場で、エアコンの冷却水が汚染源で集団発生したので在郷軍人病と最初呼ばれましたが、その後レジオネラ菌が原因と分かりました。呼吸器感染をします。レジオネラ菌は、従来寒天培地で培養した一般細菌と違い、菌を培養するのに1週間以上、陽性を判断するにはさらに1週間かかるため、見つけにくい菌です。菌が陽性になると、ソラマメ臭というか、足の親指臭がします。

エアコンの冷却塔の冷却水中に見つかりますが、循環式の温泉のお湯の中にもいます。そのため、温泉の貯湯槽も塩素を入れるように決められました。水道水では一度浄水場で塩素を添加すれば、末端まで塩素濃度が維持されますが、熱湯ではすぐに塩素が分解するので、常に添加しないといけません。内訳話ですが、レジオネラの培養で、標準菌が無くなると、最寄りの24時間風呂に採集にいきました。

以前は無かった温泉の塩素消毒とは逆に、古い方は、学校のプールに入る前に腰洗い槽という湯船のようなとこに入った記憶がありませんか?プール水の10倍以上の濃い残留塩素で相当臭かったです。これはプールの水質基準でシャワーを浴びることに変わり廃止されました。0.1ppm程度の塩素はほとんど臭いませんが、無意味に高濃度の塩素を使ったため、塩素の悪いイメージが残りました。

多くの菌は塩素で滅菌できますが、中には塩素がきかないものがあります。クリプトスポリジウムという名を聞いたことはありませんか?これは河川などに住む原虫で、菌ではありません。塩素がききません。この原虫を検出するのは、レジオネラ以上に手間と時間がかかります。レジオネラやクリプトスポリジウムは昔から、身の回りに居たありふれた生物ですが、人類の免疫力が弱く成ったのでしょうか?クリプトスポリジウムの検査は、通常は直接検査せず、大腸菌が居ないとか、原水の濁りが無いなどの指標で判断しています。

[ 2015/08/25 ]  『黒姫高原理科教室』 NO36. 温泉と塩素消毒

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NO37. 水道管の破裂

黒姫に来た最初の冬の話しですが、山荘を閉める時に水道管の水抜きが不完全だったせいで、水道管の凍結、破裂をさせて春に修理代がたいそうかかってしまった。理屈では分かっていたが怖いものです。最近凍らせて売っているペットボトル飲料が有ります。でも、普通のペットボトルをフリーザーで凍らせたら、容器は破れてしまいます。凍結専用の水色のキャップの容器は中身が凍って膨張しても破れないよう丈夫にできているようです。

溶けたロウを固めて蝋燭を作った方は少ないかもしれないが、普通、金属やロウが固まると体積が縮みます。容器にちょうどすり切りいっぱいの液体が固まると縮んで表面が窪むのです。ところが水だけは反対です。すり切りいっぱいの水を凍らせると、表面が膨れます。このため水道管で冬に水が凍ると膨張して管を破ってしまうのです。実は水の温度と体積の関係にはまだ面白いことがあります。今では風呂は、蛇口からお湯を入れる御宅がほとんどでしょうが、昔は風呂は沸かしました。諺にもあるように、温まって軽くなった湯は上に貯まり、冷たくて重い水は下に貯まるので、対流が悪いとまだ底は水だったということが起こりました。

水だけで無く、液体は普通温まると膨張して軽くなります。逆に冷えると重くなります。池の水は水面から冷やされて、表面から凍ります。でも水は冷えると重く成るのなら、池の表面で冷やされた水は重くなって凍る前に底に沈み、底の温かい軽い水が登ってきて冷やされ全体が冷えて一気に凍るのでは?金沢の家に小さな池がありますが、中央の底に深い部分を作ってあるので、メダカは金沢の積雪の間、底で冬眠します。底は凍りません。

昔、比重を教わった時、4℃の水を1とした時の密度の比と習ったはずです。なぜ4℃でしょう?水は雪の結晶で分かるように、6角形の結晶を作ります。他の結晶は、ビー玉を容器に入れて振動させると隙間なく詰まるような結晶を作るので固体の方が体積が小さくなりますが、水は逆に6角形の結晶の方が液体より隙間が多く、体積が増えます。氷が水に変わるとこの結晶が無くなり体積が減り、さらに水が温まると体積が増えますが、この境目が0℃ではなく少しずれた4℃なのです。水は4℃の時一番重いのです。そのため池の底には4℃のメダカが凍らない水が貯まり、それより暖かい水も、冷たい水も上がっていき表面から凍ります。底の4℃の水は最後まで凍りません。

[ 2015/08/31 ]  『黒姫高原理科教室』 NO37. 水道管の破裂

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NO38. 海洋深層水

富山あたりのSAに寄ると、海洋深層水入りの食品を売っています。私の記憶では、各地で海洋深層水の利用が始まった頃、富山県では深層水が表層より冷たいことを利用した発電とか、汚染が少なくミネラルが表層より多いので養殖水に使う等でした。それがいつの間にか、クリーン(表層水よりクリーンでしょうが、水道水に比べたら細菌等で不適のはず)とか、ミネラル豊富を無知な経営者が勝手に解釈か、あるいは深層という言葉のイメージか、健康志向に付け込んできた様子でした。ついには飲料水まで。

冷静に考えてください。海水を飲めますか?漂流しても海水は絶対に飲むなです。(実際にはイオン交換樹脂を通して脱塩したり、水道水に添加したりしているようです。)深層という言葉も、海洋学で言う海底に近い、表層、中層、深層のことでは無いようです。

これも怪しいものですが、水道にトルマリンという鉱物のろ過材を使ったフィルターが在りました。トルマリンの結晶は水晶のような六角柱で、多くは黒色ですが綺麗な色の物は装飾用です。別名電気石と言う類似の鉱物は、ライターに使われているのをよく見かけます。マッチを使わない世代に成り、ライターの点火は以前は火打石をやすりで擦り線香花火の様な、ジッポ式でしたが、最近は電気火花を飛ばす方式です。

ここでスプリングで鉱物を叩くと高電圧を発生して電気火花を出す鉱物が電気石です。トルマリンの宣伝で電気を発生しとありますが、乾燥した空中で衝撃を与えた時や高熱をかけた時にしか電気(電位)は発生しません。普段はただの石です。このトルマリンや麦飯石、活性炭を使った水道用のろ過器が一時はやりました。

水中の成分を除くのに、電荷を持ったイオンはイオン交換樹脂で、電荷の無い有機物は活性炭で除くことができます。水道水の高度処理で、凝集沈殿では除けないトリハロメタン類を活性炭で除きます。イオン交換樹脂も活性炭も、飽和すればそれ以上働かないので、再生をします。

家庭用の活性炭のフィルタも最初は塩素など臭い成分を除去出来ますが、1か月も使っていると飽和して能力が無くなります。そうなると活性炭の粒子の隙間は、細菌の絶好の棲みかです。かえって細菌汚染の水を飲むことになります。活性炭は高温で焼くしか再生できません。麦飯石は活性炭ほど細菌の住みかになる隙間は少なく、トルマリンについては、ただの石屑です。凝集沈殿や活性炭で除けない成分はどうしたらよいのでしょう。ろ過をしても、水の分子は通過するので、水分子程度のサイズの成分は除けません。

蒸留すれば多くの成分は除けます。イオン交換樹脂でもほとんどの成分は陰イオン、陽イオンは除けます。医薬品用や半導体用の水なら採算が合いますが、水道水では水道代が高くなりすぎます。黒姫高原の深井戸からは、ホウ素を検出していますが、通常の処理ではホウ素は除けません。水源を変える方が安上がりです。

[ 2015/09/01 ]  『黒姫高原理科教室』 NO38. 海洋深層水

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NO39. 手取川扇状地

浄水場には緩速ろ過と急速ろ過がありましたね。サバイバル等で水の中にミョウバンを入れ、濁りを凝集させてから砂でろ過するのが急速ろ過。緩速ろ過のお手本は自然そのものです。雨水は落ち葉や土壌中の細菌の力で浄化されますが、この自然ろ過でも最近はトリハロメタン等が深井戸から検出されるようです

地中では、水を通さない岩石や溶岩の不透水層と、礫や砂の透水層が重なっています。不透水層を岩盤とも呼びますが、その下にまた透水層が在る事もあるので、紛らわしい呼び名です。地表から最初の不透水層までは、雨水が浸み込んだ水です。砂の層の中では空気の入った隙間に貯まって流れます。川の付近は川の水が浸み込んだ伏流水が地下を流れます。この層に井戸を掘っても、汲み上げないと水は出ません。

不透水層の下には上流から地下水が流れて来ます。この層の水は隙間に空気が無く水だけの為、圧力がかかっていて、ここに井戸を掘ると水圧で自噴します。前者を浅井戸、後者を深井戸と区別しますが、深井戸といっても不透水層が浅ければ浅い深井戸です。この区別より地中に浸み込んだ水には、空気が隙間に在る層と、水で充満した層が在り、この境界面が水面の様なので、これを地下水位と呼びます。地下にはこうした水面を持つ水の流れ、水脈が幾つもあります。

箱に砂を入れ傾斜させ上流から水を流すと、水の筋が川のように出来ますが、同じようにパイプに砂を詰め、傾斜させ水を流すと水は均一に流れるのではなく、砂の隙間を選んで幾つかの水の通り道を作って流れます。砂の隙間が崩れると、この水脈も変わります。黒姫高原の地下水もこうした水脈を流れますが、金沢の隣には白山から流れる手取川の扇状地が日本海の海岸まで続いています。この扇状地には手取川とその伏流水以外にも幾つかの地下水の流れが在り、それぞれ地下水位を保っています。手取川扇状地の地下を海岸の地下まで続く豊富な水量で、酒造りや工業用水に利用しています。

手取川の上流、白山山腹で山崩れがありその土砂が流れ、下流まで川水が濁ることがありました。上流の崩壊が収まるまで河川水の濁りが続き、中流では県水の取水口があるため、県の水道では連日、凝集剤を大量に投与したようです。下流ではアユや農業に影響が出たようです。扇状地は水はけが良いので、途中で川が無くなり全部伏流水と成って地下を流れる水無川になり、海岸部で再び地表に出て川に成る事も在ります。手取川は暴れ川と呼ばれる急流で水量が多く中流も水量があります。

それでも大量の地下水を取るため、扇状地では20m以上の井戸をいくつも掘っています。その井戸が最近急に枯れたのです。地下水位が急に下がったのです。影響は深刻で扇状地の地下水を水道水源にしていた自治体では、急きょ扇状地の上流に取水口のある県水を引きました。

おそらく濁流が続いたため川底に泥が貯まり、伏流水として地下浸透する流れが閉ざされたのでしょう。 地下水の水脈は幾つかあるので、ある地域だけ急に地下水位が下がったようです。黒姫山でも崩壊が起きています。黒姫高原の深井戸も水量不足に成った物が在るようです。汚染は人為的ですが、水枯れというか水脈が変わるのは自然現象のようです。


[ 2015/09/01 ]  『黒姫高原理科教室』 NO39. 手取川扇状地

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NO40. マルセイユ石鹸

化学では、水に溶ける化合物と、溶けない化合物の分け方をします。身近な水に溶けないものは油。この油を水に溶かすのが石鹸などの界面活性剤です。酢酸などの酸は水に溶ける代表。同じくエタノールなどのアルコールも水に溶けます。

この酸とアルコールを混ぜて酸を加え反応させると酢酸エチルというエステルができます。このエステルは油状で水にとけません。酢酸エチルは接着剤の溶剤にも使われ、例の匂いですが、果物の匂いもこのエステルです。このエステルはアルカリを加え加熱すると、もとの酸とアルコールに加水分解します。

3大栄養素は、糖質、たんぱく質、脂質です。脂肪ともいいます。最初の2つは水に溶け、脂肪は水に溶けません。脂肪は、植物油のように普段液状の油と、ラードなど固形の油脂があります。この脂肪もエステルの仲間です。脂肪酸と、アルコールの仲間のグリセリンが結合して出来たエステルで、加水分解という反応をさせると、もとの脂肪酸とグリセリンに分かれます。脂肪酸は酸と名がつきますから水に溶けますが、分子が大きくて、水に溶けにくく、油に溶ける性質も併せ持っています。この脂肪酸をアルカリで中和して水により溶けやすくしたものが石鹸なのです。水にも油にも溶けるので、水と油を混ぜる働きをします。

石鹸の作り方、加水分解反応にはいろいろありますので製品も多様。日本でもファンの多いマルセイユ石鹸は、オリーブオイルと地中海の海水だけで作ると言う宣伝も見かけますが、それは少し誇張で、アルカリも使います。地中海で採れたオリーブオイルに植物や海藻を焼いた灰、日本でもアルカリとして古くから使われています、を加え鍋で加熱して加水分解を起こし脂肪を脂肪酸に変え灰のアルカリ成分のカリウムで中和します。海水を加えると石鹸成分が析出します。

今の石鹸の工業製法では石鹸成分だけを精製しますので堅い石鹸ができますが、マルセイユ石鹸では分解して出来たグリセリンをそのまま残したり、反応(鹸化といいます)が穏やかで未反応のオイルが残っているので、柔らかな石鹸になります。(化学に詳しい方にお断り、説明のため鹸化を加水分解と中和に置き換えました)

工業的な製法では、油脂を完全に加水分解し脂肪酸に変えたのちアルカリを加え中和しますが、マルセイユ石鹸の作り方は穏やかな反応ですから、家庭で廃油を使って、オリーブオイルでやれば香り高いものができますが、お鍋で出来ます。カセイソーダを使う方法もありますが昔ながらの灰を使えばカリ石鹸ができます。

こうして出来た石鹸、脂肪酸ナトリウムは、細長い分子で、脂肪側は油に溶けやすい性質、酸側は水に溶けやすい性質で、これが水と油を結びつけます。油汚れを脂肪側にくっつけて水の中に溶かします。この時水中にカルシウムイオンがあるとナトリウムの代わりにくっついて離れなくなってしまいます。これが石鹸カスです。

[ 2015/09/02 ]  『黒姫高原理科教室』 NO40. マルセイユ石鹸

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