NO61-NO70

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NO61. 温泉と硬度

水道水、地下水の硬水、軟水についてはこのブログへの投稿でいろいろ書いてきましたが、あいかわらず余所様のHPを見ると、軟水が良く、硬水は悪いと思い込みされているものが多いようです。私自身は軟水の方がおいしいとは思いませんが、金沢で風呂に入ってシャンプーでなく石鹸で洗ったときにだけは、軟水の泡立ちの良さが快感です。

先週末、黒姫高原の御近所さんに誘われて、シーズン最後の紅葉(黄葉)見物に妙高高原の燕温泉に行き、黄金の湯という露天湯に浸かってきました。前の週は戸隠に紅葉を見に出かけましたが、標高700mの黒姫高原より標高の高い、1000mを超す戸隠、妙高高原は秋が早い。

北信五岳は北に行くほど新しい火山(戸隠山だけは火山でなく、海底が隆起したもので化石が出る)で、一番北の妙高山は隣の黒姫山のように火山灰の厚い層をかぶっていなくて、荒い姿です。周辺には温泉が多く、燕温泉も湧き出す湯量が多く、かけ流しの湯が崖から落ちて滝のようです。

燕温泉の黄金の湯は、乳白色で露天風呂の岩には白い炭酸カルシウムが析出していた。ところでこの白い湯の花と、岩に析出した白い結晶は別物です。温泉街は火山ガス特有の硫黄化合物臭がして、温泉水にはイオウが含まれています。少し青みがかった湯の花はコロイド状硫黄の特徴です。

イオウはいろいろな化合物になり、硫酸は酸化剤ですし、熱帯魚マニアが水道の塩素抜きに使うチオ硫酸は還元剤です。有害な火山ガスの硫化水素が還元すると固体の硫黄になります。硫黄の結晶は黄色い物もありますが、ここでは結晶に成らず細かなコロイド状で、特徴ある乳白色です。イオンではなく固体なので浸透圧はありません。

炭酸カルシウムの結晶が析出するお湯は、カルシウムイオンを多量に含むように思いますが、意外とカルシウム濃度は低いのです。炭酸カルシウムは大変、水(お湯)に溶けにくい性質です。だからこそ結晶が析出するのです。ではカルシウムはもともと、どういう形でお湯に入っているのでしょうか。

小学校の理科の実験で、石灰水(消石灰、水酸化カルシウム)に息を吹き込むと、白く濁ります。息の中の炭酸ガスのため水に溶けない炭酸カルシウムの細かな結晶ができたからです。二酸化炭素は石灰水を白濁させると覚えたでしょう。中学ではこの白濁した液にさらに息を吹き込むと、液がまた透明に戻ることを教わります。

水に溶けない炭酸カルシウムに炭酸がさらに加わると、炭酸水素カルシウムという水に溶ける化合物に変わるからです。ここでは追加した炭酸ガスは弱いけど炭酸という酸として働きます。水に溶けない炭酸カルシウムに酸を加える反応をさせたのです。

温泉水の中には、炭酸がたくさん溶けています。炭酸カルシウム鉱物を地下で溶かしたカルシウムイオンは炭酸水素カルシウムとしてお湯に溶けています。このお湯が湯船で炭酸が抜けると元の水に溶けない炭酸カルシウムになり、周りの岩の表面に析出するのです。

こうしてお湯の中のカルシウム濃度、つまり硬度はあまり上がらず、地下から供給されたカルシウムは結晶になってお湯から除かれるのです。炭酸カルシウムの結晶が鍾乳石の様に岩に析出した温泉は、硬度が高いとは限らないのです。酸性が強ければ炭酸カルシウムは逆に溶けてしまい、温泉の硬度は上がりますが、美人湯と呼ばれるアルカリ性ならカルシウムは溶けずに硬度は低いはずです。

露天風呂には、温泉で見かける分析表はありませんでしたが、帰り道通り抜けた温泉街できのこ汁を食べた時、店の壁に燕温泉の分析表が張ってありました。それによると、燕温泉はイオウ、ナトリウム、カルシウム、炭酸水素塩、硫酸イオン、塩化物イオンを含む中性の低張泉とのことでした。

小学校で井戸のポンプについて習います。最近の子供は井戸の手押しポンプを知らないでしょうか。今はレトロとなった井戸の吸い上げポンプは、物理の原理から10m以上の深さからは吸い込むことができません。それでは3階以上のビルの屋上のタンクにはどうやって水を送るのでしょうか。この時には吸い上げではなく、下から押し上げるポンプを使います。モーターで圧力をかけて押し上げるので、消防車のポンプ同様、圧力を上げれば高くまで届きます。電気代も上がります。

実はモーターを使わないで高くまで水やお湯を送ることができるポンプがあるのです。エアーリフトポンプと言います。きっと見たことがあるはずです。熱帯魚の水槽で水を循環させているポンプです。動力は魚が窒息しないようにエアーを送るエアポンプです。その泡と一緒に水をパイプの中で水槽の底から上に送るのです。この泡と一緒に水やお湯をパイプの中に送る原理で高い所まで上げます。

以前、山のふもとから頂上の建物までエアリフトで送っているのを見ました。これをモーターでやったら大変な費用です。しかしカルシウムの多い水でこのポンプを使うと問題が起きます。石灰水の実験を大規模にやっているようなもので、空気中の炭酸ガスでパイプの中でカルシウムは炭酸カルシウムのスケールに成ったり、逆に過剰の炭酸で溶けますが、パイプから出て炭酸ガスが抜けると、カルシウムの析出が再度起きます。その結果スケールがあちこちで析出します。

[ 2015/10/23 ]  『黒姫高原理科教室』 NO61. 温泉と硬度

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NO62. キレートとEDTA

コンビニで最近よくキレートという文字を見かけます。キレートレモンです。キレートとは、どういう意味でしょう。メーカーのHPによると、クエン酸の入った飲料水を指すようです。クエン酸は古くから梅干しの酸っぱい成分で疲労回復に効果があると言われています。ここでは、有機酸としてではなく、カルシウムイオンとキレート化合物を作る効果を宣伝しているようです。化学の立場から、キレート化合物やキレート結合を話します。

水中のカルシウムイオンは他のイオンと結合して難溶性の沈殿を作り邪魔ものですが、カルシウムはまたヒトの健康に必要です。水中のカルシウムイオンが石鹸などと結合して難溶性の沈殿を作るのを避けるために、カルシウムと結合しても水に溶けたままで、沈殿にならない化合物、トリポリリン酸などの薬品を洗剤に加える話を以前しました。

この薬品をキレート剤と呼びます。クエン酸もキレート剤です。カルシウムイオンは電気的にプラスの陽イオンです。硫酸イオンなどの陰イオンと結合すると中性の塩(エン)を作り水に溶けなくなります。石鹸も陰イオンですから同じように塩を作ります。こうした電気的にプラスとマイナスのイオンが結合するのをイオン結合と言います。イオン結合は水に溶けるとイオンはバラバラになります。

化学結合には、分子を作っている結合、酸素原子が2個結合して酸素分子を作るのや、炭水化物で炭素同士が結合してるのは大変強い結合で簡単には離れません。こうした結合を共有結合と呼びます。このイオン結合と共有結合の間の強さの結合があります。カルシウムイオンと結合しやすい構造の化合物があり、出来た新たな化合物はイオン状で水に溶けます。

この時、水中の元のカルシウムイオンは無くなるので、石鹸の泡立ちは消えません。カルシウムと結合した化合物は水に溶けているので、よけいな沈殿を作りません。こうして硬水中のカルシウムイオンを封じこめるのですが、発想を変えてみます。カルシウムイオンはヒトの体に必要ですが、水中のカルシウムイオンはすぐ難溶性の塩を作るので吸収できません。

薬局で炭酸カルシウムを売っていますが、これはカルシウムの吸収ではなく弱いアルカリ性なので胃酸を中和する胃薬です。水に溶けないのでカルシウムは吸収できません。カルシウム剤としては別に水に溶けやすい乳酸カルシウムがあります。

クエン酸はキレート剤としてカルシウムイオンとキレート結合をします。しかしクエン酸はまた酸として陰イオンになり、陽イオンのカルシウムと塩を作ります。できた塩のクエン酸カルシウムは実は水に溶けないのです。 硬水中のカルシウムイオンを封じ込めるのに古くはクエン酸やトリポリリン酸を使いましたが、その後シャンプーの成分表にはEDTAという化合物をよく見かけます。

エチレンジアミン4酢酸(EDTA)は大変よく使われているキレート剤です。カルシウム以外の金属イオンとも大変結合しやすいので、水中の金属イオンを封じ込めるため化学の世界ではなくてはならない化合物です。排水中の有害な重金属を封じ込めるのにも使われます。ヤカンの内側に付いた炭酸カルシウムの缶石を取るのにお酢などの酸を使いますが酸で金属も侵される心配があります。

EDTAを使えは酸ではないので安心です。こうしてEDTAは洗剤やシャンプー、歯磨きなど硬水対策以外にも食品添加物にも使われています。良いことだけではありません。こんな経験があります。EDTAは正しくはEDTA2Naといって2個のナトリウムが付いていますが、よく使う薬品なので、注文するときはEDTAで通用します。ところが同じEDTAには EDTA4Naと言ってナトリウムが4個付いたものもあります。またEDTAと書くと正しくはナトリウムの無いものを指します。前者はアルカリ性、後者は水に溶けません。

ある職員が、実験で使うため、EDTA2NaのつもりでEDTAと書いて注文して届いたのが本当のEDTAでしたが注文者は気付かず実験を行い、水に溶けず実験は失敗です。歯医者がフッ化カルシウムを注文したつもりで、劇薬のフッ化水素酸を知らずに使った事件がありました。フッ素剤という呼び名が業界で異なるのです。EDTAの安全性について書かれたHPでもこうした混乱があるようです。EDTAについても化学者はエチレンジアミン4酢酸2ナトリウムと呼びますが、一般にはエデト酸とか略しているようです。気をつけましょう。

[ 2015/10/23 ]  『黒姫高原理科教室』 NO62. キレートとEDTA

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NO63. 西堀栄三郎さん

以前居た実験室では、試薬を買うときは段ボールのケースで買いました。大きな検査機関ではまとめ買いで倉庫に保管は当然かと思ったら、意外と在庫を置かず、必要な都度注文しているようです。試薬の有効期限や予算、決済の都合もあるようです。ただ試薬は時々世界的に流通が止まってしまうことがあり、そんな時は困ります。在庫を置かないトヨタの看板方式の影響でしょうか。僕の場合は試薬の純度です。JISで試薬の純度は保障されていますが、それでも分析精度を上げると、同じメーカの試薬でも製造ロットが替わると微妙にずれます。そのため実験中同じロットを使うため箱で買いました。試薬は使う前に自分で純度を検定しますからロットが替わっても構わないのですが、安定していた方がやりやすいです。

試薬が切れたので実験延期とか、同業者に借りに行くなんて横で見ると、ある大先輩を思い出します。西堀栄三郎さんです。南極観測がまだ冒険だった時代の最初の越冬隊長です。本業は京都大学の化学の先生ですが、それより今西錦司さんや桑原武夫さんら京都文化人とか山岳家として有名です。 岩波書店から出ていた新書版の本の中で、越冬中のエピソードがあります。今のような大量の機材でなく限られた機材で越冬中、化学実験をやっていました。その時塩酸を使った実験をしたいのですが、塩酸がありません。その時先生は、硫酸と食塩を使って塩酸を作って実験したのです。

化学反応そのものは、大学入試の勉強で、硫酸と塩化ナトリウムが反応すると塩化水素ガスが発生することは記憶するはずです。ただ当時の化学者は試薬が無ければ自分で作るのがごく普通だったようです。なぜなら市販の試薬も純度が悪く、再結晶などで自分で精製してから使うのが普通で、あまり変わりなかったのです。 現在の、試薬は無くなったら代理店を脅して至急持ってこさせるのとは違います。 最初 西堀さんの南極越冬記を読んだ時は、化学者と言うより冒険家で、当時は越冬隊長は学者だけでなく冒険家の素質が必要と判りましたが、当時の化学者はみんなそんな苦労をしていて、工夫をしていたのです。

JISなどの分析方法を見ると、試薬の指定で、たとえばリン酸水素カリウムではなくリン酸水素カリウム12水塩とあります。溶かしてしまえば無水だろうと12水塩だろうと同じなのに、JISの製作者はどうして細かな指定をしたのかとおもっていましたが、ある時気づきました。若い子が硫酸銅を使って実験するのに、戸棚に無水のリン酸塩があったのでそれを使ったところなかなか溶けません。溶かすのにはしばらく撹拌しないと溶けません。 また、クエン酸を溶かし、苛性ソーダをpHメーターを見ながら加えることをしますが、JISでは最初からクエン酸ナトリウム塩を溶かすように書いてあります。化学反応が分からなくても料理本のように実験ができるのです。ただし料理本を読んで料理する時出るセリフ、材料が手に入りません、が問題です。料理本には材料が手に入らないときはかわりにこれを使えとありますが、実験書にはそこまで親切ではありません。

[ 2015/11/03 ]  『黒姫高原理科教室』 NO63. 西堀栄三郎さん

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NO64. 硫酸

前の記事で食塩に硫酸を加えると塩酸ができる話をしました。食塩の結晶に濃硫酸を加えると塩化水素のガスが出ます。このブログの最初の方に、蛍石、フッ化カルシウム、の所ではフッ化カルシウムの結晶に濃硫酸を加えるとフッ化水素のガスが発生する話をしました。あえて化学反応式に触れませんでしたが、フッ化カルシウムは硫酸の水素と反応してフッ化水素と硫酸カルシウムに成りますが、食塩の反応は硫酸の水素と塩化ナトリウムが反応して塩化水素と硫酸ナトリウムができるのではありません。硫酸ナトリウムはできません。

こうした化学反応は大学入試に出るので、たいていの高校生は覚えているようです。しかし自分で実験をしたことは無いようです。そこに問題があります。そうして成長した人達が書いたブログには結構見てきた様な嘘があります。食塩に硫酸を加え塩酸を作る実験では、バーナーで加熱する時危険が伴うので、多分化学教師がやるのでしょう、その時実験し易いので結晶の食塩と濃硫酸を使います。また蛍石、フッ化カルシウムに硫酸を加える実験でも気泡が見易いので、フッ化カルシウムの結晶に濃硫酸をかけます。生徒たちはそこで化学反応式を覚えさせられますが、そこに書かれた化学式の硫酸H2SO4には濃硫酸と希硫酸の区別は有りません。

ところがそこで教わった生徒はこの反応は結晶の食塩と濃硫酸で反応すると思い込み、将来ブログで、「食塩と書いてあるのに食塩水と思っている人がいます。」と、見て来た様な嘘に成るのです。もちろん化学反応式が分かっている者には食塩水でも反応することは判る筈です。どうやら教える方が良く化学反応式を理解していないので、見かけだけ教えているので、見かけだけ覚える様です。食塩と硫酸や、蛍石は、見て来た様な嘘のブログも在りますが、化学者が正しく説明したブログもたくさん在り、そちらを参考にしてください。

硫酸について少し話します。食塩 蛍石とも硫酸の酸としての性質を反応に使っています。ところで硫酸は他の塩酸、硝酸などの酸と違って濃い物はほとんど水を含みません。その為反応が少し複雑です。 高校化学では濃硫酸、希硫酸と区別しているようですが、どの濃度から濃硫酸でしょうか。 化学者は硫酸の濃度はモルや%で使いますが、あまり希硫酸とか濃硫酸とか言いません。 若い子に希硫酸は強い酸だけど濃硫酸は強い酸では無いと思っている方がいるので一言書きます。

以前 一般の市民の方に基礎科学を教える機会がありました。基礎科学と言うと周期表、原子価、酸と塩基と中和とか、あるいは溶かした時酸性の塩はどれとか、退屈です。少しでも退屈せず、分かったつもりでなく、理論が理解できるテキストを作ったつもりです。そこで酸について説明しました。硫酸や塩酸などの強い酸と酢酸、炭酸のような弱い酸があるのかの説明では、水中の水素イオンの濃度の説明だけでは、薄い塩酸の方が濃い酢酸より強い酸と言う説明ができません。塩酸の分子は水中でほぼ100%イオンに分かれるが、酢酸は1%しかイオンに成らないので100倍酸の強さが違うと言う説明で酸の強弱を若手もらいました。

この説明は一般相手なので出来るのですが、高校では文部科学省の指導要領の範囲外の学習は出来ないので、電離度pKaの説明は出来ないようです。水素イオンの濃度だけの説明では酸の強弱は理解できません。硫酸は濃くても薄くても同じ硫酸分子で性質は同じです。反応は変わって来ますが。濃硫酸は水割合が少ないので水素イオンの量も希硫酸より少ないですが、電離度pKaは変わりません。

高校化学の教科書は指導要領の制限があり濃硫酸の記載はできませんが(執筆の先生の苦労は読めます)高校教師は補足説明をすべきです。指導要領では濃硫酸が強酸の説明はできないので、希硫酸は強酸ですと書いてあり濃硫酸については触れません。これは大学でスーパー酸やハメット定数を習うまで無理です。そこで勝手に濃硫酸は強酸ではない、弱酸だと見て来た様な嘘に成る様です。 高校の化学の先生、もう少し資料を作って教科書の補足してください。もしかして先生が化学教科書教える以外解っていないのでは無いでしょう。

[ 2015/11/03 ]  『黒姫高原理科教室』 NO64. 硫酸

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NO65. 縞メノウ

海水が鉱物の中の結晶水から由来している話の時に結晶の再結晶の話をしたところ、再結晶の実験の質問がコメントに来ました。再結晶には、硫酸銅などの綺麗で大きな単結晶を作る実験がありますが、実際の化学の現場では、試薬の精製などで重要な操作です。結晶の話の続きとして、再結晶の話をもう少しします。

諏訪湖の近くの道の駅では、黒曜石を売っている話をしましたが、よく道の駅ではメノウの結晶を薄くスライスしてコースターなどにして売っていますので、縞メノウという鉱物はみなさん御存じでしょう。綺麗な色の輪が重なって縞状になっています。この縞メノウと再結晶がどう関係するのでしょう。

硫酸銅などの結晶を温めた水に溶かして飽和溶液を作り、ゆっくり冷やし温度が下がると溶解度も下がり、過飽和に成ったイオンが析出して再結晶が起こります。急激に冷やせば細かな結晶ができます。又、温度がゆっくり下がるように、あるいは温度は下げず、自然に水分だけが蒸発するようにして放置すると、大きな単結晶ができるはずです。

ところが温度を下げても最初、過飽和のままで、結晶が現れません。ガラス棒などで液の表面を触れると、そこから急に結晶が出てきま。結晶は核になるものが無いと成長しません。いったん成長すると、何も無い所よりも、先にできた結晶の表面の方が結晶は成長しやすいのです。このためいったん結晶ができると急に成長します。大きな結晶を作る時は、核になる結晶を先に糸で吊るします。

リーゼガング反応というものが在ります。たとえばクロム酸と硝酸銀の液を混ぜると、クロム酸銀の沈殿ができます。クロム酸溶液を寒天で固めて試験管に入れて置き、その上に硝酸銀の濃い液を少し載せると、硝酸銀は寒天の中をゆっくり浸透していきます。硝酸銀の銀イオンは寒天中のクロム酸と反応して黒い沈殿を作るはずですが、試験管は均一に黒くならず、縞模様になります。

クロム酸銀は飽和濃度以上に成れば結晶となって沈殿するはずですが、過飽和に成ってもすぐ結晶にならず、透明な溶液のままです。ところがいったん結晶ができている部分ではそれが核になって結晶が成長します。こうして硝酸銀が寒天の中を進むと、溶液のままの部分と結晶になって沈殿し黒くなった部分の縞状になります。

この実験を試験管でなく、丸いシャーレにクロム酸を固めた寒天を入れ、中心に硝酸銀をたらすと、周りに広がっていき、同心円状の輪ができます。これをリーゼガングリングと呼びます。中学などの化学クラブでよくやる実験です。もうお分かりでしょう。マグマが固まる前の溶けた鉱物の中で、メノウの成分がこのリーゼガング反応をおこすと、縞ができるのです。縞メノウ以外にも、輪切りにすると年輪のような模様の鉱物はそうです。

化学実験では、大きな単結晶を作るため、ゆっくり結晶を成長させますが、化学の現場では逆です。見かけがきれいではなく、成分がきれいな結晶を作る必要があります。精製です。ゆっくり結晶を作ると、他の成分も一緒に取り込まれる、共沈という事が起きるので、早く結晶させ細かな均一な結晶を作ります。純度の悪い試薬をいったん水に溶かして再結晶させて純度の高い結晶に再結晶させます。

温度による溶解度の差を使った再結晶では、温度は溶液全体が均一に変わります。一方、溶液にアルカリを加えて反応させて沈殿、結晶を作る場合、硫酸銅の飽和溶液にガラス棒を触れると、その周りから結晶が成長するのと同様、加えた試薬の滴の周りから結晶が成長し、均質な結晶になりません。温度のように液全体を均一にアルカリにする方法があれば良いのですが。

尿素という化合物は熱するとアンモニアに変わります。今、アルカリにして沈殿を作りたい溶液に尿素を入れておき、加熱します。温度は液に均一にかかりますので、全体にアンモニアが発生してアルカリ性に成り、細かい沈殿が液全体にできます。これを均一沈殿法と言います。御紹介しておきます。

[ 2015/11/05 ]  『黒姫高原理科教室』 NO65. 縞メノウ

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NO66. ワインの水割り

黒姫高原の地下水を原水とする硬水の水道水と、金沢の表流水が原水の軟水の水道で沸かしたお風呂を比較して、軟水の方がシャンプーの泡立ちが良いと前に書いたことがあります。ヨーロッパを旅行した日本人が、向こうでは洗髪すると髪がごわごわになるとよくブログに書いています。硬水のカルシウム成分が、石鹸が水に溶けないカルシウム石鹸を作るためです。

硬水でも洗剤をカルシウムに負けない量を加えれば洗濯の時泡立ちます。洗髪は2度洗いをすれば、泡立ちが良いです。子どもの頃、今の様に毎日シャンプーはしていなかった筈です。床屋に行くとシャンプーの時、泡が立た無いので、もう一度シャンプーされます。髪の汚れが凄いので洗剤が全部 汚れ成分と結合してしまったのです。2度目でやっと泡が出ます。硬水成分のカルシウムも同じです。二度洗いすれば綺麗に泡立ちます。

よく、軟水が優れていると言うブログを見ますが、石鹸の泡立ち以外では、どちらが美味しいどころか、硬水、軟水を区別する、きき水は難しいです。軟水、硬水の違いはカルシウムの濃度ですから、カルシウムの化学反応には差があります。しかしヒトの舌はカルシウム濃度のセンサーではありません。

よく日本酒は水が命で、硬水では仕込めないと言われます。ウイスキーも水が命。ではドイツのビールは硬水で作っているのでしょうか。御酒の中で、水を使わないで作るものがあります。ワインです。

昔は良い映画がたくさん在りました。フランス映画の数々、今でも名作は在ります。そしてフェリーニのイタリア映画。それを引き継ぐ『ニューシネマパラダイス』は、名作を挙げろと言われたら1番です。2番はフランス映画、『天井桟敷』。イタリア映画のネオリアリズムの名作に、『自転車泥棒』と『鉄道員』が在ります。どちらもよく似たシーンがあり、子供が父親を捜しに場末の食堂へ行き、ワインを飲むシーンがあります。

イタリアと言えば、トスカーナ地方のキャンテイワイン。昔はよく日本のレストランに、藁で包んだ独特の丸い赤ワインのボトルが吊るして在りました。一度このワインを飲ましてと言ったら、これは飾りですと言われた記憶があります。最近はこの藁のボトルは見かけなくなりました。普通のガラスのワインボトルに変わりました。

このキャンテイはどちらかというと高級な方で、映画の登場人物は安い白ワインを飲んでいました。鉄道員では、子供にも水で割って飲ませています。ワインはブドウだけから作り、水を使わないので、カルシウムはほとんど含まれません。そこに加えるのはヨーロッパでは硬水というより炭酸水、日本では軟水でしょうか。軟水を加えるのはただ薄めるような・・・。硬水は成分が複雑に成って薄める以外の効果が在りそう。

最近また白ワインを炭酸水で割ったカクテルが流行っています。日本では、ミネラルウオーターというと軟水が好まれるようですが、ヨーロッパでは(アメリカでも?)「ミネラルウオーターを下さい」と言えば炭酸水が欲しいということです。日本でミネラルウオーターを比較する時、硬水 軟水かと硬度を気にしますが、硬度は水の味に影響しますが、どちらが美味しいかは言えません。

人はカルシウム濃度を舌で測ることができません。しかし味の個性はそれぞれあります。一方 炭酸の濃度は美味しい水の要素の一つです。適度の炭酸の入った冷えた水は美味しい筈です。厚生労働省の美味しい水の基準にも、軟水 硬水の区別はありませんが、水温、適度の炭酸、臭いの項目は在ります。ミネラルウオーターを選ぶ時は、硬度ばかりでなく炭酸濃度を選んでください。

[ 2015/11/05 ]  『黒姫高原理科教室』 NO66. ワインの水割り

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NO67. もう一度水道とは

黒姫高原に週末だけの住民になり、そこで感じた信濃町の水道水について書き始めましたが、範囲が化学全体に広がってしまいました。そこで黒姫高原理科教室がHPに移行したのを機会に内容を黒姫の水道水や水についての話と、もう少し範囲を広げた化学の話にわけて進めようと思います。まずは水道水について。

毎回の記事の左上に載っているイラストについてお気づきでしょうか。天秤に載ってるのは水道の水栓(蛇口)とペットボトルです。水道水は危険だと言って、料理もペットボトルを使っていますと言う人が増えているようです。本当にそうなのでしょうか。水道水は美味しくない、と言う事と水道水は安全では無いと言う事の混乱があるようです。今までもこの内容について書いてきましたが、再度、水道水は本来安全な筈で、美味しく無いので人気をペットボトルに奪われたことを話します。

イラストにあるグラフが何か分かったでしょうか。これは黒姫高原の水道原水の陰イオン、陽イオンのイオンクロマトグラフィです。と言っても実際の測定データではなく、信濃町の水道のHPにある水道水質管理計画の検査データをもとに、イオンクロマトの波形に戻した物です。おいしい水や硬水、軟水について、実際の数値を元に考えましょうと言う事と、誰でもこうしたデータを読み方が分かれば利用できると言うことを言いたいのです。

インターネットでは、水道水やペットボトルについて、多くのHPやブログがあります。しかし多くは残念ながらコピペで作った、見てきたような嘘が多いです。せっかくおいしい水、安全な水に関心がありながら、自分で考える習慣が今の化学教育に無いため、どこかで発生した嘘が広がっています。

一方、偉い先生方のHPも正しいとは限りません。水道関係者の役人や、国立の研究機関の方が定年退職して私大の教授に成り、再度水道関係の学会の会長などに成り、講演などをされていますが、相変わらず退屈なだけで、解決に成りません。安全安心と言ってもテロ対策の話よりも水質の安全、それより美味しい事が問題です。

やはり元役人の発想から抜け出せない様です。逆に現場の方の、浄水場の職人の親方の様なエキスパートさんの方がおいしい水作りをやっていらっしゃいます。厚生労働省がリードして、おいしい水の数値化をしていますが、要は冷たい水が美味しいと言う程度のレベルです。

まずは水道水とは何かと言う所から話を再度始めます。 自動販売機が在ります。ペットボトルの販売機ではなく、カップ入りコーヒーが出る方です。機械に水の配管をつないで運転します。この自販機を設置するには、機械の中で水と材料を使って調理するので喫茶店と同じように保健所の許可が要ります。ビルでも業務用井戸と言って、自分の土地の地下水に塩素注入して飲料水にしている所があります。ビル管理法の対象で問題ありません。

しかしこれを自販機に使うには新たに水質検査を受け、合格証を添付しなければ受理されません。水道水が水源ならば書類は要りません。行政は水道水を売りたいのです。同じくビルでは、いったん水道水を受水槽に貯めてから使います。これも水道水が不味くなる理由ですが、法律上はいったん水槽に溜まった水道水は、水道法が適用されません。建物の所有者には、受水槽の水の管理責任が有ります。一方戸建の家では、勝手に水道管にボイラー等をつなぐ事はできません。必ず水道法指定の器具を指定の方法で接続しなければ違法です。

大企業や自衛隊などは、自治体の水道を引かず独自の水源を持っています。以前私が居た検査機関では、毎月航空自衛隊の基地に採水に行きました。構内に入る手続きは面倒ですが、法律で決められた採水です。実はこれらも、自治体ではないが法律上は水道なのです。

法律は、法律名の文字数が少ないほど上位の法令と言われています。筆頭はもちろん1字の憲法です。安全法が何とわめいても、憲法に負けます。治外法権的な3文字の自衛法も2字の水道法に従います。 2文字の水道法は、人の生活に基本的な法律です。ライフラインとして、水道の民営化はあり得ず、テロ対策を重視する役人もいますが、基本的だからこそ、水質やおいしい水作りが重要です。水道法の中には、水質検査(20条)や受水槽などの施設(34条)も含まれています。まずはこうした面から水道を考えてみます。

[ 2015/11/11 ]  『黒姫高原理科教室』 NO67. もう一度水道とは

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NO68. 上水道

上水道という言葉があります。水道を下水道と区別するため、丁寧に上という漢字を付けたような気がしますが、そうではありません。水道法では、規模により水道の名をつけています。(この名前の付け方がたいへんお役人的なので、今後出てくる名前なのでで混乱しないで下さい。)水道の規模を表すのに、給水人口というものを使いますが、あまり重要ではないので人口と思って下さい。

給水人口5001人以上の水道を上水道、それ以下を簡易水道と呼びます。さらに100人以下は飲料水供給施設と呼びます。これ以外に専用水道と水道用水供給事業があり計5種類です。いずれも水質基準で決められた水質の水を供給する水道です。

上水道、簡易水道、飲料水供給施設は規模の差があるだけで、供給する水は水道法で決められた水質基準に変わりはありません。ここが重要なことです。水質を保証する為には水質検査が必要ですが、大都市の上水道も、山間部の小さな簡易水道も同じ検査を毎月することに成っています。

業者の開発したニュータウンでも簡易水道にする為、水道組合を作り、水道完備を歌い文句にしたがりますが、水道の維持は儲かるものではありません。水道代が高いので、大規模小売店などでは自家用井戸を使う所が在りますが、これはビル管理法で水質基準が決められ、水道ではありません。

水道水とは、汚染した水を浄水場で化学処理で綺麗にして飲めるようにして供給する施設と考えている方がいるようですが、間違いです。水道は、綺麗な水源水にできるだけ手を加えず飲料水(工業用水ではありません)を供給する施設なのです。ですから、山間部の簡易水道は、水源がもともと綺麗なので集落の端にある水源ポンプ室で消毒をするだけで水質基準適合の飲料水を供給できるのです。

大都市の上水道でも、水源の汚染で名前ばかり立派な高度水処理をしていますが、これは普通より高度に綺麗な水という意味ではなく、普通の処理方法では飲めないので高度に処理してやっと飲める水という意味です。伊勢湾に注ぐ木曽川で、以前名古屋市は遠く離れた上流の綺麗な水源を昔から使っていましたが、水不足解消のため、周辺の自治体は河口堰に貯めた水を高度処理して使えと言う政治家がいましたが、水道関係者は許しませんでした。水道屋は水処理より水源を綺麗にすることが優先ということを忘れてはいなかったようです。

上水道は大都市に成ると大変大きな規模です。しかし数を数える時は、信濃町の上水道も名古屋市の上水道も1施設です。簡易水道では水源は1か所ですが、上水道では水源は複数というより多数あります。今まで別の自治体の別の上水道だったものが、合併で同じ名前の1施設に成る事があります。水道水の配管は電気の配線と違って一つのルートではありません。(以前は毛細血管と言いましたが、インターネット時代なので、インターネットの網と言えば判り易いので説明が楽に成りました。)

水道配管のどこかで工事をやっても、断水に成らない様に配管が網目のように成っています。水道水は、幾つかの水源から供給されるので、配管のどちらが水圧が高く、どちらに水道水が流れるかといった難しい数学を水道屋さんは必要としています。 同じ上水道と言ってもその中に複数の浄水場が在り、水質基準の範囲内ですが、地域によって水質が異なります。水源の水質だけでなく、古くからある広い土地を使った緩速ろ過の美味しい水の飲める地域と、急速ろ過や高度処理のまずい水の地域が同じ上水道の中にできています。

比較的小規模な信濃町の上水道でも、水源が幾つか在り、信濃町の水道は軟水ですと言うブログの管理人の住む地域と、私の住む黒姫高原のような硬水の地域が在る訳です。 名古屋市の上水道も信濃町の上水道も統計では1事業と成りますが、水質検査は水源ごとに行います。大都市では、大きな河川を水源として巨大な浄水場で処理を行い、水源としては1件ですが、たとえば信濃町では河川では無く地下水を水源としているので、井戸ごとに水質検査を行っています。地方自治体にとっては予算がかかる筈です。

大学や自衛隊等では独自の水道を持っています。専用水道と呼びます。費用の事だけを考えれば、大手スーパーのように、飲料水以外は業務用井戸ならタダ、飲料水は自治体の水道と契約が良いでしょうが、いずれも自治体の干渉を受けたくない施設でしょう。しかし水道なので、県の水道水質計画に含まれます。 最後の水道用水供給事業は主に県が行い、河川水を独占して巨大浄水場を作り、一般家庭ではなく市町村に水を売る商売です。市町村は自分の所の河川など、綺麗な水源を使ったあまり処理しないでも飲める安い水道が在るのに、ダム開発等でできた高い水道を県から買わされるのです。

[ 2015/11/11 ]  『黒姫高原理科教室』 NO68. 上水道

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NO69. スライム実験

黒姫高原に関わる水や鉱物の話をする予定でしたが、いつの間にか化学の範囲が広がり、再結晶の話では、高校生と思われるブログの読者からの質問がありました。 以前、毒劇物の講習会で基礎科学を大人相手に教えたことがあります。テキストを作るにあたり、まず前任者のテキストを参考に見ると、申し訳ないけどたいへん退屈な内容です。高校の化学程度の内容ですが、基礎化学の最初は、例によって周期表と原子価。K,L,M殻と電子配置と原子価の話ですが、s,p,d軌道の話まですると理解し易いが、難しく成るので出来ません。

続いて酸と塩基と塩。昔の化学の教科書はそうだったのでしょう、やたらと分類ばかり。1価の酸、2価の酸とか、溶かした時酸性の酸性塩、塩基性塩、中性塩の分類とかが前任者のテキストには延々と続いています。これではただでさえ退屈な基礎化学が眠くなります。毒劇物の講習会は他の法規は暗記科目。せめて基礎化学は化学の法則を考えて欲しいす。

そこで硫酸のような強い酸と酢酸のような弱い酸があるかを考えてもらうことにしました。前任者のテキストでは分類は細かくされていても、酸の解離などの化学平衡には触れていません。大人になって化学の仕事をするように成った時、溶かした時酸性かといった分類は役に立つ機会はありません。理屈が分かっていれば暗記は不要です。化学を専門にやるようになれば、分類より化学平衡、反応速度や化学反応のメカニズムが重要です。

希硫酸は強酸だけど、濃硫酸は弱酸だという若い人がいます。 高校の化学では、酸塩基の強さについては定性的にとか、あまり深く教えないように指導要領にあります。酸の強さは酸の解離度やpKaを使って定義します。硫酸という化合物は薄くても濃くても解離度は同じです。ところが高校で解離度は話さず、水素イオンの濃度だけで酸の強さを説明すると、希硫酸は強酸と説明できますが、水の割合の少ない濃硫酸ではうまく説明できません。そのため硫酸は強酸と書かず、希硫酸は強酸と書くと、いつのまにか勝手に濃硫酸は強酸ではない、弱酸だとなってしまいます。

教科書検定側は、間違ったことは書いてない、濃硫酸は強酸では無いとさえ書いてはいない、ただ触れていないだけだと言うでしょう。中には高校の化学の教師が補助教材で正しく説明しているとこもあるようです。 どうやら、文部科学省と予備校が社会では役に立たない受験化学を作っているようです。理科離れ対策のため、理論的なことを教えないようにして、実験を増やして興味を持たせている方向のようです。しかし理論をしっかり教えないどころか、あまり深く教えるなと指導すると、退屈な分類だけの受験化学になります。不揮発酸と揮発性酸の反応など受験でしか使わない言葉もあります。

理論より実験で興味を持たせるのも考えものです。僕の時代は大学で化学は実験科学だと教わりましたが意味が違います。実験をすると分かったような錯覚になります。 スライムの実験をよくやられています。ポリビニルアルコール(洗濯のり)と硼砂(ホウ酸ではなく、4ホウ酸ナトリウム)を使って簡単にできるので小学生レベルでも実験を擦るようです。幼稚園の遊びなら良いのですが、理科の実験としては何の役に立つのでしょうか。中には高校生の化学クラブでスライムの化学結合についての研究がありますが、たいていは面白いだけでしょう。

何かの化学反応を応用した実験を行い、興味を持たせるのなら、水素結合やキレーり構造を教えない高校化学ではスライムの説明は無理です。むしろ理科ではなく料理の時間にレシピの通りに作る教材です。炎色反応程度の実験では興味が残らないのなら、酸化還元で黒色火薬、ニトロ化の有機反応でピクリン酸火薬の合成をやったら興味が湧くでしょう。昔はこうした危ない実験をやって化学に興味を持ち成長してプロになった人も多いでしょう。

受験化学で成長して物作り離れで、機器のメンテも自分で出来ない若い子が化学の職場に来るように成りました。以前 チャイナシンドロームという映画で、原発の様子がおかしいのにコントロール室の記録計の針は安定しています。ボスから言われた操作員が針を叩くと、引っ掛かっていたのがとれ、急に異常値に跳ね上がると言うシーンがありました。こんな話が実験室で実際に起きています。HPLCでピークが出ませんというので、カラム室の扉を開けたらと言うと、カラムが漏れていました、です。

自動車学校では一応出発前点検を初日に教えますが、普段やる人はいますか?機器のメンテに来る私と同年齢のサービスマンは、機器に触れば不良個所が分かると言います。若いサービスマンは自動車のディラーと同じでパソコンにつないでログから不良個所を探します。機器分析ばかりの化学になりましたが、ここぞと言う時はまだ手分析のほうが優れています。

左上のイラストの中に在る、ルツボや中和滴定は最近使われなく成りましたが、まだ機器分析の値付けに必要です。後輩に誰かが伝えないと消えてしまいかねません。しばらく水以外の基礎科学をこちらで話していきます。

[ 2015/11/11 ]  『黒姫高原理科教室』 NO69. スライム実験

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NO70. 簡易専用水道

前回、水道の分類で、上水道、簡易水道、飲料水供給施設、専用水道、水道水供給事業の5種類があると話しましたが、水道法にはもう一つの種類があります。簡易専用水道です。しかしこれは水道ではありません。 マンションやホテル、ショッピングモールなどの建物の横などでよく見かける筈ですが、多くの水道利用施設では受水槽が在ります。この受水槽単独ではなく、この水槽から水栓(蛇口)までの施設を簡易専用水道と呼びます。

水道の配管はたいへん逆流を嫌います。間違って下水の配管を工事でつなぎ汚水が水道に入っては困ります。またボイラーなどの器具を水道管に直結した時、器具の不良でお湯が水道管に逆流しては困るので水道管に接続できる器具は水道法で審査に合格した物しか使えません。受水槽の場合、満水に成ったタンクの水が万一給水管に逆流しないように、受水槽に入る水道管はタンクに直結ではなく吐水空間を10センチ程度開けてあります。

みなさんの洗面台も該当します。流しが満水になっても水洗(蛇口)の先が水面より上に無ければなりません。それほど水道は水道水がいったん蛇口から出た元水道水と接するのを嫌います。したがって受水槽の吐水口から出た後は水道法は該当しません。ここから先は受水槽の場合は建築基準法やビル管理法が対応します。

これらの法律は施設の構造については規定があります。水質については、井戸水の場合はビル管理法に水質基準があります。しかし水道水を使っている場合、水道側はここから先は水道法は適用されませんので設置者が責任をもって管理して下さいですが、市民の感覚では同じ水道水を飲んで、井戸水より安全というか、戸建てもビルも同じ水道の感覚です。

そもそも受水槽はなぜ在るのでしょう。ビルの屋上にある高置水槽は、3階以上の水道の水圧では給水できない階に落差で水圧をかけ給水するためにありますが、受水槽の場合なぜいったん水道水に貯めるのでしょう。役人は非常時用に建物の1日分の水を確保すると言いますが、水道の断水よりポンプアップする電気の停電の方が心配です。

本音は水道料金でしょう。給水管の口径で基本料が決まるので、細い管でいったんタンクに貯めた法が安いのです。供給する方もピーク時の水量対応でなく、少しずつ年中取水してもらった方が設備が小さくて済みます。原発に似てます。 一度水槽に貯めるので時には前日の水を飲むこともあります。ただでさえまずい水道水がより不味くなります。このころマンションの受水槽の管理が悪く、水槽内にネズミの死骸があったりしました。

ちょうどそのころ業界選出の国会議員を通して、検査業界からもっと仕事と作ってくれと言う陳情もありました。そこで役人はうまい手を考えました。簡易専用水道と言う第6の水道を作り出し、施設の検査、水質検査を法令化しました。(水道法34条と呼んでいます)最初は受水槽の容量が20トン以上が対象でしたがその後10トン以上になりました。水道の水栓(蛇口)に活性炭などのフィルターを付け水を浄化する方法があります。浄水場ではこの方法は使いません。

水道水の水質基準適合の水を供給するのは浄水場を出た水ではありません。各消費者が水栓(蛇口)で水質基準の水を供給されることです。浄水場で消毒してだけでは、その後水道管の内部が汚染していて水栓(蛇口)に行くまでに細菌が繁殖していることがあります。水道水中に常に残留塩素濃度を確保して末端での細菌繁殖を防いでいます。この考えは正しいのです。最近 家庭用の浄水器の普及がありますが、美味しい水を飲みたいからと活性炭でカルキを除いた元水道水はすぐに飲まないと細菌が繁殖します。浄水器を付けたけどフィルターをこまめに交換しないとかえって臭い水を飲むことになります。

この水道水の安心が、平気で受水槽に溜まった1日前のまずい水を平気で飲むことに成ります。役人はまずくても水質基準に適合なら平気でしょうが、水道屋さんは最近学校などには受水槽を使わず直結を進めています。最近の少子化と水道水を飲まない習慣で、学校では前の週に溜まった水を飲むことに成りましたが、直結はすぐには無理でも受水槽の容量を小さくするのは進んでいます。10トン以下にすると簡易専用水道でなくなると脅しがあっても、ビル管理法で管理されています。

[ 2015/11/11 ]  『黒姫高原理科教室』 NO70. 簡易専用水道

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