NO71-NO80

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NO71. 水道水質管理計画

自分の飲んでいる水について、「ここの水は軟水」とか、中には「超軟水です」(化学的には使わない言葉です)と言う書き込みがあります。中には井戸水を自分で検査機関に出される方もいますが高額な出費です。カルシウム程度なら市販の簡易測定キットで測ることもできます。中古の測定機器をネットで売っていますが、個人で購入してガレージでラボを作っている方はまずいないでしょう。(個人的にはやりたいです)浄水場には昔は神と言われる技術者がいて水をコップに取り光にかざしただけで成分濃度が分かった話を聞きます。普通は水質の話は検査データをもとにすべきです。

水道水の場合、私たちが簡単に自分の飲んでいる水道水の過去や現在の数値を知ることができます。ここではそうした公開されたデータのある場所と、数値の見方を2回に分けて話します。水道法では、厚生労働省の管理下で各都道府県が水道水質管理計画を作成します。水道事業は県が直接行うこともありますがたいていは市町村の実体規模で水道事業を行っています。水道の維持管理、特に水質の管理は、水質検査をしなければできません。そこで水道法では定期、臨時の水質検査を事業者に義務付けています。大きな自治体も小さな自治体も同じです。県は管理計画の中で各水道事業者(自治体だけでなく専用水道などの民間も対象です)に毎年水道水質検査計画を作らせます。毎年2月に全水道事業者が県庁に呼び出されます。

ここで水道事業者は水源(水源井戸が複数あればすべてで測定)ごとに毎月の水質検査の計画をたて、計画と検査結果を公表するよう水道法で決められています。そのため誰でもホームページで見れるのです。長野県では自治体が運営する上水道、簡易水道、飲料水供給施設の水道事業以外に専用水道も可成りの数あります。これも県の水道のHPで分かります。大きなホテルや病院です。刑務所もリストにありました。(専用水道は簡易専用水道の受水槽が100トン以上のものも入るので、水源を持たないものもあります)

長野県の場合、奈良井ダムを水源とした水道用水供給事業(一般市民ではなく県内自治体にだけ給水)と県営上水道事業の二つを行っています。私が以前住んでいた石川県では、能登半島や能登島では河川や地下水が不足で水道の水源に不中していました。そこで県は1級河川の手取川に大きなダムを作り、水道水を市町村に売る水道用水供給事業を始めました。能登半島まで太い送水パイプを設置しました。おかげで能登ではそれまでの塩分の混じった塩辛い飲料水を飲まずによくなりました。とばっちりは金沢市などです。金沢市は犀川というおいしい水が昔からあるのですが、費用回収のため高い県水を押し売りされています。長野県の場合は野尻湖の水質悪化や水利権がかかわって奈良井ダムができたようです。どこでも水道は利権がかかわるようです。

私たちの住む信濃町でも水道水質検査計画はあります。信濃町には上水道と簡易水道があります。隣の市町村では河川を水源にしているので、浄水場で水の処理をしていますが、信濃町は水源が地下水で消毒をすればそのまま飲めるので浄水場はありません(簡易水道には小さなものがあります)信濃町上水道は主な水源を黒姫山の南斜面の弘湧水から採っていますが、私の住む黒姫高原は黒姫山の東斜面に水源があります。当然水源ごとに水質が異なるので水質検査は水源ごとに行います。こうした水質検査の結果は町のホームページで誰でも見ることができます。

ところで水質検査は誰がするのでしょうか。県や長野市などの大きな自治体には衛生研究所とかがあります。大きな浄水場にはりっぱな検査室があります。保健所にもかつては検査室がありましたが、小泉時代の規制緩和で、予算削減で無くなったとこが多いです。また公務員は移動があるため、試験室にベテランが育たないようです。水道法では水道水の水質検査をすることができるのは浄水場自身の検査室か、自治体の検査部門以外は水道法で認めた登録検査機関(20条機関)だけです。

自前の検査室は大きな自治体しかなく、県の研究所は行政検査で忙しく予算不足で身内のタダ働きはやってくれないので、小さな自治体では登録検査機関に検査を外注します。排水や井水の水質検査を行っている検査機関(計量証明機関など)は全国にたくさんありますが、水道法の登録には厚生労働省の精度管理や外部監査が厳しく(ISO取得はだめで、厚生労働省の決めた基準に合格が必要)全国展開している大きな検査機関が行っています。臨床検査などの業界と同じで、薄利多売の値下げ競争があるようです。

検査はこうして外部委託ですが、検査結果は町のHPで公表されます。そのためこのデータの読み方が分かっていれば、信濃町の上水道は弘法水源は軟水ですが、黒姫高原の水源はここだけ硬水です、さらにホウ素の濃度が高めなどが分かります。次の記事では水質検査のデータについて話します。

[ 2015/11/13 ]  『黒姫高原理科教室』 NO71. 水道水質管理計画

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NO72. 水道水質基準

お寺や神社に観光に行くと、手水舎に「飲めます」とか、「飲用不可」とか書いてあります。時には丁寧に「保健所の指導で飲用は出来ません」と書いてある事もあります。みなさんが近所の湧水が冷たくて美味しいので、「自分だけで飲むには惜いので」と、保健所(最近は保健福祉センターと呼んでいる)に相談すると、「飲用適否を検査して下さい。それまでは沸騰させてから飲んで下さい。尚、飲用適否の判断はどこの検査機関でもできる訳ではありません。必ず水道法20条の登録のある検査機関で受けて下さい」と言われる筈です。

そして20条の検査機関に電話すると、「水道の水質基準検査は51項目在り、料金は¥16万です」と聞いてびっくりするでしょう。でもそんなにお金をかけずに、飲んでも良いかだけ分かればよいからと話すと、「それでは業界で飲適試験と呼んでいる、井戸水の簡易項目でしたら¥1万で済みます。」と井戸水の検査業者と同じ項目をする事に成ります。そして「結果書に飲用適と記載できるのはうちだけですから」と言われるでしょう。簡易項目と言うのはほとんど細菌試験だけです。毎日飲む水道水で無いのなら、大腸菌が居ないのなら生水で飲める、大腸菌が居たら沸かして飲む、と言う判断です。

水道水では水道法で検査しなければならない項目が51あります。これを水道水質基準項目と呼び、51項目のどれかが基準値を超えると飲用できません。これ以外にも義務ではないが準じると言う項目があります。水質管理目標設定項目と言います。これは法律で義務ではないので基準値と言わないで目標値と呼びます。これが26項目あります。その中の農薬の項目には120ほどの農薬成分がリストにあるので実質は150項目近いです。さらに毒性がはっきりしないので基準値を決められない項目が要検討項目と呼び50項目近くあります。

最初の水質基準の51項目でさえ、水源ごとに検査するとたいへんな費用です。さすがに毎月の検査は難しく、年1回以外は、最初に測った時の数字が小さければ毎月の検査は一部省略出来る事になっています。それでも自治体にとっては水質検査の予算は大きいです。逆に検査機関から見れば、大きな自治体と水質検査の契約をすれば\100万単位の収入です。排水や井戸水の検査と違って、水道水の検査は全国規模の大手の検査機関にとって魅力で昔は談合もあったようです。

水道水質基準51項目について見てみます。51項目の中には残留塩素が入っていません。これは残留塩素が重要ではないからではありません。逆に水道法の4条と22条で残留塩素の最低濃度が書かれています。水質基準の項目を見る時には、最低限残留塩素と塩化物イオンの区別ができる必要があります。塩素原子が2個結合した塩素ガスと塩素原子1個が陰イオンに成った塩化物イオンは化学的に別物です。古い水道法では塩化物イオンと呼ばず、塩素イオンと呼んでいました。残留塩素は塩素。そのため高校の先生でも残留塩素と塩素イオンを混乱して、塩素イオンが入っている水は金魚が生きられないと、子供の化学の教材にまで書いてありました。

多くは理化学試験ですが、一般細菌と大腸菌は生物試験です。一般細菌というのは、全細菌数ではありません。細菌については、嫌気性菌、好気性菌と言った区別や、グラム陰性、グラム陽性と言った分類を聞いたことがあるでしょうが、細菌を培養する時の環境や、顕微鏡で見る時の染色法で分類します。水道法では、標準寒天培地を使って増殖する細菌の数を言います。後で出てくる従属栄養細菌や、レジオネラ菌はこの培地では育ちません。大腸菌が陽性な水は人や哺乳類の便からの汚染がある可能性があります。大腸菌は以前は大腸菌群を測りました。

当時の培養方法では大腸菌だけを培養するには培地を取り換えたりして採水してから1週間以上結果を出すのにかかりました。それでは汚染があった場合、素早い対応ができません。そのため大腸菌以外の土壌に住む菌も増殖する方法で翌日には結果の出る方法を採用しました。大腸菌だけではないので項目名に群と付けました。

今では、特定基質培地と言って大腸菌の分泌する化合物と反応して蛍光を出す試薬をつかい、1日で判定できるように成り、項目も「大腸菌」です。大腸菌にも多くの種類があります。以前話題になったO-157などです。水道法ではコレラ菌やペスト菌を判定するように大腸菌が毒性があるから検査しているのではありません。大腸菌が検出されたと言うことは、同じ人の便から感染する法定伝染病の可能性があるので予防しているのです。

51の項目には、本来水に含まれる成分と、汚染が無ければ含まれない成分があります。重金属や農薬などの本来含まれない成分は、水質基準の数値が見直される度に項目が増えたり、より小さな値まで測るようになってきています。このため水道の水質検査は基準値の見直しのたびに最新の検査機器の更新が必要になります。このため小さな自治体では自己検査ができず20条機関に外注になります。水に本来含まれる成分も重要です。水源の水質はあまり変動しないものです。水源固有の値が変わると水源に異常がある可能性があります。たとえば塩化物イオンが増え、一般細菌、大腸菌が出ているとどこかで下水の混入の可能性があります。各項目については、今後触れていきます。

[ 2015/11/13 ]  『黒姫高原理科教室』 NO72. 水道水質基準

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NO73. 中和滴定

車を運転していて、目の前のスピードメータと走行距離計にはどれくらい誤差があるか気になった。スピードメーターは実験室の測定器同様にアナログだろうと、デジタルだろうと表示が何桁出ていようと、タイヤの直径の誤差などが在り、±5%ほど誤差が許される。走行距離に似たものにタクシーのメーターがある。実はこれは計量法でしっかり決められている。0から6%の誤差範囲が許容されている。お金がかかわるのでマイナスの誤差はダメ。以前話した医薬品の増し仕込みと同じで、少し多めに調整です。タクシーは車検とは別に、計量法で定期的に県の計量検定所のローラーに載せて真値との誤差を測定します。(一応私は環境計量士です)と言うことは、走行メーターに10万キロと表示があった場合は、1000キロ程度は誤差ということか。メーターの表示がアナログか、デジタルかには無関係に扱っているもとのデータがここでは誤差を含む値だからです。

パソコンの場合は、扱っているのは誤差のない数値です。1と言う数字はぴったり1なのです。ただしパソコンで扱える数字の桁数には制限があり、同じデータを単位をmgで計算した時とgで計算した時で答えの数字の最後が異なることがあります。計算途中で小数点以下の桁が大きくなって制限の桁数を超えるのでパソコンが勝手に丸めてしまったのです。

円周率を何ケタも計算するときは、一気に計算せず、いくつかの数字の配列に分けて計算します。水道水質基準など、水質検査は検査項目が増えることもありますが、今まで検査対象でなかった微量成分の測定や、人の健康に有害な成分をたいへん低い濃度まで測る必要が出てきました。実際のところ、メーカーが新しい測定機器を開発したので、その機器で測定できる成分や微量濃度が測定対象になることもあります。こうした微量成分を測るため、検査機器の金額は\1000万は普通で、たいへん高額です。しかし検出感度と何桁測定できるかは別です。

水道水や排水中の有害物質の測定などでは、0.002mg/Lとか ppb,pptの単位が出てきますが、ゼロ以外の数字は0.0012とか2桁程度です。一方、医薬品や薬液の成分の測定では品質管理のために45.2%とか99.43%とか、桁数を多く求めたいのです。こうした測定を行う時に使う標準物質はどうやって濃度を決めるのでしょうか。今実験室にある機器分析と言われる機器は感度は良いのですが、求められる精度は3桁程度、有効数字3桁なのです。99.9%は分かるが99.99%は測ることができません。そこで使う標準液は99.9%を測るためには99.99%まで分かったものを使わないといけません。

ではこの標準液は何で濃度を決めるのでしょうか。学生実験でさえ今は中和滴定をやらなくなりました。ガスクロや液クロ、ICPなどの機器分析が中心で、ビュレットで行う手分析は時代遅れと思われます。でも中和滴定の方が1桁精度が高いのです。ビュレットを使った滴定では4桁の精度、電量滴定では5桁です。実験に使う特定の濃度に調整した塩酸などの標準液は滴定で値を決めています。ただし高校の化学実験とは感覚が違います。念入りに道具のメンテナンスをします。ルーペを使って、ガラスの内壁に小さな気泡が残って体積誤差にならないかとか、室温で天秤の浮力誤差が変わらないかなど気にします。 左上のイラストの滴定のグラフはこんな意味があるのです。

ところで学生実験でビュレットの目盛りをどこまで読み取りましたか?これは1mmの目盛の刻んである物差しをどこまで読むかと同じです。普通は目盛が1mmならその1/10まで読み取れることになっています。年寄りはルーペを使わないと読めませんので、実験室でルーペを使っていると年だと言われますが、目盛は若くてもルーペで読むものです。

[ 2015/11/13 ]  『黒姫高原理科教室』 NO73. 中和滴定

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NO74. 遊離残留塩素濃度と暴騒音規制条例

水道水では遊離残留塩素の濃度を水道水質基準ではなく、水道法4条で基準値を決めている話をこれまでにしました。末端の水栓(蛇口)で0.1mg/L以上となっています。ただし高すぎると臭いので1mg/L以下が望ましいとしています。昔は浄水場から一番遠い末端で基準値以上になるように残留塩素を濃い目に入れたので、浄水場に近い住民は臭い水を飲まされました。最近はおいしい水の考慮をする浄水場では、大雨の後などを除き0.3mg/L程度に管理されているようです。

ところで同じ水道法では、残留塩素濃度について0.1mg/L以外の基準もあります。マンション、学校などの水道は、一戸建ての水道と異なり、いったん受水槽に貯められた水道水、簡易専用水道だと言う話を前にしました。水道管に直結した水栓(蛇口)から出る水道水は、水道事業者に法的責任があり、遊離残留塩素の濃度は0.1mg/L以上なければならないとなっています。上水道、簡易水道、給水人口100人以下の飲料水供給施設や専用水道いずれもです。

ところが都会では多くの住民は上水道の水を直接ではなく、その流域内でマンションや学校、ショッピングモールなどの受水槽を持った簡易専用水道として飲むことが多いのです。この簡易専用水道は受水槽へ上水道の配管が入る給水口の10センチの吐水空間で境目があり、所有者の責任になるため、残留塩素の濃度は0.1mg/Lあること、と言う表現に変わります。

さらに水道法の施行規則では残留塩素を検出することと言った表現に変わります。ならないと言う表現では、基準値を下回ると誰かが必ず対応しないといけません。すること、と言う表現では下回ってもまあいいかになります。検出すること、では基準値以下でも出ればよいです。

受水槽に溜まった水道水は、滞留時間が長いと残留塩素が分解して消毒効果が低くなります。本来は水の需要量にあった容量のタンクにすることで、滞留時間を短くすべきですが、現実は前の週に溜まった水道水を飲むことがあります。水道法ではこうした場合を考え、末端でも最低、残留塩素は0.1mg/L以上必要としているし、この値を下回った場合は、使用者ではなく、水道事業者に残留塩素を管理する義務を持たせています。ところが簡易専用水道では遊離残留塩素の濃度は水道法34条の管理基準として 検出すること になっています。

具体的に簡易専用水道の点検基準では0.1mg/L以下でも適で、まったく検出しない場合だけ不適になります。このため簡易専用水道の検査では水栓(蛇口)から採水した水で検査をしても残留塩素が出ないことがあり、所有者にしばらく出しっぱなしにしますと断って放水し検査をします。それでも残留塩素が出ないと保健所に報告します。遊離残留塩素は同じ水道水でも、ふた通りの基準なのです。

水道水質基準は、基準値の7割程度の値で要注意、基準値を超えると飲用不適で給水できません。残留塩素はおいしい水を目指すためには障害です、また発がん性物質の原因となると言って反対する人もいますが、水道の安全性のためには必要です。それがこんな状況ではよいのでしょうか。

公務員の数字に対する意識の低さを示すよい例があります。福島原発以来、放射能の測定には、ベクレルとシーベルトがあることは世間によく広まりました。一方は放射線源の単位、もう一方は被爆の単位です。放射線を出す汚染源の規制と住民の受ける放射線被害の測定では単位も測定方法も異なります。このことを頭に入れておいてください。

話は変わりますが、騒音は騒音計を使ってデシベルと言う単位ではかります。騒音は計量法の単位であり、測定方法も計量法で決められています。騒音防止法などの法令で、航空機騒音などの騒音被害から住民を守ります。そのために騒音計で住民の受ける騒音を測定します。放射線でいえばシーベルトの方です。90年代に反原発のデモが今の反戦争法同様広まった時、暴力団の街宣車の拡声器の大音量を取り締まる口実で全国の自治体で、拡声器による暴騒音取締条例ができました。内容は、拡声器からの音を警官が10メートル離れ測定し85デシベル以上なら検挙できると言ったような内容です。

スピード違反の検挙のように騒音の測定は簡単ではありません。車のスピードは瞬間速度をドップラー速度計で測れますが、それでも計量法的には問題です。騒音など音はエネルギー量です。拡声器などの音源からのエネルギーを10メートル離れた地点で騒音計ではかります。この時横に別の音源があれば問題ですが、なくても音源の後ろに壁があると、そこで反射した音が加わり、届くエネルギーが倍になります。(騒音計では倍でなく対数倍)

このように騒音の測定は環境計量士でも難しく、測定方法は規制法ごとに細かく決められていて、警官が安易に騒音計を向けて測れるものではありません。もしデモ隊の拡声器の音量を10メートル離れて、一応計量法で正しく校正された騒音計で測定する時、デモ隊のむこう側に機動隊のバスを寄せて音を反射させれば、音源から出る音量は変わらなくても、騒音値はLog2倍になります。警官ならやりかねません。幸い暴騒音規制法は街宣車の検挙に使われましたが、こんなアホな条例は今は恥ずかしくて使えないようです。学校で航空機の騒音を測定するのは、航空機を罰するのではなく、教育委員会に防音窓の予算を出させるためです。民間の航空機のエンジンは静かになりましたが、戦闘機のエンジンはうるさいです。

[ 2015/11/19 ]  『黒姫高原理科教室』 NO74. 遊離残留塩素濃度と暴騒音規制条例

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NO75. 水道法34条登録検査機関

水道水の水質基準の適否を判断する検査は、水道法で浄水場や保健所、自治体の衛生検査試験所以外は厚生労働省の基準に合格した民間の検査機関(水道法20条登録検査機関)しかできないことを前に話しました。計量証明検査機関やビル管理法の検査機関や大学の研究室では水質基準の適否の判定を出せません。同様に簡易専用水道の法定検査も厚生労働省の登録検査機関しかできません。

水質検査については、排水などの高濃度の成分の検査とはちがい、水道水の検査は高いレベルを要求すると言うのは、こういう考えがあると言う理解はできます。しかし簡易専用水道の検査は、実験室での水質検査ではなく、現場での施設検査が中心です。すでにある法令で、ビル管理士などの資格者がいるのに、あえて新しく水道関係者に検査をさせるのでしょうか。ビル管理士は配管やポンプなどの施設を熟知しています。新たに加わった簡易専用水道の検査員はどちらかと言うと、従来実験室で水質検査をしていた人が多いです。検査の現場で問題があるように思います。

簡易専用水道の法定検査と言うと、簡易専用水道の水栓(蛇口)から出た水の水質検査と思う方がいます。確かに法定検査の検査項目には水質検査もあります。しかしこれは遊離残留塩素の濃度を確認するためで、まともに現場で実験室でのような水質検査はできません。施設の検査が中心です。簡易専用水道の施設とは、FRP製やSUS製、古いものではコンクリート製の地下式もある受水槽の構造や、インバーター式の揚水ポンプ、定圧弁などです。これを点検します。

簡易専用水道とは、受水槽の事ではなく、水道事業者から供給された水道水がメーターを経由して敷地内の受水槽に入るところから始まります。給水管には満水になると流入を止めるためのフロート弁や定圧弁が付いています。受水槽に溜まった水道水はポンプでいったん屋上などの高置水槽に上げます。屋上のタンクにもフロート弁や電極がついていて、タンクの水量が下がると揚水ポンプのスイッチが入ります。最近は屋上に重い水槽を置かずに揚水ポンプの水圧で直接各階の水栓(蛇口)に水を送ります。通常、揚水ポンプは2台が並んでいて、交互に作動します。

屋上にタンクがある時はポンプは1日に数分ずつ断続して数十回動きますが、直送の場合はどこかで水栓(蛇口)を開けるたびに作動しますので、従来のモーターのポンプでは焼けてしまうため、インバーターモーターを使います。またこうした配管では、急に水栓(蛇口)で水を止めたり、ポンプが停止した時に配管内の水の逃げ場が無くなり、圧力が急に高くなるウオーターハンマーという現象が起きます。これをそのままにすると配管がこわれるので、空気タンクを途中につけます。こうした配管の保守、点検は従来からビル管理士や配管技術者の仕事で、専門的な技術が要ります。

では、簡易専用水道の法定検査で施設の検査は何をするのでしょうか。私も若いころこの検査に従事したことがあり、ボールタップの調子が悪いと勝手に調整したり、この位置を10センチ下げれば容量が減り、法定検査の対象から外れるとよけいなことを話したり士とことがあります。通常、簡易専用水道の検査員は設備の検査と言いながら、メジャーと懐中電灯を持って、受水槽の下や内部が汚れていないかとか、配管の立ち上げが基準の寸法どうりかを調べます。

通気口に防虫網がないと厳しく注意しますが、もしビル管理士が立ち会って、専門的な内容、定圧弁の構造などを聞いたら、定圧弁の修理などしたことのない検査員は返事ができないでしょう。水道水を飲まずにペットボトルの水を飲む方の多くは、水質ではなく味で選ぶでしょう。普通の人は有害成分の判断はできないでしょうが、味はすぐわかります。受水槽に溜まった水道水は一戸建ての水道管直結の水栓(蛇口)から出る水道水よりおいしくはないでしょう。簡易専用水道と言う名称で水道と付く以上、差があってはおかしいです。

現状では、旧建設省系のビル管理法と旧厚生省系の水道法で同じ検査を行い、2重に手数料を取っている業界団体と思われてしまいます。簡易専用水道の法定検査は施設検査でななく、水道屋の得意な分野、たとえば末端で残留塩素が出ない場合の原因究明や、受水槽に溜まった水道水が何時間後に水栓(蛇口)から出るかと言った検査に変えおいしい水を飲むための検査になれば、検査手数料の\16000も高くはないでしょう。

[ 2015/11/19 ]  『黒姫高原理科教室』 NO75. 水道法34条登録検査機関

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NO76. 強酸性次亜塩素酸水

高速道路のサービスエリアのトイレに入ると、ここの水は安全安心のため強酸性水で洗浄していますと書いてありました。化学で強酸性と言えば塩酸や硫酸と言った強酸の水溶液でpH1程度の金属が溶ける濃度の酸を考えます。そんな強酸でトイレの洗浄をするはずがありません。昔は便器の尿酸を溶かすのに塩酸を使うことがありましたが、一般の方の居るエリアで劇薬を使うはずはありません。通常の水道水より効果があると言いたいのか、高い水を使っているのかは効果次第です。

強酸性水とは強酸性次亜塩素酸電解水の事のようです。最近、食塩を電気分解して次亜塩素酸水を作る機械の宣伝を見かけます。またこれで洗った野菜や食器は体に有害な成分が残らないと言います。本当でしょうか。また別のSAでは、このトイレはマイクロバブル水で洗浄と書いてありました。これはまた別の機会にします。

水道水の消毒に使われる遊離残留塩素の供給源として次亜塩素酸があります。遊離の次亜塩素酸は水中でイオンに解離して次亜塩素酸イオンになります。次亜塩素酸は名前の通り酸です。また塩酸のような強酸ではなく、酢酸のような弱酸です。弱酸は強酸と一緒だと遊離できません。そのため酸性が強い水溶液中ではイオンに分かれず遊離状態の次亜塩素酸分子になり、アルカリ性では遊離して次亜塩素酸イオンになります。残留塩素としての消毒の力はイオンより遊離の次亜塩素酸の方が強いのです。

ところが次亜塩素酸は工業的には苛性ソーダに塩素ガスを溶かして作るため、次亜塩素酸ナトリウムの塩の溶液の形で市販されています。アンチホルミンとか、ピューラックスと言う商品名の方が分かりやすいでしょう。この溶液中では塩が加水分解してアルカリ性です。そのためこの液を直接や、薄めて使うと次亜塩素酸イオンとして働くため、遊離の次亜塩素酸より消毒効果が低いのです。酸性の遊離の次亜塩素酸溶液は分解しやすいため市販品として使えません。

そこで目をつけたのが食塩の電気分解です。水の電気分解では酸素と水素が発生しますが、食塩水を電気分解すると酸素の代わりに塩素ガスが発生します。塩化物イオンではないです。塩素ガス(Cl2)はただちに反応して次亜塩素酸イオンになりますがさらに酸性の水素イオンがくっつき次亜塩素酸になります。これをその場ですぐに使えば、次亜塩素酸ソーダを使ったときの次亜塩素酸イオンより消毒効果の高い遊離の次亜塩素酸が含まれています。

こうして次亜塩素酸ソーダの薬品の代わりに、食塩を水に溶かして電気分解する装置を作り、電解次亜塩素酸水発生器として給食施設などを相手に売りだしました。次亜塩素酸は分解しやすいので、次亜塩素酸ソーダのように薬品として売ることはできないので、発生装置ごと売るのです。厚生労働省でも、食品の消毒用に、装置と一体で認可しているようです。遊離の次亜塩素酸は分解しやすいので、電解液だけを売ることはないはずで、必ず電気分解の機械と一緒なので、結構高額になり、個人が家庭の台所で使うのではなく給食施設用などです。

食塩水の電気分解を続けると、時間経過とともに出来た次亜塩素酸が分解して塩酸ができ、酸性になっていきます。厚生労働省の電解水の基準でも、微酸性、弱酸性、強酸性と区別しています。酸性が強いほど遊離の次亜塩素酸の濃度も高く、消毒効果が高いですが、一方で厚生労働省の基準では、食品の製造工程で電解水を使ってもよいが、製品になった時には残留してはならないとしています。

このように次亜塩素酸ソーダは薬品として保存性があるが、ノロウイルスなどの対策でより消毒効果の高い遊離次亜塩素酸を使うため、その場で電気分解で発生させる機械を売り出したはずですが、最近では容器に詰めた電解水を売っているようです。このあたりになると怪しい領域です。塩酸などの強酸に対して、次亜塩素酸は酢酸などと同じ弱酸です。強酸はほとんど遊離して水素イオンと酸のイオンに完全に遊離するのに対して、弱酸はあまり遊離しないので水素イオンを発生せず、酸の濃度に関わらずpH5程度です。ですから、次亜塩素酸水は弱酸性のはずです。

ところがHPなどで、強酸性電解水と言う商品を見かけます。弱酸性電解水より消毒効果が高いと言ううたい文句です。いったいどんな成分なのでしょう。メーカがあまり説明しないので代わって説明します。厚生労働省の電解水の基準でもpH1程度の強酸性水と言う区分があります。弱酸性の次亜塩素酸はどんなに濃度が濃くてもpH5程度です。pH1になるには塩酸が含まれるしかありません。となると答えは簡単です。食塩水の電気分解を長く続けると次亜塩素酸が分解して塩酸ができます。強酸性水とは次亜塩素酸と塩酸の混ざった液です。

メーカーが次亜塩素酸ソーダ液の薬品を使うより、安全な食塩と水だけを使ってその場で電気分解して次亜塩素酸液を作るとことを商売にした背景に、次亜塩素酸ソーダなどの塩素系の薬品と、同じくトイレの洗浄用の塩酸などの薬品を混合すると塩素ガスを発生して人身事故が起きたケースがあります。うっかりした使い方では、塩酸を過剰に加えたため有害な塩素ガスが致死量発生しますが、この強酸性電解水も次亜塩素酸に同じく電気分解でできた塩酸を混合しているのです。

ただ、バケツで混ぜるのと違い、計算量を混合しているので塩素ガスの発生が無いだけです。化学の知識のある方が、次亜塩素酸ソーダに計算量の塩酸を正確に加えたのと同じ反応です。一般の消費者の方には、塩素系と酸系の消毒液、洗浄液を混ぜるといけないと言いますが、分かっているものがやれば強力な消毒剤ができると言うのです。ただ強酸性水のメーカーだけでなく、厚生労働省の食品基準にも説明が無く、まさか売っている方も理解していないのか、魔法の水と言うイメージを持たせたいのでしょうか。【分類:塩素消毒】

[ 2015/11/25 ]  『黒姫高原理科教室』 NO76. 強酸性次亜塩素酸水

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NO77. スーパークロリネーション

前回の遊離残留塩素の消毒作用で一か所分かりにくいところはありませんか。特にこの記事の読者は水道関係者や化学系の方が多いでしょうから生物系の内容は私同様不得手でしょう。残留塩素の消毒の説明では、pHによって平衡がずれ、次亜塩素酸が遊離とイオンに変わることは水道の教科書にも必ず載っていて、化学屋には得意分野です。ところがその次に、遊離の次亜塩素酸は次亜塩素酸イオンに比べ、消毒の効果が高いと言う説明がありますが、化学系の方はこの理由が分からないと思います。化学反応では説明困難です。

化学屋にしてみたら、遊離の次亜塩素酸のような溶けにくい物を使わなくても、次亜塩素酸塩を使えば簡単に高濃度の次亜塩素酸イオンの溶液が作れるのに、この説明のために遊離の次亜塩素酸の方が良いと言って次亜塩素酸水が売れるのです。

医薬品の吸収の仕組みを考えます。医薬品が小腸から吸収されやすくするためには、その医薬品の成分とpHの関係があります。今 成分が有機酸などの酸や、酸の塩の場合、胃の中で成分は分子のままの遊離酸の状態と、有機酸などのイオンになった状態との平衡にあります。酸塩基の中和反応や酸の強弱で出てくるpKaと言う値が関係します。pKa(酸の場合はpKa 塩基ならpKb)はpHに似た値です。かなり略して言うとある酸のpKaが4と言うと、この酸はpHが4以下なら遊離状態で分子のまま、4以上ならイオンに遊離します。酢酸などの弱酸ではpKaは4程度、強酸の塩酸などは1以下です。

このpKaを受験化学では教えないので強酸、弱酸が理解しにくいようです。医薬品の成分でこのpKaが3.4の化合物の吸収を考えます。胃の中は胃酸で酸性ですが、たまたま胃酸不足でpHが4程度かもしれません。この時この医薬品はpKaの値が胃のpHより低くイオンに遊離しています。ヒトの小腸では粘膜を通り抜けて血液中に吸収されます。この時粘膜を通過するのは消化されて油のような微粒子になったものです。イオンより遊離の分子の方が粘膜を通過しやすいのです。そのためこの医薬品は胃の中でイオンに遊離しているので吸収されにくいのです。そこでこの医薬品の吸収をよくするためには、化学的に性質を少し変えてpKaが4.4になるようにしてやります。すると胃の中のpHよりpKaが高くなって、遊離の分子の状態になります。それでこの医薬品は吸収されやすくなります。

残留塩素が細菌に効果があるのも同じ仕組みです。細菌の細胞膜もヒトの小腸の粘膜も同じ原理です。細胞膜はリン脂質などの成分で出来ていて、油状の物質が膜の中を拡散して通り抜け吸収されます。受動的吸収と言います。電荷を持ったイオンはカリウムイオンなどの反対の電荷を持ったイオンをわざわざつけてやらないと通過出来ないので、エネルギーがよけいに要ります。次亜塩素酸分子が細菌の表面から細胞膜を通過して細胞内に吸収され毒性の効果が出ます。それで、次亜塩素酸イオンより遊離の次亜塩素酸の方が吸収されやすいのです。

遊離の次亜塩素酸のほうが効果が高いと言う理由を、医薬品の吸収から説明しました。しかし化学屋としては簡単に手に入る次亜塩素酸ソーダを溶かせば、いくらでも濃い溶液が作れるので、訳の解らない電解水や危険な塩素ガスの発生する酸性水より、良いと言う感覚です。電解水は食品添加物としても認可と言う宣伝を見ますが、製造後には残留させないことと言う但し書きがあり、これでは添加物とは言えません。厚生労働省には、化学平衡の解る化学屋より、医薬品や消化の得意な医療系の方が多いようです。

残留塩素には遊離残留塩素以外に、結合型残留塩素があります。水道法の水質基準では、残留塩素は遊離残留塩素で0.1mg/l 以上または結合型残留塩素濃度で0.4mg/l以上でもよいとあります。次亜塩素酸イオンや遊離の次亜塩素酸が遊離残留塩素にあたります。もう一方の結合型残留塩素とは何でしょう。次亜塩素酸が水中のアンモニアと反応するとクロラミンと言う化合物になります。クロラミンも弱いですが殺菌力があります。水道原水にアンモニアが含まれていると、遊離残留塩素と反応してクロラミンに変わります。遊離残留塩素が無くなってもクロラミンがあれば良いのです。ただし効果が弱いので最初に多めに次亜塩素酸を加えないといけません。原水にアンモニアの多い水源ではこの方法で、アンモニアも分解でき、結合残留塩素で消毒効果もあります。水質の悪い地域ではこうした方法での浄水場もあります。

私の記載では、あえて遊離残留塩素とかの名称は、塩素という省略形で書きません。業界ではいまだに塩化物イオンと呼ばず、塩素イオンと言う方もいます。フッ化水素酸もフッ素ガスもフッ化物イオンもフッ素と呼んでいる歯科医師がフッ化ナトリウムと間違ってフッ化水素酸を注文、患者に投与した事故の原因のように、塩化物イオンも次亜塩素酸イオンも塩素と学校の先生が呼んでいれば、生徒がいずれ事故を起こします。教師も含めプロこそ普段から省略しない長い正式名で呼ぶべきです。

結合型残留塩素による消毒効果は水道水以外に、プールや浴場でも水質基準になっています。これらは水道水よりもアンモニアが含まれる可能性が高いです。水泳プールでは消毒に投入した次亜塩素酸は遊離残留塩素のまま残らず、アンモニアがあれば、結合して結合残留塩素になります。これでも消毒効果があり基準合格です。プールでは泳ぐ人が多いとアンモニアが溜まり水が汚れてきます。細菌の消毒とは別の話です。

この時次亜塩素酸を大量に入れてやると塩素の酸化力でアンモニアを分解します。遊離残留塩素とアンモニアが反応してクロラミンと言う結合残留塩素を作る反応とは別のものです。アンモニアは分解しますが次亜塩素酸も消費して無くなります。アンモニアなどで汚れたプールに遊離残留塩素を大量に入れて、一晩置いておくとアンモニアが消え、高濃度の残留塩素も消えます。そこで消毒用にもう一度遊離残留塩素を少量添加します。こうした操作を高濃度塩素処理とか塩素の不連続処理と呼び、プールに藻が生えた時や、浴場にぬめりが出来た時に行います。通常スーパークロリネーションンと呼んでいます。同じ次亜塩素酸とアンモニアの反応でもクロラミンとスーパークロリネーションは別物です。

塩素に変わる消毒方法は紫外線殺菌やオゾンがあります。塩素は殺菌力が強いですが、そのため他の化合物を酸化してトリハロメタン類などの発がん性物質を作ります。それでも塩素だけが水道の消毒に使われるのは、水中に残留して消毒効果が持続するからです。この極端な例はプールです。水道水では塩素剤に次亜塩素酸を使いますが、学校などのプールでは塩素剤にイソシアヌール酸と言う化合物を使います。次亜塩素酸ソーダより次亜塩素酸カルシウムの方が溶けにくく持続しますが、イソシアヌール酸は水中で徐々に次亜塩素酸に変わりますのでより長持ちします。【分類:塩素消毒】

[ 2015/11/25 ]  『黒姫高原理科教室』 NO77. スーパークロリネーション

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NO78. フッ素とクラーク数

前回NO76の復習になりますが、弱酸と強アルカリの塩の次亜塩素酸ソーダと、強酸の塩酸を混ぜると弱酸の次亜塩素酸が遊離します。同様に弱酸のフッ化水素酸と強アルカリの塩のフッ化カルシウム(蛍石)に強酸の濃硫酸をかけると弱酸のフッ化水素を気泡が出ます。蛍石の鉱物の判定方法です。

食塩は強酸の塩酸と強アルカリの苛性ソーダの塩です。これに強酸の硫酸を加えると塩化水素(塩酸)を発生します。高校の受験化学ではこうした反応を、揮発性酸と不揮発性酸の反応として覚えさせているようです。そのため濃硫酸でなく希硫酸では反応しないとか、加熱しないと反応しないと言った誤解があるようです。受験化学は運転免許の学科試験のようにひっかけ問題です。

食塩と濃硫酸を反応させると塩化水素が発生とか、蛍石に濃硫酸をかけるとフッ化水素のガスを発生すると言う設問では、ガスが出るがひっかけです。蛍石に希硫酸では、反応して出来たフッ化水素は希硫酸中の水に溶けてしまい気泡になりません。ところが生徒は気泡を生じないことを反応しないと思ってしまうのです。そこで予備校は酸の強弱を教えるより、揮発性、不揮発性の酸として暗記させます。現場の化学では揮発性酸、不揮発性酸なんて使いません。酸塩基反応は酸の強さをpHの値で教え、遊離酸のイオンに解離の割合で教えないため、受験生は大学で正しい化学を習うまで混乱しているようです。

昔、中学の社会科でボーキサイトの産地を覚えました。 アルミニウムの精錬は、鉄鉱石からコークスを使い溶鉱炉で製鉄するのと異なり、原料のボーキサイトからアルミナを経由して最後は電気分解で行う。アルミは鉄より溶ける温度が低いですが、原料のボーキサイト(酸化アルミ)は鉄鉱石より溶けにくいです。この時、融点を下げるために氷晶石を加えると言うことを昔中学の理科でなく、社会で習った記憶です。実際には氷晶石を加えるのではなく、溶けた氷晶石にアルミナを溶かすのです。

今では氷晶石は資源枯渇でかわりに蛍石を使っている。Wikiには今でも氷晶石と書いてあるが。氷晶石も蛍石もフッ素の鉱物です。鉱物を溶かす時フッ素を加えるのは、フッ素樹脂でできたテフロンフライパンがくっつきにくいことから、フッ素が物とくっつきにくい性質があるので、溶鉱炉の中で滑りやすくなると言う説明のHPを見ましたが、間違いと言うよりアンサイクロぺデア物です。

フッ素は周期表で一番電気陰性度が高い、一番他の元素と結合しやすい元素です。テフロン樹脂が物とくっつかないのは、樹脂の中でフッ素が切れないので樹脂以外とくっつかないのです。溶けた鉱物中では酸素原子が金属とくっついて固まっているのを、フッ素が酸素とくっついて金属を動きやすくしてくれるからです。今回はアルミの話ではなくフッ素の鉱物の話です。

フッ化水素酸はガラスを溶かすため、産業に必要な薬品で、蛍石に硫酸を加えフッ化水素を発生させて製造します。蛍石は他にも製鉄で融点を下げるのにも使われます。アルミナ同様、フッ素が鉄鉱石の鉄と酸素の結合を切って代わりに結合します。酸素の手は2本、フッ素は1本なので結合が緩くなります。これを融剤と言いますが、化学で習う、氷に食塩を混ぜると凝固点が下がるモル凝固点降下は熱力学の原理で別物です。

薬品製造用と製鉄で溶かすのでは蛍石のグレードも異なります。この蛍石の資源も氷晶石同様枯渇してきています。フッ素のクラーク数は17ですが、鉱物中には比較的多く含まれる鉱物です。蛍石などフッ素を含む鉱物は多いのですが、製鉄用ではなく、フッ化水素酸の製造用の純度の高い蛍石の資源が減ってきています。現在 品質の良い蛍石は中国がほとんどの産地で、そのため工業原料に必要なフッ化水素酸は中国製が多いようです。

フッ素を原料にした製品は、フッ素樹脂や問題のフロンガスなどがあります。これらからのフッ素の資源回収はフッ素が周期表で一番結合しやすい元素と言う理由からバラバラにして回収は困難です。製鉄の融剤に使った蛍石はスラッグ中のフッ素廃棄物になります。フッ化水素酸そのものをガラス研磨に使い、フッ化水素酸が廃液に出ます。こうしたフッ化物イオンを含む排水からのフッ素の回収は実は容易なのです。

フッ素は他のものと結合しやすい性質。同じくカルシウムイオンも他のイオンと結合して難溶性の塩を作ります。この二つのイオン、フッ化物イオンを含む排水にカルシウムイオンを加えると世の中で数番目に難溶性のフッ化カルシウム(蛍石)の結晶ができます。

実際には、フッ素を使う工場排水に石灰(炭酸カルシウム)を入れてやれば、フッ素は蛍石となって沈殿します。従来この方法でフッ素を含む工場排水を水質汚濁防止法の排水基準、フッ素濃度8mg/l以下にしてきました。沈殿は産業廃棄物です。この沈殿はフッ素以外の成分を含んでいますが、再結晶の方法、蛍石の結晶を種に再結晶させれば純度の高い人口蛍石の結晶ができます。融剤には十分な品質です。これに別の工場で回収した硫酸を加えればフッ化水素酸を中国製の蛍石を使わず製造できます。

中国で、コストを下げるためにどんな環境で蛍石からフッ化水素酸を作っているかを想像すれば、こうした資源回収のほうが多少コストがかかっても良いと思います。しかしさらに考えると、資源回収できても、そこまでして今後もフッ化水素酸を使ってガラスのエッチングをしてスマホやタブレットを作る必要があるか?、安いリンの含有の多い鉄鉱石を使ってフッ素汚染のスラッジを出さずに、鉄はクズ鉄再生でリサイクルさせるのではダメかと思うこともあります。【分類:蛍石】

[ 2015/11/27 ]  『黒姫高原理科教室』 NO78. フッ素とクラーク数

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NO79. 岩塩と、にがり

長野県は、地質図で見るとさまざまな地質があり、たいへん良い地学の教材です。最近国立公園になった妙高戸隠連山でも、妙高山、黒姫山は新しい火山で、戸隠山は海底から隆起した山です。飯綱山、黒姫山、妙高山と北に行くほど最近まで噴火していた火山です。

その火山灰で塞き止めて野尻湖ができました。一方すぐ横の戸隠山は海底から隆起した地質なので頂上で化石が出ます。火山灰の積もった黒姫山や飯綱山のふもとは軟水の湧水ですが、深井戸の黒姫高原の水質は戸隠の堆積岩を含む地質から流れてきた硬水です。さらに南の木曽川流域には別の火成岩の地質があります。

JRの中央線の特急に乗って木曽福島付近の木曽川の渓流の横を通ると車掌が、車窓から寝覚の床の景色が見えますと言うアナウンスを国鉄時代からしています。木曽川に沿った花崗岩地帯が、川によって浸食、風化された、花崗岩の四角い箱が重なった様な独特の地形です。花崗岩はマグマが地下でゆっくり固まったので、構成する鉱物の結晶がたいへん大きいです。

地学で花崗岩を英語でグラニットと言いますが、粒状のと言う意味のこの言葉は、グラニュー糖と姿と発音までそっくりです。マグマが地表で固まった玄武岩や安山岩などは、結晶が急に冷えてできたので細かい結晶の集まりですが、花崗岩は個々の結晶が大きくて結晶同士の間が風化などで割れ易くなっています。安山岩の鉱物の結晶は顕微鏡でなければ見えないサイズですが、花崗岩の結晶は目で見えるサイズです。風化すると砂の粒になります。花崗岩は御影石とも呼ばれ、表面を磨くとゴマ塩の模様がきれいで建築に使われますが火に弱く、凝灰岩の大谷石が耐火性が良いのと対照です。

地下でマグマがゆっくり冷えて大きな結晶ができる様子は、食塩水をゆっくり蒸発させて大きな食塩の結晶を再結晶させるのに似ています。花崗岩の風化した粒子は岩塩にも似ています。

以前、軟水器について話しました。ボイラーに缶石が出来ないように硬水の水を軟水器でカルシウム分を除きます。ボイラー以外にも家庭でも使われています。この時、軟水と言うのは混じりけの少ない水と言う意味ではなく、カルシウムの多い水を硬水、少ない水を軟水と言うだけで、軟水器の作る軟水は硬水のカルシウムを食塩のナトリウムにおきかえていると話しました。できた軟水は原料の硬水よりもカルシウムを置き替えた分だけナトリウム濃度がさらに高くなっています。

この時軟水器を使い続けると再生が必要で、再生には食塩を使います。イオン交換樹脂に濃い食塩水(塩化ナトリウム)を流し、捕集したカルシウムをまたナトリウムに置き換えます。再生で出た排水には捕集していたカルシウム以外に、再生に使われず残った塩化ナトリウムも出てきます。

このように軟水器を運転、再生を続けると、再生に使った食塩水のほとんどは再生排水として出てきます。軟水器は軟水を作る一方で、食塩を大量に原料に使い、溶けた濃い食塩水を排水に出すので塩害の原因となります。大量に使うため、再生用の食塩には安くて純度のよい岩塩を使います。私も以前、実験室の軟水器にJTの食塩より安いので中国製の岩塩を使っていました。ここで言う岩塩とは、料理には岩塩が美味しいと言う方達の思う岩塩のイメージとはきっと違うと思います。

海水を煮詰めていくと食塩の結晶がまず析出します。残った海水には、にがりと言う成分が残ります。豆腐を作る時に使うにがりです。これは海水の成分の中で食塩(塩化ナトリウム)の溶解度がにがり(塩化マグネシウム)より低いので、先に飽和して再結晶するからです。塩(食塩と言うと塩化ナトリウムを指すので、食塩以外の成分も含む塩(えん)は塩(しお)と呼びます)の作り方はいろいろあって、イオン交換樹脂で塩化ナトリウムだけを取り出す方法が普通の食塩の作りかたですが、天然塩と言われる物は、海水を濃く煮詰めて食塩の結晶と残ったにがりを含む液にする物と、海水を水が無く成るまで全部煮詰めて、にがり成分も結晶させるものがあります。それぞれ味が違います。

こうした海水から作る海塩に対して、山で取れるのが岩塩です。太古の昔の海が干上がって蒸発してできた塩です。海水が蒸発するとき食塩が先に結晶し、にがり成分は結晶に成り難いため水に残って、雨や地下水で流されます。残った岩塩は製塩で作ったのと同様、純度の高い食塩です。わずかに混ざった不純物でピンクに成るのは、鉱物の結晶がいろいろな色をしているのと同じ仕組みです。鉱山や干上がった昔の海から岩塩の結晶を掘り出すこともありますが、実は多くの岩塩は土などが混ざっているので掘り出さず、穴に水を入れて塩水にして取り出し煮詰めて結晶にします。工業用の中国製の安い岩塩はこれです。

岩塩を原料にしていればサイズに関係なく、再結晶でも岩塩と呼びます。中国製の岩塩も再結晶した1センチ程度の結晶です。きれいな結晶なので天然物かと思いますが、岩塩は鉱脈として出るのでバラバラの結晶ではありません。再結晶の実験と同様、濃い食塩水から再結晶して作った工業製品です。岩塩とはミネラル豊富な大きな結晶で、削って料理に使うと言うイメージが変わりましたか?。海塩が手に入らない地域で料理に使うか、工業用に海塩より純度が良く安いから使っているだけです。【分類:鉱物】

[ 2015/12/07 ]  『黒姫高原理科教室』 NO79. 岩塩と、にがり

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NO80. ゼロ除算

酸の分子がイオンに分かれる平衡があります。 たとえば塩酸では HCl塩化水素の分子が、H水素イオンと、Cl塩化物イオンに解離します。この時分母にHClの濃度、分子にH と、Clイオンの濃度の積で表した値 [H]*[Cl]/[HCl] を酸の解離定数と言います。この値が大きいほど強い酸です。塩酸などの強酸は水中でほとんどイオンに解離します。分数で表わすと分子が大きな方が強い酸です。(実際の酸ではこの分数の値は、100000/1などと言った大きな桁の数字になるため、pHと同じように負の対数で表わします。pKaがそれです。酢酸などの弱酸では解離度Kは、1/10000程度なのでpKaは4, 塩酸などの強酸では解離度Kは、1/10程度なのでpKaは-1です)

このHPは化学に普段関わっていない方にも読んで頂けるように、化学式や数式があると敬遠して読んで頂けないので使わないことにしました。その為かえって化学的表現がややこしく成ったかもしれません。

ある液体中の酸性の強さは、酸の原因のH+ 水素イオン濃度すなわちpHを測れば良いのですが、酸性の強さは、その酸性のもとに成った溶けている化合物の濃度だけでなく、その化合物の酸性の強さで決まります。塩酸を溶かした液の酸性の強さは塩酸の濃度で決まりますが、同じ濃度の塩酸と酢酸では酸性の強さ、pHは異なります。

同じ濃度では、塩酸の方がpHが酢酸より低いです。これは塩酸の方が酢酸より酸の強さ、pKaが大きいからです。ところが今の学校ではpHは教えてもpKaを教えないので、濃硫酸が弱酸と覚える生徒が出てきます。基礎は教える以上しっかり教えないと大学に入ってしっかり勉強する人以外は一生勘違いで終わってしまいます。

数学でゼロ除算と言うことが在ります。分数で分母がゼロの分数、1/0 などは禁止です。 僕の記憶では、高校に入った最初の数学の時間に、分母に0を使ってはいけないと初めて教わりました。「分母に0を入れると爆発しますよ」と、言う説明でした。今考えれば上手い説明でした。その後いろいろな学校から来た相手に、1/0の答えを聞くと、無限大とかゼロとか解釈があるようです。教師から1/0 0分の1は0と習ったと言う人もいます。

少し数学が分かると、分母が小さくなると分数の答えはどんどん大きくなるので答えは無限大かと思います。でも無限大は数字ではありません。割り算の定義からは、0で割るという事は、ある数を0個に分けることは出来ないので計算できないから、分母に0は使えないが答えです。電卓(これも使わなくなったのでパソコン上のアプリでも)でも、0は使えませんと表示されるはずです。

化学に戻ります。塩酸の分子HClがイオンに解離して水素イオンH+と塩化物イオンCl-になる平衡です。水素イオンの濃度と塩化物イオンの濃度の積を分子、塩酸の分子の濃度を分母にしたのが解離定数です。pKa=[H+]*[ Cl-]/[HCl] 塩酸は強い酸なので、塩化水素の分子は、ほぼ完全にH+と Cl-のイオンに分かれます。しかし完全に全ての分子がイオンに解離することはありません。化学平衡は逆の進み方も同時に起きています。いったん解離したイオンがまた結合して元のHCl分子に戻るものもあります。

化学反応で A→B+C と言った反応がある場合 Aと言う化合物は完全にBとCに変わるのではなく、いったんできたBとCは一部は元のAに戻るのが化学平衡です。AがBとCに分かれたり、BとCが結合してAに戻る反応が絶えず進んで全体としてA,B,Cの割合が一定に落ち着くのです。もしAの濃度が完全に0に成ってしまったら、平衡定数の分母が0に成ってしまいます。これはゼロ除算で禁止です。化学反応では、一方の濃度が完全に0に成ってしまう、無くなる事はありません。反応して出来た物は必ず一部は分解して元に戻るので、自然界では濃度が完全にゼロに成る事はありません。そう言えばこの時化学平衡は完全に片側に進み一方の濃度が0に成らないと言う説明でも、偶然か、もし0になったら自然は爆発しますと言う説明でした。

話は飛びますが、自然は分母が0になるのを嫌うのをヒトの暮らしに当てはめてみましょう。文明の発達は加速的です。特に液晶や半導体。メモリーの容量は増加する一方です。どこまで増加するのでしょうか。発展には限界があると言う説もあります。スマホを使う人を分子に、使わない人を分母にしたら、この分数の値は加速的に大きくなっています。しかしもし分母が0になったらどうなるでしょう。爆発でしょうか。それとも0は禁止だから増加には限界があるでしょうか。【分類:化学】

[ 2015/12/07 ]  『黒姫高原理科教室』 NO80. ゼロ除算

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